皮膚科

「ニキビダニ」の話

「ニキビダニ」の話

 ニキビは青春の象徴かもしれないが、二十歳を過ぎれば吹き出物とか。しかし、昨今の化粧品、美容品のCMを見ているととてもそんな無責任な言葉は口に出せないほどに、様々なものが開発され、商品として流通し、ニキビがひとつ出来ても神経質に深刻に鏡をのぞきこむ現代若者像がうかがわれる。
 そんな時代であってもなくても、ニキビダニとニキビの関係にはデリケートな問題が含まれている。ニキビダニは別名毛包虫と呼ばれ、毛穴に寄生するダニの仲間で、すべての種の哺乳類にそれぞれ特異的に種分化したニキビダニが寄生し、ヒトではさらに分泌腺ごとに種分化したニキビダニとコニキビダニの2種が異なる部位に寄生している。その寄生率は100%といわれており、健康な皮膚からも検出されるのが普通だ。(現在知られている哺乳類は4千種、種分化したニキビダニは5千種といわれている。)
 問題はその実害についての評価にある。著しい多数個体のニキビダニがニキビに寄生していた場合、そうした寄生密度の高さがニキビをもたらしたのか、ニキビを引き起こす何らかの病変がニキビダニ寄生密度の高さをもたらしたのかを検証することは困難だ。一部の化粧品会社やマスコミなどのニキビダニがニキビなど皮膚病、肌荒れの原因との見方は、異常な過剰増殖が起きない限り実害のない現実と照らし、ほとんどすべての人に寄生するこのダニの不安をあおることになるという害のほうが多いように思われる。

 イヌのニキビダニの事情はどうだろうか。本質的にはヒトと同じだが、実害の出ている例数ははるかに多いように思える。ヒトもイヌもその実害は、副腎皮質ホルモン剤の使用や免疫不全を生じる疾患によってニキビダニの著しい過剰増殖が起こることによる。

 イヌの新生児にニキビダニの寄生はない。たいていは授乳中に母イヌから感染を受ける。免疫機構が十分に発達していれば何の症状もないのが普通だが、免疫機構が未熟な場合に全身性の皮疹を生じ、脱毛し、激しい皮膚炎を起こすことがある。しかし、成熟に従い免疫機構が十分に機能し始めると症状が消失していくのが普通だ。その間に増悪を防ぐための対症療法を続けていればよいということになる。(まれにだが、ニキビダニに対する免疫が欠損している場合には生涯にわたる治療の必要もあるのだが。)

 問題は、アトピー性皮膚炎やIBD(炎症性腸疾患)、喘息などで治療に副腎皮質ホルモンを必要としている動物たちや、甲状腺機能低下症で皮膚の新陳代謝が落ち込んでいたり、老齢で免疫機構全体のレベルが下がってきている動物たちだ。
 長期にわたる副腎皮質ホルモン投与や甲状腺異常、免疫の低下によってニキビダニの過剰増殖が起きる。アトピー性皮膚炎の悪化と思い込んでいたらニキビダニ症だったとか、高齢になってきたから薄毛になったと思っていたらひどい皮膚炎が始まり全身に広がったとか、本来なんら症状を出さないニキビダニが過剰に増殖し、唐突に暴れ始めるのだ。

 診断は皮膚の掻きとり検査で、おびただしい数のニキビダニが検出される。

 副腎皮質ホルモンの使用時にはなんらかの代替薬に切り替え、また甲状腺機能低下症であればその治療も開始し、さらにニキビダニ症の治療も始めることになる。

 ニキビダニ症の治療は疥癬症の治療と大きくは違わないので(共にダニの仲間なので)、「疥癬虫とMDR1遺伝子」の話を参照されたい。
ニキビダニ症の治療もイベルメクチン製剤が中心となるが、ニキビダニはアミトラズ製剤によく反応するため、軽症であればアミトラズ製剤の外用のみでも治療が可能だ。逆に重症の場合は、細菌の二次感染が激しく、抗生剤の内服が不可欠になる。またポドデモデコーシスと呼ばれる四肢端、特に指先の皮膚炎が激しいものは、イベルメクチン製剤の投与とアミトラズ製剤の外用を併用すべきで、完治は望めないことが多い。

 哺乳類とニキビダニはある意味で、太古より共棲してきたともいえる関係なのだが、はて、哺乳類にとってニキビダニとの共棲はなんらかのメリットがあるのだろうか。毛包上皮細胞を餌に生きているというニキビダニ、哺乳類の毛包をむしろ健全に保つ仕事をしていたりして、などと途方もない想像をめぐらせてしまう。いずれにせよ、またどんなことであれ、どうも過剰な増殖というのはよろしくないようだ。

(文責:よしうち)


大阪市の南大阪動物医療センター

住所
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
営業時間
午前:9:00 〜12:00
午後:13:00〜15:00(水・土を除く)
午後:16:00〜19:00(水・土を除く)
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料550円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。
定休日
年中無休
最寄駅
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅
・・・エントリー・・・
「人も動物も、カンピロバクターにご用心」の話
「猫はユリ、人はサプリにご用心:世界は腎毒性物質であふれている」の話
「ワクチンの進化は止まらない」の話
「ネコの涙の量は10秒で測る」の話
「ネコの尿比重はビーズに教えてもらう」慢性腎臓病の話
・・・カテゴリー・・・
エキゾチック
ヘルニア
人と動物の関係学
内分泌
呼吸器
形成外科
循環器
感染症
整形外科
栄養学
歯科
泌尿器
消化器
猫学
皮膚科
眼科
社会事象
神経科
繁殖学
腫瘍学
行動学
診断学
遺伝
・・・アーカイブ・・・
2024年のブログ
2023年のブログ
2022年のブログ
2021年のブログ
2020年のブログ
2019年のブログ
2018年のブログ
2017年のブログ
2016年のブログ
2015年のブログ
2014年のブログ
2013年のブログ
2012年のブログ
2011年のブログ
2010年のブログ
2009年のブログ
2008年のブログ
2007年のブログ
2006年のブログ
2005年のブログ
2004年のブログ
2003年のブログ
2002年のブログ
2001年のブログ
2000年のブログ

院長コラム

VetzPetzClinicReport
Doctor'sインタビュー

・・・サイトメニュー・・・
HOME
診療案内・アクセス
施設案内
スタッフ紹介
よくある質問
協力病院
ドッグサービス
キャットフレンドリー
院長インタビュー
院長コラム
スタッフブログ
お問い合わせ
動物を飼う注意点
去勢・避妊について
ストレスについて
採用情報
新着情報
・・・手術について・・・
負担の少ない手術
手術の流れ
・・・犬の手術・・・
膝蓋骨脱臼、骨折
避妊、去勢手術
会陰ヘルニア
リハビリ
・・・猫の病気・・・
目(眼)の病気
口の病気
耳の病気
鼻の病気
呼吸器系の病気
消化器系の病気
皮膚の病気
癌、腫瘍
ヘルニア

・・・診療時間・・・

診療時間
9:00〜
12:00
13:00〜
15:00
16:00〜
19:00
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料550円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。

・・・所在地・・・

〒547-0016
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
tel: 06-6708-4111
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅より徒歩8分