泌尿器

「アイリス」の話

「アイリス」の話

皆さんはアイリスと聞いて何を思い起こされるだろうか。あやめの花? それともゴッホの絵? 韓国のスパイドラマ? 家具屋さん? 虹彩も英語で”iris”というので、そんな名前の眼薬もあったっけ。



International Renal Interest Society(獣医腎臓病研究グループ)もIRISのひとつだ。



 このアイリスからの提言として犬と猫の慢性腎臓病の病期分類のガイドラインが示されている。病期分類とは腎臓病の進行の度合いを診断、評価するということで、まず血液中のクレアチニンの値によって5段階のステージに分け、次に、尿中のタンパク質、さらには血圧によってサブステージに分類している。

 以前は血液中のBUNとクレアチニンの検査が中心で、かなり病期が進行しないと慢性腎臓病は診断することが難しかったのだが、尿比重や尿タンパクなどの尿検査が重要視されるようになり、より早い時期に診断が可能となっている。

 実際、慢性腎臓病では正常組織が侵され残った腎機能が25%程度になって初めてBUNやクレアチニンの値が上昇する。そのはるか以前に腎臓の糸球体から血液中の微量なタンパク質が尿の方へ漏れ出始める。これを検出することでより若いステージでの診断ができるのだ。具体的には尿タンパク/クレアチニン比や尿中微量アルブミンの検出、また尿の濃縮能の判定指標としての尿比重検査などを血液検査と組み合わせ、的確なステージ分類を実施していくということになる。

 その結果として、末期治療が中心だった慢性腎臓病も、少しでも長く若いステージに留まれるようにという治療ができるようになり、腎臓病の動物たちにとって大きな恩恵となっている。さらに大きなメリットとして、飼主の方々、治療に当たる獣医師にとっても、末期治療にありがちな自棄的な対応を改め、より高い治療モチベーションを維持できることで、「動物―飼主―獣医師」という三者のより質の高い時間の共有が可能になったといえるだろう。

 問題がないわけではない。人の医療で尿検査をするのと動物医療で尿検査をするのとでは、天と地ほどの差がある。動物での随時採尿の困難さは動物医療を長年やってきた者にしか分からない。自宅で採尿していただいた自然尿の検査結果に右往左往させられるのはちっとも珍しいことではない。いろいろなものが混入し、経時的な変化をした尿サンプルは正しい検査結果と程遠い結果をもたらす。解決は膀胱穿刺しかないのだが、それがごくごく当たり前に行われている欧米と日本の事情は次元が違う。

 最近私は、にっこり笑って

 「針で膀胱を突いてオシッコをいただきます。」

 と、事も無げに言うようにしている。 実際採血よりも簡単なのだが、膀胱が空ではお話にならない。

 「ちょこっとエコーでオシッコがあるのを見てからですけどね。」と。

 人と動物の事情の違いに為すべきことが異なるのは当たり前。紙コップを動物たちに渡すわけにはいかないのだから、申し訳ないが、一瞬針で突く痛みは我慢してもらうしかない。

 採血を針で行うことに「エーッ」という人はいないが、採尿を針で行うことに多くの人が「エーッ」というこの日本。慢性腎臓病の動物たちのQOLを少しでも高くできるのなら、
「チクッと痛い採尿」があることも多くの飼主さんたちに知ってもらう以外にないだろう

 「アイリスにもいろいろあるけれど、検査にもいろいろとあるのです。」

(文責:よしうち)






大阪市の南大阪動物医療センター

住所
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
営業時間
午前:9:00 〜12:00
午後:13:00〜15:00(水・土を除く)
午後:16:00〜19:00(水・土を除く)
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料550円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。
定休日
年中無休
最寄駅
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅
・・・エントリー・・・
「人も動物も、カンピロバクターにご用心」の話
「猫はユリ、人はサプリにご用心:世界は腎毒性物質であふれている」の話
「ワクチンの進化は止まらない」の話
「ネコの涙の量は10秒で測る」の話
「ネコの尿比重はビーズに教えてもらう」慢性腎臓病の話
・・・カテゴリー・・・
エキゾチック
ヘルニア
人と動物の関係学
内分泌
呼吸器
形成外科
循環器
感染症
整形外科
栄養学
歯科
泌尿器
消化器
猫学
皮膚科
眼科
社会事象
神経科
繁殖学
腫瘍学
行動学
診断学
遺伝
・・・アーカイブ・・・
2024年のブログ
2023年のブログ
2022年のブログ
2021年のブログ
2020年のブログ
2019年のブログ
2018年のブログ
2017年のブログ
2016年のブログ
2015年のブログ
2014年のブログ
2013年のブログ
2012年のブログ
2011年のブログ
2010年のブログ
2009年のブログ
2008年のブログ
2007年のブログ
2006年のブログ
2005年のブログ
2004年のブログ
2003年のブログ
2002年のブログ
2001年のブログ
2000年のブログ

院長コラム

VetzPetzClinicReport
Doctor'sインタビュー

・・・サイトメニュー・・・
HOME
診療案内・アクセス
施設案内
スタッフ紹介
よくある質問
協力病院
ドッグサービス
キャットフレンドリー
院長インタビュー
院長コラム
スタッフブログ
お問い合わせ
動物を飼う注意点
去勢・避妊について
ストレスについて
採用情報
新着情報
・・・手術について・・・
負担の少ない手術
手術の流れ
・・・犬の手術・・・
膝蓋骨脱臼、骨折
避妊、去勢手術
会陰ヘルニア
リハビリ
・・・猫の病気・・・
目(眼)の病気
口の病気
耳の病気
鼻の病気
呼吸器系の病気
消化器系の病気
皮膚の病気
癌、腫瘍
ヘルニア

・・・診療時間・・・

診療時間
9:00〜
12:00
13:00〜
15:00
16:00〜
19:00
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料550円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。

・・・所在地・・・

〒547-0016
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
tel: 06-6708-4111
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅より徒歩8分