感染症

「猫伝染性腹膜炎(FIP)がアウトブレイクした!」の話

「猫伝染性腹膜炎(FIP)がアウトブレイクした!」の話

「猫伝染性腹膜炎ウイルスが、実は「猫伝染しない腹膜炎ウイルス」であったことは幸いだったのかもしれません。」という件(くだり)は、2015年12月の本コラム「猫伝染性腹膜炎(FIP)」の話に書かせていただいたものです。

話は変わりますが、人類と猫のかかわりを証明する最古の遺跡をご存じでしょうか。9,500年前に人間と猫が一緒に埋葬された墓が、地中海のキプロス島シルロカンボス遺跡から出土しています。

新石器時代のキプロスで一緒に埋葬された人間と猫の詳細写真(Science.orgより)

以来、キプロスの人とネコの絆の歴史は世界一長いと称され、キプロス島は地中海に浮かぶ猫の島として名を馳せているのです。

その猫の島に2021年1月異変が起きました。1頭の猫が猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症。以降、その発生数は増加の一途をたどり、2023年にはアウトブレイクといっても良いような状況になり、全島で100万頭いるとされる猫のうち30万頭が死亡したと推定されています。

「猫⇔猫」感染は起きないとされていた猫伝染性腹膜炎(FIP)が、猫から猫へと感染を拡げていったというのです。これは一体どういうことなのでしょう。

猫に感染するコロナウイルスを整理しておきましょう。

1)猫腸コロナウイルス(FECV)消化器に感染し症状もほとんど出ない弱虫コロナ

2)猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)致死率の高い肉芽腫性血管炎を起こす悪玉コロナ

このFIPVにはⅠ型ウイルスとⅡ型ウイルスがあり、自然感染の80~95%をⅠ型が占めています。Ⅰ型FIPVはFECVが猫の腸管内で変異をしたウイルスで、冒頭で述べた「猫伝染しない腹膜炎ウイルス」のことです。

II型FIPVはFECVと犬コロナウイルス(CCoV)のゲノムの組換えで生じたウイルスです。また、I型FIPVとCCoVの組換えによってもII型のFIPVは誕生します。

キプロス島の猫伝染性腹膜炎(FIP)のアウトブレイクでは、このII型FIPVが検出されたのです。これは、キプロスのII型FIPVが猫から猫へ感染することを示しています。つまり、II型FIPVも集団発生する感染症として認識する必要があるということなのです。

このII型FIPVのアウトブレイクはどの国でも起こる可能性があると考えられています。日本も例外ではありません。また、このII型FIPVが輸入感染症として国内に侵入するかもしれません。

幸いなことに、キプロスのアウトブレイクではモルヌピラビルなどの人の新型コロナウイルスで開発された抗ウイルス薬の効果が確認されています。今後の流行に向けた対応では、抗ウイルス薬を用いた治療や、地域猫の管理(避妊や去勢)、多頭飼育環境での衛生管理などが重要な課題となります。

日本においてもII型FIPVによる感染を監視しながら、新たな出現に備えておく必要があります。

猫腸コロナウイルスのことを「弱虫コロナ」と言ったり、猫伝染性腹膜炎ウイルスのことを「猫伝染しない腹膜炎ウイルス」と揶揄した自分が情けなくなります。どんなウイルスでも凶悪なウイルスに変身する可能性を持っていると肝に銘じておかねばですm(_ _)m

(文責 吉内)


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