行動学

「暖のとり方」の話

「暖のとり方」の話

  今日では、犬や猫たちを一つ屋根の下で暮らす「家族の一員」として迎える人が増えています。彼らと共に暮らすことで心の潤いや安らぎが得られ、また疎外感や孤独感から開放され、さらに動物を世話することで生きがいや責任感が生まれます。つまり、共に暮らすことによって、人も動物もより健康で幸福な生活をおくれるということなのです。

  そこで大切になってくるのが、動物たちを理解するということです。理解することで互いに我慢しあうようなことを極力少なくすることができます。食事についてもそうですし、住環境や行動、かかりやすい病気や人と動物に共通の感染症など、言葉を話せない、そして、ヒトとは異なる動物種の家族だからこそ、知っておかなければならないことも多いでしょう。
  今回はその第4回目として、動物の「暖のとり方」について考えてみましょう。季節は秋、そろそろ布団が恋しく起床を告げる目覚まし時計を憎らしく思う時節です。人は火を発見し利用することに成功した唯一の動物。照明に、調理に、暖房に、現代生活に火と関連のないものはほとんど見当たりません。その中でも「暖」をとることは生命の維持に直結し、焚き火に始まり、火鉢、炬燵、ストーブ、エアコンなどなど、世界中に工夫を凝らしその地に適した暖房が生み出されてきました。

  一方、動物たちはどうなのでしょうか。本来の野生にはもちろん暖房というものは存在しません。赤道直下の熱帯から極地の寒帯まで、求められる体温維持のためのシステムも様々で、その地に住む動物たちは見事なまでに進化の過程で環境に適応しています。

  それでは私たちと共に暮らす犬や猫たちはどうなのでしょうか。本来適応してきた原産地を離れ、今は日本で暮らしています。遺伝子はその原産地に適応したシステムの体を形作らせ、共に暮らす中で私たちの家庭環境に最大限の順応をしているというのが本当のところでしょう。メキシコ出身のチワワ君は寒がりで、冬になるといつもお母さんの布団にもぐりこんでしまうかもしれませんし、シベリア出身のハスキー君は冬になるとようやく活発な活動性を取り戻すに違いありません。

  家庭にいる動物たちの体温維持にもっとも関連しているのが被毛です。犬の被毛は長毛種ではダブルコートと呼ばれるアンダーコートとオーバーコートの2重になっているタイプ、シルキーコートと呼ばれるオーバーコートのみのタイプに分かれ、それ以外に短毛種、粗剛毛種があります。ダブルコートは寒冷地産に多く換毛期が春と秋にあります。それ以外の被毛には換毛期はありません。これらの被毛は人の衣服同様、エネルギーを消費して産み出された体温の喪失を防ぐために欠くことのできないものです。それぞれの保温能力に応じた暖房が必要といえるでしょう。

  それでは、体温そのものはどのように調節されているのでしょうか。恒温動物にとって体温の維持は生命機構そのものの維持と言い換えても差し支えのない大切な問題です。直接的には体温中枢がそれをコントロールしていますが、ひとつの生命体としての熱代謝を考えれば新陳代謝を調節する甲状腺ホルモンも大いに関連があるといえます。

  動物たちは本能的に生命を維持しようとしています。したがって寒冷を体が感じたときには、熱の喪失を抑え、熱源が傍らにあれば最大限それを享受しようとするのです。「うちの犬は寒がりでストーブの前に寝転がり、毛がこげてパンティングまでしているのにそこを動きません。」とか、「うちの猫はホーム炬燵の中から出ようとせず引きずり出してみるとアツアツになっていて、あわてて大量の水を飲みにいくんです。」などと、暖をとることにあまりにも執着しているという逸話には事欠きません。このように直接的な暖房器具をうまく使いこなすことのできない動物たちには、部屋全体の快適な暖房がもっとも適しているといえるでしょう。

  ちなみに、甲状腺機能低下症の犬では熱代謝が低く夏でも寒がります。真冬には部屋の中でも暖房がなければ凍死という恐れすらあります。また生まれたばかりの赤ちゃんは体温調節ができず常にお母さんにくっつくことで体温を維持しています。落ち着きのないお母さんの子は生後1ヶ月までじゅうぶんに保温に注意を払ってあげましょう。動物と共に暮らすときの暖房は難しいものですね。

(文責:よしうち)


大阪市の南大阪動物医療センター

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