人と動物の関係学

「新型コロナとSFTS」ウイルス感染症の話

「新型コロナとSFTS」ウイルス感染症の話

今冬はインフルエンザの流行が早くから始まり、そこに新型コロナが混在して、悩ましい季節の到来を予感させます。

ここ10年ほどの間に、ウイルスによる感染症が私たちの生活を脅かすことが増えてきたように思います。新型コロナウイルスは世界的なパンデミックとなりましたし、SFTSウイルスの感染者数は年々増加しています。

新型コロナウイルスの本来の宿主動物はコウモリと言われていますし、SFTSウイルスではイノシシやシカなどの野生哺乳類が自然宿主と考えられています。

各々のウイルスによる、ヒトを含む動物の感染症を考えるには、ウイルスとは何者なのか、どのように生物の体に取りつき、そして増殖するのか、その仕組みを知っておく必要があります。

ウイルスって何?

  • ウイルスはとても小さくて、細胞ではありません。
  • 中身は「設計図(DNAやRNA)」と、それを包む殻(カプシド)だけ。
  • 細胞の中に入り込んで、乗っ取って増えます。
  • 自分では食べたり動いたりできず、生きているとも言い切れない存在。

ウイルスの増殖ステップ:細胞依存性の自己複製戦略

ウイルスは自己複製能を持たず、宿主細胞の代謝系・翻訳系を利用して増殖します。増殖過程は以下のステップに分類されます。

1.付着(Attachment)(くっつく)

  • ウイルス表面の糖タンパク質が、宿主細胞膜上の特異的受容体に結合。

2.侵入(Penetration)(入り込む)

  • エンドサイトーシス、膜融合、または直接注入によって細胞内へ侵入。
  • エンベロープの有無により侵入様式が異なります。

3. 脱殻(Uncoating)(殻を脱ぐ)

  • カプシドが分解され、ウイルスゲノムが細胞質または核内に放出されます。
  • RNAウイルスは細胞質で、DNAウイルスは核内で複製されることが多い。

4.複製と転写(Replication & Transcription)(コピーを作る)

  • ウイルスゲノムの種類(+鎖RNA、−鎖RNA、DNA)に応じて複製様式が異なります。
  • 宿主のRNAポリメラーゼやウイルス由来の酵素(例:RNA依存性RNAポリメラーゼ)を利用。

5.翻訳とタンパク質合成(Translation)(部品を作る)

  • 宿主のリボソームを用いて、構造タンパク質・非構造タンパク質を合成。
  • ポリプロテインの自己切断や翻訳後修飾が関与する場合もあります。

6.組み立て(Assembly)(完成させる)

  • 核酸とカプシドタンパク質が集合し、成熟したウイルス粒子が形成されます。
  • 一部ウイルスでは、エンベロープ獲得のために細胞膜との相互作用が必要。

7.放出(Release)(外に出る)(別の細胞にくっつきに行く)

  • 細胞溶解(lysis)または出芽(budding)によって細胞外へ放出。
  • 出芽型では宿主細胞膜由来のエンベロープを獲得。

新型コロナウイルスでは、ウイルスのスパイクタンパク質とACE2受容体が結合して細胞にウイルスが付着し、侵入が始まります。一方、SFTSウイルスは形質芽球で増殖することが分かっています。

各々のウイルスとヒトを含む動物の細胞に存在する受容体の付着し易さ、免疫の応答の仕方などによって、どのウイルスがどの動物に感染し、どの程度の傷害をもたらすのかが決まってきます。

新型コロナウイルスは、武漢のコウモリがこのウイルスの原型を保有していて、ヒトに感染してきました。おそらく鳥類には感染しませんが、多くの哺乳類に感染します。特に猫科の動物には感染しやすく、欧米ではミンク農場で感染が広がりました。飼い猫も感染しますが世界的にも死亡例は極めて少ないことがわかっています。一方ミンクでは致死率10%といわれています。動物園でもユキヒョウなどの猫科動物が感染しました。野生の鹿も感染しました。これらの動物の感染源はヒトである場合が多く、新型コロナウイルス感染症が発生した当初は動物由来感染症でしたが、その後は動物の立場からみるとヒト由来感染症になっていきました。新型コロナウイルス感染症は人獣共通感染症であると認識しておくべきでしょう。

一方、SFTSはマダニが媒介するウイルス性感染症であり、「獣医療関係者のSFTS発症動物対策について(2025年バージョン)」によるとネコ科動物に対して非常に高い致死率(約60%)、イヌでも40% の致死率と報告されており、ヒトへの感染源にもなります。特にネコは高ウイルス血症を呈する例が多く、ヒトへの感染リスクが高いと考えられます。一方、イヌでも2017年に徳島県において、イヌからヒトへの感染事例も報告されています。

SFTSはヒトと猫で重症化し、シカなどの野生動物では軽症もしくは無症状の経過をたどります。猫やヒトではSFTSウイルス感染後のウイルス量が多く、インターフェロンの効果よりもサイトカインストームが前面に現れてしまうことにより重症化しやすいと考えられています。シカのSFTSウイルスに対する抗体陽性率は20%以上と高いことがわかっています。その一方でSFTSウイルスのPCRが陽性となるシカは稀です。このことから、シカは無症状か軽症の経過をたどると考えられます。

SFTSウイルスに感染したヒトや猫では高齢なほど死亡するケースが多いことが知られています。このことは高齢であるほど体力が低下することで説明がつきますが、インターフェロンの産生能力の低下という側面でも説明できます。

新型コロナウイルスは人獣共通感染症ですが医療が主導してきました。SFTSも人獣共通感染症ですが獣医療が主導して対策を立てていかなければなりません。

メタゲノム解析が可能になって以来、糞便や尿に含まれるウイルスゲノムを網羅的に調査することが可能になり、新しいウイルスが次々と見つかってきています。けれどもそのウイルスがヒトや動物にどのような病原性を発揮するのか、もしくは何も悪さをしないのかを調査するのには、膨大な労力と時間が必要です。

一方で、ウイルスの変異(進化)は、自己複製を繰り返すたびに起き得ることと考えなければなりません。細胞に侵入して自分の複製を作らせ放出されたウイルスは2代目つまり子ウイルスですので、人ひとりの1度の感染の間に膨大な数の自己複製が繰り返され、代を経るという意味では、人の1代を20年とすれば、ウイルスの1代は一瞬で過ぎ去り、何万倍という速さであっという間にウイルスの末裔が現れることになります。当然、進化(≒変異)の速度はとてつもなく速いということになるのです。

変異が起きれば、感染性や病原性にも違いが現れてきます。たとえば、ネコの汎白血球減少症ウイルスは猫のみの感染症でしたが、そのウイルスが変異してイヌのパルボ腸炎ウイルスになったと言われています。

昨今の日本では里山が荒廃し、野生動物の居住圏とヒトの生活圏の境目がなくなる、いわゆるボーダレス化が起こっており、SFTSの感染拡大の一因となっていると言われています。これらのことを併せてて考えると、今後も新しい人獣共通感染症の出現は避けがたい事のように思えてきます。

クマ出没の問題も根っこは同じところにあるのではと感じつつ、地球環境を破壊し続けてきた人類の一員として、未来に向けて為すべきことを考え続けていきたいと思います。

(文責 吉内)


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