2008年12月1日
消化器
「猫の便秘」の話(その2)
以前に「便秘の話」シリーズとしてイヌ編とネコ編を掲載させていただいた。( Oct’04「便秘の話(ネコ編)」・Nov’04 「便秘の話(イヌ編)」 )
イヌで最も厄介な排便困難が会陰ヘルニアに伴う便秘で、ネコで最も難儀なのが巨大結腸症によるものという内容だった。ネコの巨大結腸症、特発性と呼ばれる原因不明のものが一番多く、部分的結腸切除術が選択肢の一つになることはお話ししていたのだが、骨盤骨折後の変形癒合によって二次的に起きる巨大結腸症についてはほとんど触れていなかった。ということで、今回はこの骨盤骨折後のお話をしてみよう。
骨盤は、多分、体を構成する骨としては、一番イメージしにくい骨かもしれない。腸骨、恥骨、坐骨の3つの骨が一体となって骨盤を形作る。3つの骨の合わせ目に寛骨臼という窪みがありそこに大腿骨の頭が納まり股関節を形成する。腸骨の寛骨臼とは反対側の端は腸骨翼と呼ばれ、へその左右で体の幅に広がり、脊柱の一番下の仙椎と関節して背骨を支えている。坐骨の寛骨臼の反対側は左右の臀筋群の中に収まりイスに座る時に体を支える坐骨結節となっている。そして左右の骨盤の橋渡しをしているのが恥骨で、へその下の方の骨のでっぱりが恥骨結合なのだ。骨盤は全体として筒状の立体構造をなし、腹腔臓器を受け止める大きな鉢のような役割も果たしている。
骨盤
犬や猫では交通事故や転落事故でこの骨盤を骨折することが多い。もともと筒状の立体構造をしているため、ズレの少ない骨折のことも多いが、腸骨骨折が最も多く、プレートでの整復を実施することになる。激しい事故では、腸骨、恥骨、坐骨のすべてに骨折が生じ、破壊的な複雑骨折を呈することもある。
この骨折が治るときに仮骨を生じ、より太い骨として機能を取り戻すのはありがたいことなのだが、骨盤という特殊な筒構造を有する骨であるがゆえに、事は単純ではない。骨盤の内腔には直腸や膀胱・尿道そしてメスでは膣が収まっている。
次のカルテはと手に取ると、日本猫のミー君、1歳半。便秘とメモ書きがある。早速診察室に入ってもらった。
「先生、何度もウンチをしようと頑張るのですが、お汁が出るだけで、便は出ません。」
「苦しそうで、ほんとにかわいそうなんです。」 と、お母さんは悲しそうだ。
「便が出ないのは、辛いですからね。」そういいながら、お腹をそっと触診する。 特発性の巨大結腸症ならとんでもない大きさの糞塊が指に触れるはずだが、それにしては年齢が若すぎるかな、などと考えながら、指に触れたのは、普通よりは大きいものの巨大とはいえない固い便の塊だった。
「今までに事故にあったことはないですか?」
と質問したが、答えは無いとのことだった。
「そうですか、レントゲンを撮らせてもらいたいのですが、よろしいですか?」
そう言いながら、看護婦さんにカセッテの用意をお願いする。
あがって来たレントゲン像には、変形癒合し内腔がひどく狭くなった骨盤が写っていた。お母さんに保護される前、子猫の頃に何らかの事故に逢い骨盤を骨折し、自然に治癒したということだろう。子猫の頃の骨折は骨の発育期ということもあり、多少のズレがあったとしても、多量の仮骨を生じて治ってしまう。それが骨盤であれば治癒と共に骨盤内腔の狭窄という厄介な問題を引き起こしてしまうのだ。
「お母さん。ミー君は保護される前に事故に逢っていたみたいですね。その結果、骨盤が歪んでくっついてしまい、便がうまく骨盤を通過できなくなっています。」
「なんとか便を砕いて出させ、その後、便の軟化剤でどうにか排泄を維持していこうとしても、結局ひどい便秘を繰り返し、半年くらいで結腸の神経節がダメになり、二次的な巨大結腸症に陥ってしまいます。そうなると、結腸はもう二度と元には戻りません。」
「結腸がまだ機能しているうちに、骨盤を拡げ、再建してあげる必要があります。まだ1歳半と若いですし、先は長いですから。」
「そんなことできるんですか?」
暗い顔をしていたお母さんの目に明るさが戻る。
「変形してぶ厚くなった恥骨を切り取り、幅が狭くなった骨盤を広げるために坐骨を切り離して拡げ、その間に移植するのです。」
「川又先生という先生が考案した方法ですが、骨盤の拡大効果という意味では最も優れた方法と考えています。」
恥骨切除後
こんな説明をし、手術の日程を決め、かくしてミー君は広い骨盤腔を取り戻すことが出来たのだった。
術後10日目、抜糸の日にミー君はやってきた。
「どうですか、ウンチの方は。」
と尋ねると、
「はい、ずいぶんと楽に出ています。しばらく歩行に差し障りがあるかもとお聞きしていたのですが、全然ふつうに走り回っています。本当にありがとうございました。」
とお母さん。
「良かったですね。ウンチの苦しみは日々のことですから、何よりです。」 話をしている傍らで、本当に楽チンになったのだろう、ミー君は大きなあくびをしたかと思うと、居眠りを始めたのだった。
(文責:よしうち)
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