内分泌

「中途半端な腎不全」の話

「中途半端な腎不全」の話

 先日受講したマネジメントのセミナーで、東大阪の某歯科医院の取り組みがテーマに取り上げられていた。医院然とした堅い雰囲気は全くなく、スマイルクリエーターと称する受付スタッフが和やかに患者さんを出迎えてくれる。ノンドリルルームと呼ばれる部屋では歯をドリルで削ることはなく、予防歯科を中心にブラッシングの指導や治療計画作成のための歯科検査が行われている。あの恐ろしい歯科にもかかわらず、不安な表情を浮かべている患者さんが一人もいないことに驚かされた。ふと、人がサービスを評価する際、80%のウエイトを占めるのが第一印象だという言葉を思い出したのだった。

 先日、知人の紹介である飼主さんがトイプードルを連れて息子さんと一緒に来院された。どうもご近所の病院で治療を続けていてもはかばかしくないようで、お母さん息子さんともども悲愴な面持ちで相談に来られたのだった。

 トイプードルのミルクちゃんはここのところ元気も食欲も振るわず、注射と点滴の治療を受けて2―3日は少し元気になるのだが、そのあとはもとのモクアミ、覇気が無くぐったりとした感じなのだそうだ。食事もあまりとらず、水もあまり飲みたがらない。ヒストリーとしては出産歴が1度あるとのことだ。

 身体検査では軽度の脱水を伴い、血液検査ではBUN(血中尿素窒素)が50前後で少し上昇している。ここで脱水の影響か軽い腎不全かなという反射的な第一印象を持ってしまったのでは事は解決しない。腎不全と仮定すれば多飲多尿の症状がなく、何らかの理由で脱水症状を起こし血液濃縮しているのならば、脱水を起こす原因の糸口がどこかにあるはずだ。対症療法としてひとまず点滴で脱水を補正するのは良いのだが、BUNが正常化し元気が戻ってもその効果が長続きしない。にもかかわらず、それらしい脱水を引き起こす症状は何もない。少なくともその時点で電解質に着目しなければならないのだ。

 結果的に、ミルクちゃんはNaを保持できていなくてNa/K比が顕著に低下していた。すなわち、ミネラルコルチコイド(=アルドステロン)の分泌が不足していたのだった。このように、電解質のバランスを調整するホルモンが不足することで水分をうまく体に保持できない病気をアジソン病=副腎皮質機能低下症という。診断はACTH刺激試験によって副腎の予備能の枯渇を確認することで確定する。ミルクちゃんは過去の難産の際に不可逆的な副腎の傷害を受けていた可能性が高い。

 治療はミネラルコルチコイドとグルココルチコイドの補充によって達成されるが、ミネラルコルチコイドとグルココルチコイドの枯渇の仕方には一定の比率はない。Na保持の状況や血糖値、食欲や覇気などの症状によってモニターされ微調整されなければならない。

 25日ごとのピバル酸デゾキシコルチゾン(DOCP)の注射と、わずかなプレドニゾロンの経口投与でミルクちゃんは前にもましてテンションの高い元気で楽しい生活を取り戻したのだった。

 サービスも診断も第一印象が大切なことに違いはない。しかし、それ以上にフォローアップと修正が重要な場面もあるのだと、強く心に言い聞かせたのだった。

(文責:よしうち)



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