猫学

「猫の繁殖期っていつなの?」猫の性周期の話

「猫の繁殖期っていつなの?」猫の性周期の話

この原稿を書いているのはクリスマスが終わった年の瀬もどん詰まり、大晦日までには書き上げないとと、汗、汗。なんでそんなギリギリまでと、これには事情があるのです。これまで何度かお話したかもしれませんが、大阪市獣医師会の子猫リレー事業で、生後2週間の子猫たちがわが家にやってきたからなのです。

いままで12月に、保護された新生児がやってくることはほとんどありませんでしたので、「猫の発情期っていつ?」という話が持ち上がりました。

猫は季節性多発情動物と言われています。日照時間が一定以上の長さになると繁殖期に入ると考えられていて、春先から秋頃の暖かい時期がこれにあたりますが、昨今の温暖化による猛暑で過酷な環境になれば、発情には至らないようです。

ならば春と秋の良い季節の間中発情しているのかと言えば、事はそう簡単ではありません。これから発情の周期の話をしようと思いますが、このお話の主役はメス猫。オス猫は、メス猫が発情しフェロモンをふり撒けば、1年中いつでも大声で鳴いて自分をアピールし、メス猫を追いかけます。すべてメス猫次第なのです。

そもそも猫は単独なわばり性の動物ですから、平時は繁殖相手であろうとなかろうと、なわばりへの侵入は許しません。けれども、ひとたび発情期になれば、なわばりの入り口にフェロモンの効いた尿をたっぷりとふり撒き、オス猫への誘惑メッセージを漂わせるのです。

その匂いに惹きつけられて、すぐにオス猫がやってきてくれることもあるでしょうし、複数のオス猫がわれ先にと駆けつけて大ゲンカが勃発するかもしれません。反対に、待てど暮らせどなかなかオス猫がやって来ないこともないとは言えません。このように、発情したときにいつ繁殖相手と巡り合えるか不確定な生活を送る動物では、発情期間中はいつでもオス猫を受け入れ、交尾の刺激によって排卵が誘発されるという進化を遂げました。このような動物を交尾排卵動物と呼びます。猫はその代表ですが、一方犬は、集団で狩りをしていましたので、妊娠適期には必ず傍らに繁殖相手がいるという生活ができる動物です。発情期になり卵胞が発育すれば自然に排卵が起こり、排卵の前後1日だけオス犬を受け入れるという進化を遂げました。このような動物を自然排卵動物と呼びます。

動物にはそれぞれ生きる術があり、それぞれに相応しい繁殖の仕組みが発達してきたのですね。その動物たちの末裔が現代社会で暮らしているのですが、繁殖の仕組みが出来上がった頃とはかけ離れた生活を送っているのが、今私たちが目にする、犬たち猫たちなのです。

特に猫たちは、単独なわばり性の性質は残しつつも、外では野良猫の集団が形成され、片や完全室内飼育の飼猫もいるという二極化が起きています。飼猫では不妊・去勢手術を済ませて飼育することが一般的になっていますので、この子たちは繁殖とは無縁ということになります。一方で野良猫の集団は、交尾排卵動物の集団とも言えますので、単独なわばり性を維持するための仕組みがそのまま大繁殖に直結し、その繁殖力は凄まじいことになります。

交尾排卵動物である猫の性周期について、もう少し詳しい説明が必要かもしれません。猫の性周期は、以下の3つの場合に分けて考えるのが良いでしょう。

  1. 交尾刺激がない場合
  2. 交尾刺激はあったが、妊娠不成立の場合
  3. 妊娠した場合

1.交尾刺激がない場合

発情前期1日以下
発情期6-7日
発情後期1-2週間

※このサイクルを発情期間中くりかえす。

2.交尾刺激はあったが、妊娠不成立の場合

発情期交尾刺激後50時間で排卵がおこり、この時点で発情行動は消失。
黄体期交尾刺激後40-42日は機能性の黄体が存在する、いわゆる偽妊娠の状態であるが、42-71日後に発情が回帰する。猫の偽妊娠は肉体的・行動的変化をほとんどともなわない。

3.妊娠した場合

発情期交尾刺激後50時間で排卵がおこる。この時点で発情行動は消失。
黄体期 (妊娠期)交尾後3-5日でプロジェステロンレベルが上昇しはじめ、11-23日でピークを迎かえ、60日目にはほとんど消失。着床は11-13日で、妊娠期間は約63日。

ひとたび発情期に入れば、ひたすら妊娠に向かってバックアップの効いたシステムになっています。三遊間のゴロをサードが逃してもきっちりショートが捕球するような万全の体制で、先の環境省のパンフレットにも納得というところです。

補足しておくと、近年の日本における飼育環境や世界的な温暖化の影響で、季節性という部分には変化が生じているようですし、交尾排卵という部分にも、約3割の猫で自然排卵している可能性が指摘されたりしています。

ともあれ12月6日生まれと推定される保護猫たちの妊娠が成立した時期は10月4日頃。お彼岸を過ぎて日が短くなり始めてはいるものの、「今年はまだまだ暑いくらいやったかな。」と、これからは12月生まれの子猫たちが普通になってくるのかもしれません。

哺乳瓶片手におせち料理というのも毎年になると辛いかなと思いつつ、この世に授かった命ですから、繋げるものなら繋ぎましょう! ドライフードを食べられるようになる頃には、心優しい里親さんの元で幸せになるんだよと、願わずにはいられませんでした。

(文責 吉内)


大阪市の南大阪動物医療センター

住所
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
営業時間
午前:9:00 〜12:00
午後:13:00〜15:00(水・土を除く)
午後:16:00〜19:00(水・土を除く)
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料550円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。
定休日
年中無休
最寄駅
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅
・・・エントリー・・・
「猫の繁殖期っていつなの?」猫の性周期の話
「猫の糖尿病治療は先ず飲み薬で」猫の糖尿病の話
「SFTSアップデート2024」の話
「猫アレルギーの皆さん、朗報ですよ!」の話
「Cattitude(猫に対する正しい姿勢)を向上させよう!」の話
・・・カテゴリー・・・
エキゾチック
ヘルニア
人と動物の関係学
内分泌
呼吸器
形成外科
循環器
感染症
整形外科
栄養学
歯科
泌尿器
消化器
猫学
皮膚科
眼科
社会事象
神経科
繁殖学
腫瘍学
行動学
診断学
遺伝
・・・アーカイブ・・・
2025年のブログ
2024年のブログ
2023年のブログ
2022年のブログ
2021年のブログ
2020年のブログ
2019年のブログ
2018年のブログ
2017年のブログ
2016年のブログ
2015年のブログ
2014年のブログ
2013年のブログ
2012年のブログ
2011年のブログ
2010年のブログ
2009年のブログ
2008年のブログ
2007年のブログ
2006年のブログ
2005年のブログ
2004年のブログ
2003年のブログ
2002年のブログ
2001年のブログ
2000年のブログ

院長コラム

VetzPetzClinicReport
Doctor'sインタビュー

・・・サイトメニュー・・・
HOME
診療案内・アクセス
施設案内
スタッフ紹介
よくある質問
協力病院
ドッグサービス
キャットフレンドリー
院長インタビュー
院長コラム
スタッフブログ
お問い合わせ
動物を飼う注意点
去勢・避妊について
ストレスについて
採用情報
新着情報
・・・手術について・・・
負担の少ない手術
手術の流れ
・・・犬の手術・・・
膝蓋骨脱臼、骨折
避妊、去勢手術
会陰ヘルニア
リハビリ
・・・猫の病気・・・
目(眼)の病気
口の病気
耳の病気
鼻の病気
呼吸器系の病気
消化器系の病気
皮膚の病気
癌、腫瘍
ヘルニア

・・・診療時間・・・

診療時間
9:00〜
12:00
13:00〜
15:00
16:00〜
19:00
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料550円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。

・・・所在地・・・

〒547-0016
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
tel: 06-6708-4111
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅より徒歩8分