2016年3月1日
猫学
「猫の鼻キッス」の話
猫たちが、ときどきお互いに鼻と鼻を近づけているときがあります。まるで、「鼻キッス」をしているみたいです。これは、猫同士のこともありますし、人間の顔に近づけることもあります。時には人の指先を鼻先と勘違いしているようなことも。この私たちの心を癒してくれる魅力的なしぐさには、いったいどのような意味があるのでしょうか。
1.「鼻キッス」は挨拶という説
猫たちは、鼻と鼻を近づけて臭いをかぎ合っています。これは、猫同士で敵対心がないことを示すための行動で、「やぁ」というような、軽い挨拶の意味があると考えられているようです。
2.人間とのコミュニケーションの意味もあるという説
猫がご家族の方と「鼻キッス」するときは、その方に対して愛情を示している意味もあると考えられています。鼻キッスは、猫にとって人間とのコミュニケーション手段の一つで、スキンシップの意味合いもあるのだという説があります。
3.指先を鼻先と勘違いすることもあるという説
猫の顔の前に指先を持っていくと、猫が顔を近づけてきて臭いをかごうとすることがあります。これについては、猫は指を鼻先と勘違いして臭いをかごうとするのだという説があります。
ニューロンというのは、脳内で網の目のようにつながっている神経細胞のことで、単純に言えば「情報伝達のための素子」です。その数は、ヒトの脳全体で860億個。一つのニューロンが別のニューロンとネットワークを形成することによって、情報の伝達を効率的に行うことができ、認知、感情、記憶、運動といった高度な情報処理が実現できるのです。
では、ミラーニューロンとは一体どういうものなのでしょう。それは、他者の行動を自分の脳内で「鏡(ミラー)」のように写し出す神経細胞のことです。
発見は、まったくの偶然でした。今から約20年前、イタリア・パルマ大学のリツォラッテイ教授が率いる研究グループが、サルの脳の運動前野(運動するために必要な領域)に電極を刺し、ある実験を行っていました。ここには手や指を動かす神経があるのですが、サルはまったく手を動かしていないのに、研究者が手で何かをつかむ姿を見て、サルの手を動かす神経が反応したのです。「無意識のまね」によって、相手の行為の意味を理解しようとしたのです。ミラーニューロンのそもそもの働きはそこにあって、相手の起こした行動を自分の頭の中でシミュレートすることなのです。さらに、脳の中に写し出すだけでなく、受けた側にも同じ行動を起こさせるケースもあります。例えば、スポーツ番組に見入ってしまって、気が付くと選手と同じ動きをしていた・・・という経験をされたことはありませんか? そのように、人間には無意識に動作をまねる性質があって、まねすることで動作の意図や意味が深く理解できるのです。
ミラーニューロンは、発見当時は「人の心を読む脳機能を発見した」と、神経科学以外の分野からも広く注目を集めました。アメリカのラマチャンドランという神経科学者などは、「ミラーニューロンの発見は、心理学・脳科学の分野において、DNAの発見に匹敵するものだ」とコメントしたほど、すごい発見だったのです。
どうしてこのような仕組みができたのでしょうか。自分の手を動かすとき、脳の中では「手を動かせ」という運動命令が出る。そして、動いている手の動きを目で確認すると「これは自分の体なのだ」という一体感が生まれます。このシステムは、他者の動きを見たときにも働いていて、無意識のうちに自分と他者の動きを一致させる性質を生んだのではないかと考えられているのです。
また、「どうやって自分と他人を区別するのか」というテーマは、コミュニケーションの核ともなります。自分も相手も同じベースを持ち、同じ形をしている。だから、コミュニケーションがうまく図れるのです。例えば、地球外生命体がとんでもない形をしていたら、コミュニケーションを図るのはかなり難しいでしょう。
1.「鼻キッス」は挨拶という説
猫たちは、鼻と鼻を近づけて臭いをかぎ合っています。これは、猫同士で敵対心がないことを示すための行動で、「やぁ」というような、軽い挨拶の意味があると考えられているようです。
2.人間とのコミュニケーションの意味もあるという説
猫がご家族の方と「鼻キッス」するときは、その方に対して愛情を示している意味もあると考えられています。鼻キッスは、猫にとって人間とのコミュニケーション手段の一つで、スキンシップの意味合いもあるのだという説があります。
3.指先を鼻先と勘違いすることもあるという説
猫の顔の前に指先を持っていくと、猫が顔を近づけてきて臭いをかごうとすることがあります。これについては、猫は指を鼻先と勘違いして臭いをかごうとするのだという説があります。
これらは行動学的な解釈で、行動学者の経験則によって成り立っています。これらの内、「なぜ」猫は、お気に入りの相手に対し鼻を近づけようとするのかは、証明する術がありませんが、「なぜ」鼻を近づけられた猫が同じようなしぐさをお返しし、「鼻キッス」が成立するかについては、興味深い「神経科学」の研究成果があります。
近畿大学医学部第一生理准教授 村田 哲先生は、神経科学の研究者で、中でも「ミラーニューロン」という神経細胞の研究については、国内で第一人者です。以下、村田先生の解説です。
近畿大学医学部第一生理准教授 村田 哲先生は、神経科学の研究者で、中でも「ミラーニューロン」という神経細胞の研究については、国内で第一人者です。以下、村田先生の解説です。
ニューロンというのは、脳内で網の目のようにつながっている神経細胞のことで、単純に言えば「情報伝達のための素子」です。その数は、ヒトの脳全体で860億個。一つのニューロンが別のニューロンとネットワークを形成することによって、情報の伝達を効率的に行うことができ、認知、感情、記憶、運動といった高度な情報処理が実現できるのです。
では、ミラーニューロンとは一体どういうものなのでしょう。それは、他者の行動を自分の脳内で「鏡(ミラー)」のように写し出す神経細胞のことです。
発見は、まったくの偶然でした。今から約20年前、イタリア・パルマ大学のリツォラッテイ教授が率いる研究グループが、サルの脳の運動前野(運動するために必要な領域)に電極を刺し、ある実験を行っていました。ここには手や指を動かす神経があるのですが、サルはまったく手を動かしていないのに、研究者が手で何かをつかむ姿を見て、サルの手を動かす神経が反応したのです。「無意識のまね」によって、相手の行為の意味を理解しようとしたのです。ミラーニューロンのそもそもの働きはそこにあって、相手の起こした行動を自分の頭の中でシミュレートすることなのです。さらに、脳の中に写し出すだけでなく、受けた側にも同じ行動を起こさせるケースもあります。例えば、スポーツ番組に見入ってしまって、気が付くと選手と同じ動きをしていた・・・という経験をされたことはありませんか? そのように、人間には無意識に動作をまねる性質があって、まねすることで動作の意図や意味が深く理解できるのです。
ミラーニューロンは、発見当時は「人の心を読む脳機能を発見した」と、神経科学以外の分野からも広く注目を集めました。アメリカのラマチャンドランという神経科学者などは、「ミラーニューロンの発見は、心理学・脳科学の分野において、DNAの発見に匹敵するものだ」とコメントしたほど、すごい発見だったのです。
どうしてこのような仕組みができたのでしょうか。自分の手を動かすとき、脳の中では「手を動かせ」という運動命令が出る。そして、動いている手の動きを目で確認すると「これは自分の体なのだ」という一体感が生まれます。このシステムは、他者の動きを見たときにも働いていて、無意識のうちに自分と他者の動きを一致させる性質を生んだのではないかと考えられているのです。
また、「どうやって自分と他人を区別するのか」というテーマは、コミュニケーションの核ともなります。自分も相手も同じベースを持ち、同じ形をしている。だから、コミュニケーションがうまく図れるのです。例えば、地球外生命体がとんでもない形をしていたら、コミュニケーションを図るのはかなり難しいでしょう。
サルとヒトのミラーニューロンシステム。サルの脳(左)とヒトの脳(右)の左半球外側面を見たもの。サルの脳でミラーニューロンが記録された部位をピンク色で示している。ヒトの脳では、それに相当する領域をピンク色で示す。これらの領域がネットワークをつくって、システムを構築している〈Murata A.and Ishida H In:Representation and Brain,Funahashi S edited,Springer(2007)より転載〉
この解説を読んで、「猫の鼻キッス」の多くの謎が解けたような気がします。猫が気を許せると感じた相手に対し鼻先を近づけます。鼻先を近づけられた猫は、なんだろうと一瞬戸惑うかもしれませんが、危険でない相手だった場合に無意識にシミュレートし、自分も鼻先を近づけるという相手と同じ行動をしてしまうのです。それが人の鼻先であっても、指先であっても、自分の鼻先と同じものと認識すれば、無意識にシミュレートしてしまい「鼻キッス」が成立するのです。結果として、コミュニケーションや愛情交換ができているのかもしれませんが、そのあたりの解釈は、今後の研究に委ねたいと思います。
自分ちの猫に鼻先を近づけ、鼻先を寄せ返してくれた時、嬉しさで、その猫に対する愛情が何倍にも膨れ上がるのを感じた経験をお持ちの読者の方もたくさんおられることでしょう。猫って、本当にかわいいですね。
(文責:よしうち)
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