2009年1月1日
人と動物の関係学
ヒトのアレルギーの話
明けましておめでとうございます。本年も本コラムをよろしくお願い申し上げます。
新たな年を迎えたとはいえ、世は金融危機からの景気低迷にあえいでいる。経済システムの混乱は大変な問題なのだが、それとて世界最古の貨幣「貝貨」が殷王朝時代すなわち紀元前1600年頃からのもの、3500年ほどの歴史しかない。それなりの曲折は当然なのかもしれないのだ。
一方、私たちが健康に生きていくためのシステムには2億年以上の曲折がある。そのシステムにも混乱が生じ、急激にその数が増大している。花粉症や喘息などのアレルギーは20世紀の後半に先進国で激増し、花粉症だけで3800万人の日本人が罹患しているといわれている。このアレルギー、私たちの体のシステムにいったいどのような問題が生じたために起きたのだろうか。経済危機以上に生態機構の危機は厄介に違いない。
アレルギーが免疫機構の混乱であることは多くの人の知るところだろう。免疫とは外敵から自分の身を守るための免疫物質や免疫細胞の総称だ。その免疫物質のひとつIgEと呼ばれる抗体の誤作動がアレルギーなのだ。
2億年前、哺乳類には爬虫類のようにウロコや固い皮膚がなく、マダニなどの外敵に無防備だった。繰り返しマダニに攻撃されるうちに、肥満細胞を誘引しその細胞中に産生されたヒスタミンやヘパリンなどの作用でマダニをやっつける免疫システムを獲得していったのだった。これがIgEと呼ばれる物質が作動させる、多くの免疫システムの中で最後に完成した免疫システムなのだ。
このIgEが外敵以外のハウスダストや花粉などの紛らわしい抗原に対して誤作動してしまうのがアレルギーなのだが、いったいこの誤作動の原因はなんなのだろうか? どうして近年この誤作動が増加しているのだろうか?
IgEの攻撃対象である寄生虫などが環境の近代化で減少したことが原因とする説、植樹や住環境の変化により花粉やハウスダストマイトが増加したからという説、大気汚染による窒素酸化物が花粉などの抗原認識にアジュバントのような働きをするからという説、どれにも一理ありそうなのだが、それがすべてではないようにも思える。
近年、南ドイツの農家と非農家の子供たちの花粉症と喘息の発症を調査した論文が脚光を浴びている。それぞれの家庭のホコリ中のエンドトキシンの量を比較し、それが多い農家の子供ほど花粉症と喘息の発症が少ないことを示している。乳幼児期にエンドトキシンへの暴露が多いほどアレルギーにはなりにくいということなのだ。これは、免疫システムの成熟にエンドトキシンが関与していることを示唆していて、その発生源である家畜の糞便に触れることの無い清潔な社会がアレルギーの温床であるといえなくもない。エンドトキシンとは菌体外毒素のこと。細菌の死骸に多く含まれ、通常、ホコリとして吸引している。
自分の子供時代を思い起こした時、牛小屋のわらの中で昼寝をし、肥溜めに落ちた友達もいた。確かにエンドトキシンにあふれかえった農家の子供だった。そして花粉症とは無縁な生活を送ってきた事も確かなのだ。しかし、そんな生活を今の子供たちに送らせることは、大半の家庭で不可能といわざるを得ない。
ここに興味深い報告がある。「ペットが2頭以上いる環境で乳児期を過ごした子供は、喘息やアトピー性皮膚炎発症の確率が低い」というものだ。日本アレルギー学会の「アトピー体質を持つ小児のペット飼育は推奨できない」という報告と相容れないようにも双方が成り立つようにも思える。いずれにせよ、新生児期から免疫システムが成熟していく間にいかにエンドトキシンに暴露させるかが重要なことに違いない。
不潔なことは決して良いことではない。まして、人と動物の共通感染症については定期駆虫や予防接種などのきちんとした予防策を講じるべきだ。その上で動物と共に暮らすことで得られる幸福が観念的なものだけではなく、アレルギー体質の回避に役立つ現実的なものであるなら、こんなに素晴らしいことはない。
「ヒトと動物の絆」には私たちの未来の幸福と健康のための鍵が隠されている。共に暮らすことの本質を科学的に解明し、共に暮らすための正しいルールを作ることこそ、自分たちの終生の仕事なのだと、年初に当たり気持ちを引き締めるのだった。
(文責:よしうち)
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