栄養学

「食の安全」の話

「食の安全」の話

 人も動物も生きるために、呼吸し、食べなければならない。その食をめぐる問題は、生存にとってもっとも基本的な問題であり、安全でない食料が流通する社会は人や動物の存在を根底から危うくする。1年365日、毎日摂る食事に、安全なものを望むのは当然といえる。ところが、食の安全に関係する大事件は、過去から現在まで洋の東西を問わず頻繁に発生し、後を絶たない
 水俣病、森永ヒ素ミルク事件、中国製冷凍ギョーザによる農薬中毒事件、最近ではO-111病原性大腸菌汚染ユッケ事件、福島第一原発事故に伴う食品の放射能汚染が大きな波紋を呼んでいる。ペットフードにおいても有害物質メラミンの混入問題は記憶に新しい。食品によって起きる危害を以下のように整理することができる。

1.急性的危害:薬物や化学物質による急性食中毒などの健康被害
2.短期的危害:微生物や細菌が増えることによる食中毒などの健康被害
3.中期的危害:生活習慣病などの栄養素の偏りによる健康被害
4.長期的危害:放射能や環境ホルモンなどの影響による健康被害

 日本人は多分世界で一番これらの危害について過敏な民族ではないだろうか。添加物や病原菌、放射能に対する憎悪、脂肪に対する嫌悪は並々ならない。他方、自然食や有機農法、手作りといったものには、無条件で魅力を感じてしまう無防備さも併せ持っている。

 そのあたりを突き詰めると、現代の多くの人たちの食に対する関心は、もっぱら食材にのみ集中し、しかも特定の食材や栄養素に強い興味を持ち、食事のトータル栄養バランスには大した注意が払われていないというのが現状であるように思える。

 ペットフードについても同様で、ライフステージに応じたトータル栄養バランスを謳ってもペットオーナーに訴求できない現状から、粗挽きビーフとかフィッシュテイストとか、素材や味をアピールする側面が目立っている。実際の十分に研究され完成された栄養バランスはちっともペットオーナーに魅力と映らないようなのだ。

 ここに面白いレポートがある。犬のオーナー間で定番となっている「ささみご飯」の栄養価の検証レポートだ。犬の総合栄養食(そのフードのみを与えているだけで栄養的な過不足なしに生活可能なもの)の栄養基準の最小値と、鶏のささみ200g、炊いた白米100g、キャベツ20gを混ぜたいわゆる「ささみご飯」の栄養価の比較表が以下に挙げてある。


出典:ヒルズ・クリニック通信 参考:五訂増補 日本食品標準成分表/文部科学省
ペットフードの表示に関する公正競争規約 施行規則/ペットフード公正取引協議会
AAFCO Official Publications/Association of American feed Control officials

 「ささみご飯」は高タンパクで低脂肪には違いないが、その結果、必須脂肪酸であるリノール酸や脂溶性のビタミンが極度に不足し、極端な高リン:低カルシウムの比率になっているため骨格への障害の可能性まである。良かれと思って作っている手作りご飯も、これしか食べないのであればいずれ栄養的な破たんを招くことは間違いない。ささみが比内地鶏かどうかよりもはるかに重要な問題なのだ。

 いずれ来るであろう食糧難の時代をひかえて、味、ブランド、有機、手作りなどへの偏狭な食のこだわりを捨て、実質的なトータル栄養バランスを見直してみてはいかがだろうか。

(文責:よしうち)






大阪市の南大阪動物医療センター

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大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
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