2010年12月1日
泌尿器
「高速ペロペロ」の話
我が家には猫が3匹いるのだが、そのうちの1匹が子猫のころから流し台の水道の蛇口に執着があった。水を出しっ放しにしていると、その流れる水に対して猫パンチを連発する。北斗の拳のケンシロウが「アタアタアター」と拳を振りかざすような感じで、流し台の周りは飛び散った水でビショビショ、猫もビショビショ、叱る気もしなくて「水を出しっ放しにした私が悪うございました」と黙々と猫の体と流し台の周りを拭いていたものだった。ところが、いつの頃からだろう、自分の体が濡れるのが嫌だったのか、とっても喉が渇いていたのか、流れる水に拳ではなく舌をペロペロと差し出して水を飲むようになったのだ。給水器や食器にいれた静水よりも、蛇口からあふれ出る流水の方がよほど美味しかったのだろう。以来、喉が渇くと蛇口の前に座りにゃあと鳴く猫になってしまった。ヘレン・ケラーが「W・A・T・E・R」に気付いたほど凄いことではないが、あの鉄の管から飲み水が出てくると気付いた猫なのだ。
普通、猫が水を飲むのは水をいれた食器からだろう。垂直方向に相当な高速ペロペロで水を口に運ぶ。朝日新聞によると、米マサチューセッツ工科大(MIT)やプリンストン大などの研究者が、高速度撮影できるビデオカメラを使って、ネコが水を飲むしくみを解き明かしたとのこと。こんな見出しが目に飛び込んできた。
「ネコの舌使いはエレガント 米研究者ら水飲む仕組み解明」 ネコもイヌも長い舌を出し入れして器の水やミルクを飲む。イヌは水の中に舌を差し入れ、先を曲げてひしゃくのようにすくい上げ、がぶがぶと飲むことが知られている。 一方、ネコは曲げた舌先を水面にわずかにつけ、次の瞬間、引き戻す。その速度が適度だと、慣性で水が引き上げられて重力と釣り合い、水柱ができる。これが崩れないうちにパクッと口に含む。秒速1メートル近くの高速で舌を動かし、毎秒4回ほど舌を出し入れし、毎回0.1ミリリットルほどを口に入れていた。同じネコ科でもトラなど体が大きくなるほど舌の動きが遅いこともわかった。 |
文章で読むと、分かり難いかもしれないが、こんな写真が添えてあった。
確かに高速で舌を動かして水を飲んでいるなとは思っていたのだが、猫独特の舌の表面のトゲトゲに水を含ませて口に運んでいるのかなくらいに漠然と考えていた。ところが、剣玉よろしく水を柱にして空中に立たせ落ちる前に口を閉じるなどという離れ業を演じていたとは、あっぱれな奴。
ここで少し本業の動物の病気のことにも触れておくと、猫の200匹に1匹は必要十分な水分を摂らなくてもあまり喉の渇きを覚えないといわれている。つまり、いつも少し脱水気味なのだ。そうすると、常に色の濃い(黄色い)においの強いおしっこをすることになる。それでも普段は何にも問題はないのだが、急に冷え込んだりしてさらに飲水量が低下すると濃いおしっこがさらに濃くなり、尿中に溶けていられなくなったミネラルがストルバイトという結晶となって析出し、尿道を詰まらせたりするのだ。これが典型的な尿石症の発症メカニズムなのだが、最近では結晶が見つからないのに尿道が詰まったり、何にも原因らしきものがないのに血尿になったりという特発性膀胱炎が増加傾向にある。いずれにしても、猫の尿路は問題が発生しやすく、猫下部尿路疾患(FLUTD)などという症候名が付いてしまうくらいなのだ。そんな猫たちのウィークポイントを少しでもカバーするために、少しでも飲水量を多目することは、決して悪いことではない。そのために水にネコの好む味をつけるサプリメントがヨーロッパで大ブレークしていたりもする(日本ではゼノアックから販売されている)。
高速ペロペロという離れ業で水を飲んでいる猫たち、それゆえなのか、それにもかかわらずなのかは分からないが、余分な水をあまり飲まないことで健康に問題をきたしているというのは皮肉なものだ。一般家庭に高速度撮影できるVTRなどあろうはずもないのだが、何とか肉眼で水柱を見てみたいと一生懸命猫たちに水を飲ませようと多くの飼主の方々が意識してくだされば、少しはFLUTDの発生率も下がるのかもしれないなどと考えてしまった。
ところで蛇口から流れる水をペロペロ舌を差し出して飲んでいる我が家のマシュー君、そのちっともエレガントではない飲み方がとっても君らしいと褒めてやりたくなるのは、やっぱり親バカなんだろうね〜。
(文責:よしうち)
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