猫学

「猫の血液型と血液型不適合」の話

「猫の血液型と血液型不適合」の話

2003年1月の本コラムで血液型の話」を掲載した頃は、来院する猫の大半が日本猫で、純血種の猫はごく少数派でした。コラムの内容も、猫の血液型についてはサラッと総論を記載するに留まっていました。

というのも、ほとんどの日本猫の血液型がA型で、輸血に際しても血液の型合わせはいつも適合で、クロスマッチングに重きを置いていたからです。

時代は流れ、アニコム損保調べによる「猫種ランキング2025」では、大きく様変わりしています。

確かに、現在来院している猫たちには日本猫が多いという印象は変わらないものの、スコやノルウェジアン、ラグドールなども少なくはなく、しかも日本猫と呼んではいるものの、洋猫との混血がかなり増えたような気がします。

Vrs Giger. Blood Type Incompatibility and Kitten Mortality. Summary prepared by Diana Craden. The Winn Feline Foundation Report 1997-1998

Pia-Maria von Gransbuch. Blood Groups Some Implications for Breeders. MaineCoon International Issue 18:2 p.12-13 1998

これらのパーセンテージは、猫の品種ごとに、おおよそのB型猫の割合を示しています。

この2つのデータを合わせれば、B型の割合が多い品種が増えていることになりますが、残念なことに、現在日本に暮らす猫の血液型を調査したデータは存在しません。B型が増えると何か拙いことが起きるのでしょうか。

猫の血液型は、猫の健康管理や医療処置において重要な要素です。また、特定の血液型の組み合わせによって引き起こされる新生子溶血という状態も注意が必要です。そこで、猫の血液型や血液型不適合のお話をしたいと思います。

血液型というのは、赤血球の細胞表面にある抗原の違いと、それに対する抗原抗体反応に基づいて分類されるものです。そして、猫の場合、同じA型、B型と呼ばれても、赤血球表面の血液型を決定する抗原は、ヒトとは全く異なった物質です。抗原抗体反応とは、外部から異物(異種蛋白)が入ってきた時に起きる防御機構の一つです。B型の猫は、自分自身の赤血球表面にB抗原は持っていても、A抗原は持っていないので、A抗原が何らかの形で体内に入ってきたとき、これを異物として認識し、抗A抗体を作ります。同様にA型の猫は、抗B抗体を作るのです。そして、これらA、B型抗原は、猫の赤血球表面だけでなく、実は自然界の中の色々なところに存在していて、たとえ猫同士の接触がなくても、猫は、いつのまにかそれらの物質に接触していて、それぞれ、自分にはない型の抗原に対して抗体を持つようになるのです。

そこで問題となるのは、抗原の強さです。A型抗原はB型抗原に比べると、とても強い抗原です。ですから、もしB型の猫(抗A型抗体を持っています)に、A型の猫の血液を輸血したら、激しい抗原抗体反応が起こり、その猫は死亡してしまいます。ところがB型の抗原はそれほど強い抗原ではないので、A型の猫(B型抗体を持つ)にB型の猫の血液を輸血しても、さほど問題は起きないのです。

赤血球表面にある血液型を決定する抗原が、ヒトと猫で違うように、血液型の遺伝様式もヒトと猫では違います。猫の場合、A型とB型の抗原遺伝子は同じ染色体上にあり、A型が優性、B型が劣性です。A型の突然変異でB型が出来たと考えられています。それぞれA型の遺伝子をA、B型の遺伝子をbとします。遺伝子型がAAでもAbでも、猫はA型の血液型を示します。血液型がB型になるのは、遺伝子がbbとなったときだけです。ごく稀にAB型(赤血球の表面に、A型抗原、B型抗原の両方が存在する)の猫もいるのですが、どうしてそうなるのかは不明です。(強いA型抗原の発現を抑制する別の遺伝子が働いているようですが、合理的な説明はなされていません。)

遺伝子型がAbの猫は、血液型はA型でありながらb型の遺伝子を隠れ持っていることになります。こういったb遺伝子を隠れ持った猫同士が交配すれば、両親ともA型であるにもかかわらず、B型の子猫が生まれたりするのです。

   Ab × Ab = ( 1 AA:2 Ab:1 bb )

野外で自然繁殖している猫たちの間に、ひそかにB型猫が増えていても、不思議はないというのが現状です。

話を新生児溶血に進めましょう。母子間の血液型不適合が問題になるのは、猫の場合、生まれて初乳(最初に母親が出す母乳で、そこには子猫を感染から守るために多くの抗体が含まれている)を飲む、最初の3日程度の間です。

生まれたばかりの子猫は、まだ腸の壁が完全には出来上がってないので、かなり大きな分子でも、消化酵素で分解される前に、腸の壁を通して、体内に取り込んでしまいます。したがって、初乳中の母親からの抗体も、そのまま子猫の体内に取り込まれます。生まれてすぐの子猫は、まだ自分では抗体を作ることが出来ませんが、こうやって腸から取り込まれるお母さんの初乳中の抗体によって、様々な感染から守られているのです。

この素晴らしい防御機構が災いして起こるのが、新生児溶です。様々な有益な抗体とともに、血液型を認識する抗体も子猫の血液の中に入ってきます。そしてB型の母猫とA型の子猫の組み合わせの場合、とても重篤な問題が起きてしまいます。つまりB型のお母さんの持つ抗A抗体が、子猫の腸を通過して子猫の血液中に入り、A型の子猫の赤血球に結合して破壊してしまうのです。

逆にお母さんがA型の場合、そのお母さんが持つ抗B抗体はそんなに強くないので、それほど問題は起こりません。母猫がB型の場合だけ、注意して、対処すれば良いと言うことになります。また、子猫の腸壁は生後3日を過ぎる頃から、大人の猫と同じように大きな分子は通さなくなります。つまり、母乳中の抗A 、抗B抗体もそのままでは吸収されず、消化酵素によって消化され小さな分子になってから吸収されるのです。そうなれば、これらの抗体は抗体として働くことは出来ず、ただの栄養源になるだけです。生後3日間をどう対処するかが、血液不適合を起こす可能性のある子猫にとっては、とても大切なのです。

新生児溶血が起きると、子猫にどんな症状が現れるのでしょうか。子猫は、生まれたときは元気でとても健康です。けれども最初の哺乳の数時間後から数日後に症状は現れます。授乳を続けるに従い、子猫はひ弱になり、落ちつきがなく、体重が減少します。特徴的なのは血尿、貧血、黄疸、そして尻尾の先の壊死です。この尻尾の先の壊死は、生後1~2週間で起こり、その原因は、尾の先端の細い血管が詰まって、血液が尻尾の先まで行かなくなるからです。そして、症状はだんだん重くなり、やがて子猫は死に至ります。

最も良いのは、血液型不適合を起こす可能性のある子猫には、大変でしょうが、生まれて最初の3日間を人工哺乳に切り替えることです。この初めの3日間をうまくやり過ごせば、その後、子猫達をお母さんの母乳に戻しても、元気にすくすく育っていくことでしょう。

ここまで、猫の血液型や血液型不適合についてお話をしました。B型の猫は、輸血を受けるにしても、母猫になるにしても、大きなハンディを抱えていることをご理解いただけたでしょうか。

「自分ちの猫は何型なんやろう」と気になった方もおられることでしょう。

猫血液型判定キットが利用可能です。

いざという時のために、知っているといないでは安心感が違うかもしれません。

(文責 吉内)


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