社会事象

「猛暑の影響」の話

「猛暑の影響」の話

 この1カ月の間に何度「暑いなー」と愚痴をこぼしたことか。大阪の夏場の挨拶は「おはようございます」や「こんにちは」から「暑いでんなー」にすっかり変わってしまった。人の熱中症の救急搬送の数は最悪を記録しているようだが、ここまで暑さも極まると、動物たちの熱中症は反対に減少しているのかもしれない。暑さに弱い犬たちを敢えて炎天の元へ散歩に連れ出す無理を冒すこともなく、冷房の利いた室内で寝かせておいてやればよい。実際、この暑さで散歩に行こうと愛犬を誘っても尻込みされてしまうだろう。むしろ、この程度の暑さなら大丈夫かなという微妙な気温や室温で散歩に出かけたり、クーラーを使用しなかったりという時に熱中症を起こしてしまうのが常なのだ。

 そこへ行くと、冷房などの人工的な環境とは無関係な野外の昆虫たちはどうなのだろうか。深山幽谷に生息する昆虫たちならまだしも、都会に生息する昆虫たちはヒートアイランド現象とも相まったこの過酷な暑さの影響を受けないはずはない。いつもの夏ならベランダの植木に飛来する蝶や蜂を今年はめったに見かけない。昆虫たちは一体どうなっているのだろうと、ネットであれこれ調べて、元農業環境技術研究所の桐谷圭治先生の「日本産昆虫、ダニの発育零点と有効積算温度定数」という論文にぶつかった。

 昆虫は外界の温度に体温を支配される変温動物で、通常の温度範囲では高温になるほど発育速度が増し(その分個体としては小さくなるが)、繁殖には都合が良くなるらしい。しかし、さらに温度が上がると発育速度が下がり始め(この温度を最短発育温度という)、 急速に生存限界温度に近づいていくとのことだ。ただし、最短発育温度がその種にとっての最適温度ではないため、高温による孵化率や羽化率の低下、成虫寿命の短縮、産卵数の減少などが、最短発育温度の付近や、それより下回る高い温度域でも見られる。また、最短発育温度を2〜3℃上回っただけで飼育中の個体が全部死んだり、成虫になっても産卵能力がなかったりする。多くの昆虫種は最短発育温度をわずか5℃上回るだけで致死温度になる。42〜50℃に数分から数時間暴露することで90%の死亡をもたらすという。つまり、ほどほどの暑さまでは昆虫たちは活発に増え続けるが、度を越した暑さのもとでは繁殖そのものが困難になり、死滅に近付くということなのだろう。

 今年は春先からノミ寄生が目立ったが、猛暑の訪れとともに動物たちのノミ被害がぐっと少なくなったように感じられるのも、この論文を読めば当然かもしれない。しかし油断は禁物だ。蛹や卵の姿で発育を休止しているノミたちが秋の訪れとともに一斉に羽化、孵化し大繁殖する恐れがある。猛暑による昆虫の高温障害は、結果として羽化や孵化の時期をそろえるという調整作用として機能してしまうからだ。暑さにウンザリして待ち遠しくて仕方のない秋の訪れだが、その秋口のノミの集中攻撃には、どうかご用心あれ。

(文責:よしうち)



大阪市の南大阪動物医療センター

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