泌尿器

「原因不明の膀胱炎」の話

「原因不明の膀胱炎」の話

震災の復興に福島第1原発の事故が足かせとなり、日本中が閉塞感にさいなまれているさなか、必ずしも日本国中の期待を担ってフランクフルトに向かったとは言えない彼女たちが凄いことをやってのけた。写真の花が何の花かは分からない人でも、「ナデシコ」は知っているに違いない。「撫子」と書くのが良いのか「撫でし子」と書くのが良いのかは???だが、「ナデシコ・ジャパン」の文言を聞かない日は無いのだから。彼女たちが逆境の中で積み重ねてきた努力とそれに裏打ちされた自負心が、ワールドカップ優勝という快挙を引き寄せたのだった。人知れず重ねられた努力が素晴らしい結果に繋がったことそのものよりも、その思いを貫き通したことに世界中の人たちが感動したに違いない。日本の未来に責任ある為政者に、彼女たちの思いの強さのかけらでも残っていればと感じたのは自分だけだっただろうか。



 原発事故ほどの計り知れない苦悩ではないのだが、自分たち臨床獣医師を悩ませ続ける病気の一つに猫下部尿路疾患(FLUTD)がある。バックナンバー『・ネコ下部尿路疾患/(Dec’00)「赤いおしっこの話」』を本コラムに掲載したのは10年も前の話。この10年の間に蓄積された知見も多く、キャットフードの質も大きく向上し、FLUTDの概念も大きく変わってきている。10年前、FLUTDといえばストラバイト結石が原因の多くを占め、時に結石も細菌も見つからない原因不明のものが含まれるという程度の認識だった。

 ところが現在では、原因不明が50%を超え、尿道を閉塞させるような栓子によるものが20%、尿道結石によるものが20%といわれており、この原因不明の尿路疾患を「特発性FLUTD」もしくは「特発性膀胱炎」と呼ぶようになっている。

 この特発性膀胱炎は特別な治療を行わなくても自然治癒することもあり、ストレスの緩和に努めれば良いというような考え方も出てきた。この不明とされる原因として推測されているのが、ウイルス、自己免疫性疾患、尿路上皮バリアの変化、神経性炎症、ストレスなどで、ヒトの間質性膀胱炎の原因として推測されているものと同じであり、発生のメカニズムも類似点が多いと推測されることから、ヒトと同様の治療が試みられるようになっている。

その一例として、従来のようにストラバイト結石を生じないようマグネシウムを制限しつつ、炎症を低減するよう抗酸化成分を配合し、オメガ-3脂肪酸やビタミンB6を増量した猫c/dマルチ(ヒルズコルゲート社)などの特発性膀胱炎に配慮したフードが市販されている。

また、膀胱粘膜層のグリコサミノグリカンの異常によって粘膜上皮の透過性が亢進し、炎症が引き起こされることが示唆されており、コンドロイチン硫酸ナトリウムと混合グルコサミンを成分とするCOSEQUIN(コセキン:バイエル社)を投与して長期の寛解を得たとの報告もある。今後の研究者の地道なリサーチに期待したい。

原発事故の収束も特発性膀胱炎の寛解も、一朝一夕に成らないことは同じなのだが、ナデシコたちのような思いの強さが、穴を穿ち達成へと導いてくれることを忘れないでおこう。

(文責:よしうち)




大阪市の南大阪動物医療センター

住所
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
営業時間
午前:9:00 〜12:00
午後:13:00〜15:00(水・土を除く)
午後:16:00〜19:00(水・土を除く)
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料550円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。
定休日
年中無休
最寄駅
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅
・・・エントリー・・・
「猫アレルギーの皆さん、朗報ですよ!」の話
「Cattitude(猫に対する正しい姿勢)を向上させよう!」の話
「ネコの膵炎アップデート」の話
「心臓はあの手この手で検査する」の話
「雷恐怖症はあの手この手で乗り切ろう」の話
・・・カテゴリー・・・
エキゾチック
ヘルニア
人と動物の関係学
内分泌
呼吸器
形成外科
循環器
感染症
整形外科
栄養学
歯科
泌尿器
消化器
猫学
皮膚科
眼科
社会事象
神経科
繁殖学
腫瘍学
行動学
診断学
遺伝
・・・アーカイブ・・・
2024年のブログ
2023年のブログ
2022年のブログ
2021年のブログ
2020年のブログ
2019年のブログ
2018年のブログ
2017年のブログ
2016年のブログ
2015年のブログ
2014年のブログ
2013年のブログ
2012年のブログ
2011年のブログ
2010年のブログ
2009年のブログ
2008年のブログ
2007年のブログ
2006年のブログ
2005年のブログ
2004年のブログ
2003年のブログ
2002年のブログ
2001年のブログ
2000年のブログ

院長コラム

VetzPetzClinicReport
Doctor'sインタビュー

・・・サイトメニュー・・・
HOME
診療案内・アクセス
施設案内
スタッフ紹介
よくある質問
協力病院
ドッグサービス
キャットフレンドリー
院長インタビュー
院長コラム
スタッフブログ
お問い合わせ
動物を飼う注意点
去勢・避妊について
ストレスについて
採用情報
新着情報
・・・手術について・・・
負担の少ない手術
手術の流れ
・・・犬の手術・・・
膝蓋骨脱臼、骨折
避妊、去勢手術
会陰ヘルニア
リハビリ
・・・猫の病気・・・
目(眼)の病気
口の病気
耳の病気
鼻の病気
呼吸器系の病気
消化器系の病気
皮膚の病気
癌、腫瘍
ヘルニア

・・・診療時間・・・

診療時間
9:00〜
12:00
13:00〜
15:00
16:00〜
19:00
  • ※祝祭日はその曜日に準じます。
  • ※年中無休です。
  • ※お電話、もしくは受付へ直接ご予約ください。
  • ※ご希望の日と時間帯、獣医師を指定して頂くことができます。
  • ※土・日・祝日に限り、予約料550円(税込)が別途必要となります。
  • ※12/31〜1/3につきましては、12/30までに事前の予約確認が必要となります。

・・・所在地・・・

〒547-0016
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
tel: 06-6708-4111
大阪メトロ谷町線出戸駅もしくは長原駅より徒歩8分