感染症

「カンピロバクター」の話

「カンピロバクター」の話

 胃腸炎には様々な原因がありますが、感染がもとで起きる胃腸炎を感染性胃腸炎と呼よびます。主に腸管にウイルスや細菌が感染し、嘔吐・下痢などをひきおこす病気です。一般に、ウイルスの場合には、お腹にくる風邪とか、下痢をする風邪などと表現することが多いと思います。細菌の場合には、例えば赤痢菌感染によるものは、その重篤度から伝染病という扱いを受けますし、食材に付着して感染が起きるものは、感染の拡がり方から、食中毒と呼ぶのが普通です。これから寒くなると、必ずといって良いほど新聞を賑わせるのが、ノロウイルスの感染症で、パーティーなどでの集団食中毒ということになります。さらに、その感染が、人にも動物にも起きるものは、人と動物の共通感染症という認識が必要となります。

 大阪市のホームページを見ると、平成26年に発生した食中毒事例は45件で、そのうち28件がカンピロバクターによるものでした。これは、飲食店で出された食べ物で起きた食中毒の件数で、食品衛生法に基づいて届け出がなされた数です。家庭での発生は、指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)に、週毎の保健所への届け出が義務付けられているだけで、それ以外の発生は加味されていないことになります。

 大阪市ではホームページで、以下のように市民に警鐘を鳴らすとともに、リーフレット等によって注意喚起を促しています。



近年、お肉を生や加熱不十分で食べたことが原因と考えられるカンピロバクター食中毒が全国的に多く発生しており、本市においても、2014年4月以降、カンピロバクターによる食中毒事件が頻繁に発生しています。
これらのカンピロバクター食中毒の多くは、鶏肉の刺身やタタキなどのお肉を生で食べたり加熱不十分な肉料理を食べたことによるものです。
このため、鶏肉などのお肉は中まで十分に加熱し、生や加熱不十分なものは食べないようにしましょう。

特に子どもやお年寄りや体が弱っている人がカンピロバクター食中毒になると、症状が重くなるおそれがあるため注意が必要です。

リーフレットの抜粋画像とリーフレットのpdfファイルを以下に掲載しておきます。



  (リーフレットが必要な方はこのpdfファイルをDLください)

このカンピロバクターによる食中毒の原因菌の95〜99%はCampylobacter jejuni で、 Campylobacter coli は数%と言われています。



Campylobacter jejuni の電子顕微鏡写真(USDA 2008)

医療法人信岡会 菊池中央病院(熊本県)のホームページでは、感染症の話題ということで、次のように書いておられます。(以下抜粋)


「当外来で軽症の下痢でかつウイルス性と臨床診断したにもかかわらず、下痢が1週間以上も続く場合に便培養すると、カンピロバクターが培養されることが多いように思われます。それはカンピロバクター腸炎は潜伏期間が長い(3〜7日)ため患者さんが原因食品を覚えておらず、医師が原因微生物を類推しにくいという背景もあります。」
「カンピロバクター腸炎は細菌性では原因として一番多く、症状は他の腸炎より腹痛が強く、下痢の回数も多い傾向があるそうです。従来からいわれている血便はさほど多くないようです。いずれにしても症状からの病原診断は困難です。また、不顕性感染*も頻度は不明ですがあるそうです。」

(筆者注*不顕性感染:細菌やウイルスなどの病原体の感染を受けたにもかかわらず臨床症状を示さず、健康に見える場合のことを不顕性感染といいます。)


 ここまで人のカンピロバクター感染症について書いてきましたが、難儀なことに、カンピロバクターは、犬や猫たちにも感染するのです。成犬、成猫では、不顕性感染が多いとされていますが、子犬、子猫では、人の食中毒症状と同様の症状が出ることも多く、時に重篤化します。動物たちは感染ということを理解できないばかりか、衛生観念を教育されているわけでもなく、本能的に身を守る行動を取るしかありません。油断すると、動物との暮らしには思わぬ落とし穴が出現するということを覚えておかねばなりません。

 カンピロバクターで汚染された鶏肉を十分加熱せずに人が食べ、愛猫におねだりされて分け与えてしまったような場合には、人も猫も食中毒症状を呈することがあるかもしれません。また、鶏肉を調理しようと流し台の上に置いてその場を離れたすきに、愛猫がかじってしまったというような場合、愛猫がカンピロバクターに感染してしまうかもしれません。愛猫が若ければ下痢を呈し、お尻の周りの毛を汚してしまい、それをキレイにしてあげたお母さんに感染ということもあるかもしれないのです。愛猫が成猫で全く無症状な場合でも、菌の排せつはあるかもしれません。そうなれば事はさらに厄介で、動物たちの排せつ物を通じて家族の人にカンピロバクター感染が拡がり、しかも感染経路は不明ということにもなりかねません。さらに、同居猫がいた場合には、グルーミングなどにより、猫―猫間で次々に感染ということもあるのです。

 動物たちに悪気はあろうはずもありませんが、カンピロバクターのような共通感染症では、動物たちが人の感染源にもなりうるのです。

 動物たちのいる家庭では、十分な加熱など調理に気をつけるだけでなく、十分な食材の管理も必要です。動物たちの排せつ物の処理後はしっかりと手洗いをし、動物たちと食器を共用しないなど、ごく普通の衛生観念を持つことが大切です。

 抵抗力の弱い年少者や高齢者、免疫抑制剤や抗がん剤の投与を受けておられる方などは、特に気をつけていただきたいと思います。

(文責:よしうち)



大阪市の南大阪動物医療センター

住所
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
営業時間
午前:9:00 〜12:00
午後:13:00〜15:00(水・土を除く)
午後:16:00〜19:00(水・土を除く)
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