2013年8月1日
感染症
再び「狂犬病」の話
7月18日、「まさか!」と聞き返してしまうようなニュースが流れた。アジアではわが国とあとひとつだけの清浄国であった台湾で狂犬病が発生した。台湾と日本は同じ島国であり、四方を海に囲まれ、動物検疫によって狂犬病の侵入を防いでいたいわば清浄国の同志であった。どのような経路で侵入したのかは調査中とのことだが、わが国も対岸の火事では済まされない。その新聞記事をひとまず読んでいただきたい。
毎日新聞 2013年07月18日
【台北・鈴木玲子】台湾で52年ぶりに狂犬病の発生が確認された。台湾農業委員会が16日の専門家会議で、3匹の野生のイタチアナグマ(イタチ科)が感染していたことを確認した。台湾で最後に感染が確認されたのは、人間が1959年、動物は61年だった。台湾は、日本と並び、狂犬病が発生していない世界でも数少ない地域の一つだった。
3匹は昨年5月から12月にかけ、中部の南投、雲林両県の山間部で見つかった。イタチアナグマから犬を通して人に感染する可能性があるため、衛生当局はペットの犬や猫に狂犬病の予防注射をするよう呼びかけている。
台湾ではペットを飼う人が多く、台湾紙によると、飼い犬は少なくとも約124万頭、飼い猫は約30万匹。だが、飼い犬の8割は予防注射を受けていないという。衛生当局は、狂犬病ワクチンを緊急輸入するなど60万個分確保し、予防注射実施を促進させる意向だ。
世界保健機関(WHO)によると、狂犬病は日本やオーストラリア、ハワイなど、ごく一部の国・地域を除いて広く発生しており、世界中で年間3万〜5万人が死亡している。日本で最後に感染が確認されたのは人間が54年、犬が56年だった。
記事にもあるように、いかに清浄国が少ないか、世界の発生状況を国立感染症研究所の図で見てみると良く分かる。
日本の狂犬病対策では、海外で感染して帰国したヒトとともに海外から持ち込まれる動物に対する対策が大変重要である。しかしながら、海外から国内に持ち込まれるすべての哺乳類を把握することは現時点では極めて困難であり、世界における狂犬病の発生状況を考えると、狂犬病が日本に侵入するリスクは決してなくなることはない。したがって、犬等の輸入検疫、動物の輸入届出、侵入動物の監視、飼育犬の登録と予防接種、放浪犬の捕獲と抑留等による狂犬病の侵入・発生リスク低減とともに、国内で狂犬病が疑われた、もしくは発生した場合に備えた対策と地域ごとのリスク調査が重要となる。
日本における狂犬病との戦いの歴史は、1947年3月に伝染病予防法に基づく狂犬病の患者届出が開始され、1949年には74例と最も発生が多かったが、1950年に強力な狂犬病予防法を制定することにより、1951年以降急速に減少し、1956年のヒトとイヌ、1957年のネコを最後に国内から狂犬病を撲滅することに成功したというもので、飼育犬の予防接種の義務化とその浸透が功を奏したものといえる。今現在、台湾ではイタチアナグマからイヌへの感染拡大を防ぐことに注力しているところといえるが、飼育犬の20%にしか予防接種が実施されていないという現実は、薄氷を踏む思いに違いない。
海外渡航の際には、予防可能な感染リスクを防ぐために、渡航先や渡航期間、活動内容などに応じて、予防接種を受けることをお勧めします。
【ご注意】
現在、狂犬病ワクチンは、急激な需要増のため入手困難になっています。
http://www.forth.go.jp/useful/vaccination02.html
海外で活躍する日本人の方々の意識が台湾の一件で大きく揺れ動いたようだ。震災以来言われて久しい危機管理は平時だからこそ周到に計画できるもの。狂犬病が日本に侵入する前に、飼育犬の狂犬病予防接種を受けることは、飼主の方々ひとりひとりがなすべき危機管理そのものなのだから。
台湾:狂犬病52年ぶり確認 イタチアナグマが感染
毎日新聞 2013年07月18日
【台北・鈴木玲子】台湾で52年ぶりに狂犬病の発生が確認された。台湾農業委員会が16日の専門家会議で、3匹の野生のイタチアナグマ(イタチ科)が感染していたことを確認した。台湾で最後に感染が確認されたのは、人間が1959年、動物は61年だった。台湾は、日本と並び、狂犬病が発生していない世界でも数少ない地域の一つだった。
3匹は昨年5月から12月にかけ、中部の南投、雲林両県の山間部で見つかった。イタチアナグマから犬を通して人に感染する可能性があるため、衛生当局はペットの犬や猫に狂犬病の予防注射をするよう呼びかけている。
台湾ではペットを飼う人が多く、台湾紙によると、飼い犬は少なくとも約124万頭、飼い猫は約30万匹。だが、飼い犬の8割は予防注射を受けていないという。衛生当局は、狂犬病ワクチンを緊急輸入するなど60万個分確保し、予防注射実施を促進させる意向だ。
世界保健機関(WHO)によると、狂犬病は日本やオーストラリア、ハワイなど、ごく一部の国・地域を除いて広く発生しており、世界中で年間3万〜5万人が死亡している。日本で最後に感染が確認されたのは人間が54年、犬が56年だった。
狂犬病の発生状況
実際、狂犬病を制圧しつつあるように見えた韓国や中国でも、近年は増加傾向にある。WHOは年間55,000人が狂犬病で死亡しており、その56%がアジア諸国で発生していると報告している。2億5,000万人が狂犬病ウイルス感染にさらされており、800〜1,000万人が曝露後予防(PEP:post-exposure prophylaxis)を受けているとされる。特に、アジアにおいては患者の95%以上がイヌからの咬傷により感染を受けており、15歳以下の子供が30〜50%を占めるのだそうだ。
このPEPについては、イヌからの咬傷後、潜伏期間中に実施する予防接種および咬傷部位の周囲に狂犬病免疫グロブリンを注射して神経系にウイルスが侵入するのを防ぐ方法があるが、事後処置であり、発症の抑止を確約するものではない。その甲斐なくひとたび発症すれば致死率は100%である。
国立感染症研究所では2006年に以下のようにその対策を提言している。
日本の狂犬病対策では、海外で感染して帰国したヒトとともに海外から持ち込まれる動物に対する対策が大変重要である。しかしながら、海外から国内に持ち込まれるすべての哺乳類を把握することは現時点では極めて困難であり、世界における狂犬病の発生状況を考えると、狂犬病が日本に侵入するリスクは決してなくなることはない。したがって、犬等の輸入検疫、動物の輸入届出、侵入動物の監視、飼育犬の登録と予防接種、放浪犬の捕獲と抑留等による狂犬病の侵入・発生リスク低減とともに、国内で狂犬病が疑われた、もしくは発生した場合に備えた対策と地域ごとのリスク調査が重要となる。
ならば自分の住む町大阪はというと、半世紀にわたる発生ゼロで、飼育犬の狂犬病予防接種率は推定40%。拡散防止に必要な接種率80%以上とはかけ離れていて、台湾の現状と大差ないということになる。
WHOの報告にもあるように、イヌに来ればヒトに来る。狂犬病対策の要は飼育犬への予防接種に他ならない。狂牛病や鳥インフルエンザを思い起こすと、ヒステリックな国民性を日本人が持ち合わせていることは明らかで、日本国内に狂犬病が侵入したことが判明すれば、われわれ獣医師の元に予防接種を求めて未接種犬の飼主の方々が殺到されるに違いない。日本のワクチンメーカーが年間に製造している犬用の狂犬病予防注射液の本数は定かではないが、1200万頭といわれる飼育犬のうち、未接種犬を40%と見積もっても480万頭、全てに行き渡るほどの過剰生産をしているとは到底考えられない。ワクチンが国内から無くなり、注射を求めてパニックが!!
これを机上の空論とお感じになられるだろうか。海外渡航者用に製造されている人用の狂犬病予防注射液は既に底をついてしまったようだ。
厚生労働省検疫所のFORTHホームページには既に以下の記載がある。
海外渡航の際には、予防可能な感染リスクを防ぐために、渡航先や渡航期間、活動内容などに応じて、予防接種を受けることをお勧めします。
【ご注意】
現在、狂犬病ワクチンは、急激な需要増のため入手困難になっています。
http://www.forth.go.jp/useful/vaccination02.html
(文責:よしうち)
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