猫学

「猫のシロちゃん23歳の闘病記」

「猫のシロちゃん23歳の闘病記」

秋風が吹き、朝夕に肌寒さを感じる季節になると、気になってくるのがインフルエンザの流行です。2016〜2017年のシーズンは、12月から感染者が増えてきて、1〜3月がピークとなる例年並みと予測されているようです。インフルエンザで、重症化や合併症を引き起こす可能性の高いグループのことをハイリスク群と呼んでいて、下記の方が当てはまります。


 ● 65歳以上の高齢者
 ● 妊娠
 ● 慢性肺疾患(慢性気管支炎、肺気腫、気管支喘息など)
 ● 心疾患(うっ血性心不全など)
 ● 腎疾患(慢性腎不全・血液透析患者・腎移植患者など)
 ● 代謝異常(糖尿病など)
 ● ステロイド等の薬剤投与による免疫不全状態の患者


このハイリスク群に当てはまる人は、日ごろから予防を心がけるだけでなく、重症化を防ぐためにも医師と相談のうえワクチンを接種することが望ましいと考えられています。 また、同居するご家族や周囲の方は、ハイリスク群の人へインフルエンザをうつさないように、ワクチン接種を含む予防、インフルエンザにかかった場合の早めの受診を心掛けるようにしなければなりません。 

日本におけるインフルエンザの流行・拡大は、小学校で始まると考えられています。小学生は罹患(りかん)率が高く、それが家庭で成人や高齢者に感染していきます。高齢者の罹患率は低いものですが、逆に死亡率は高く、インフルエンザは高齢者にとって「老人の最期の生命のともしびを消す疾患」ともいわれています。少し古い資料ですが、85歳〜89歳の方では、人口10万人当たり40人以上もの方が亡くなっておられるのですね。



  このインフルエンザの話、動物たちの感染症にも当てはまります。

  今年の8月末に猫のシロちゃんが久しぶりに来院しました。主訴は、一昨日まで元気・食欲とも変わりがなかったのに、昨日から食欲・飲水が廃絶し、くしゃみをしているとのことでした。このシロちゃん、1993年生まれのおばあちゃん猫なのです。23歳の今まで、大きな病気をすることもなく、「中学生の時に家に来たんです」とおっしゃるご家族の方々と、色々な思い出を紡いできたに違いありません。同居のチビクロちゃんが一昨日から鼻汁を出しているとのことで、チビクロちゃんと同じ感染源から、もしくはチビクロちゃん自身から猫風邪(猫伝染性鼻気管炎)をもらってしまったようです。(ネコ伝染性鼻気管炎/(Dec’06)「ネコのかぜ」の話参照)

  残念なことに、家から出ないからとワクチン接種歴はなく、高齢で軽度の慢性腎不全をかかえていて、重症化が心配されました。直ちに、皮下輸液と抗生剤の投与を行いましたが、症状はさらに進み、インターフェロン2.5MU/kgの隔日投与を3回、連日の皮下輸液といった治療を続けました。5日目になっても症状に改善はなく、肺炎の合併を懸念して抗生剤を1剤追加し、経口で高栄養のa/d缶の投与を始めました。

  目ヤニ、鼻汁で顔はぐしゃぐしゃ、鼻づまりで呼吸もままならず、家ではご家族の方が目ヤニと鼻汁の清拭、点眼、保温と献身的に介護していただいているにもかかわらず、日に日に衰弱が進みます。強制的に高栄養食を与えるのも見ていられないとご家族の方の苦悩は深まり、チューブ栄養に切り替えることも相談させていただきました。

  こんなの集中的な治療を10日間続けても、シロちゃんの病状は好転しません。ご家族の方の心は折れそうになりながらも、23年間というシロちゃんとの時間が、何とかしてあげたいという強い思いとなって、自分に突き刺さります。そこで、その頃にはすっかり症状もおさまって元気いっぱいのチビクロちゃんに、一肌脱いでもらうことにしたのです。最も効果的な栄養補給でありながら、ウイルスに対する効果も期待できる一種の臓器移植、つまり、輸血を敢行することにしたのです。チビクロちゃんから50mlの供血を受け、シロちゃんに輸血を実施しました。

  翌日は少しシロちゃんの状態も上がり、症状が少し和らぎましたが、その次の日には輸血前の状態に逆戻り、ご家族の心は薄皮1枚残してポッキリ折れてしまいました。そのご家族を励まし、さらに輸液を続けて6日目くらいから、シロちゃんがa/dの強制投与を喜んで飲み込んでくれるようになりました。状態も徐々に上向き、動きが出てきたのです。

  しかし、そこからの毎日が実に長かったのです。a/dの強制投与と輸液を連日続けるも、シロちゃんは一向に食事をしようとしません。くしゃみや鼻汁が減り、動きも出ては来ているのですが食べる気にはなってくれないのです。さらに10日後、ようやくお家でチーズのかけらを食べてくれましたが、その翌日からは再び口を閉ざしたまま。何日かに1度気まぐれのようにクリームチーズをなめたりはしてくれるのですが、本格的な食欲がわいてこないのです。嗅覚が壊れてしまったのだろうかと、ネブライザーで吸入治療をしたり、ご家族の方も、手を変え品を変え、食べそうなものをシロちゃんの周りに並べる毎日です。

  発病から38日目、前日に食欲刺激効果を狙って投与したぺリアクチンが奏効したのか、ついに自分からドライフードを口にし、その翌日からの食欲は、それこそ留まるところを知りません。ようやく長かった輸液とa/dの強制投与を終了することができました。

  ご家族の祈りが、チビクロちゃんの献血が、シロちゃんの命を救ったのです。今でもくしゃみが少し残り、全快とは言い切れない状態のシロちゃんですが、定期的に検診に来てくださるご家族の顔には、ようやく笑顔が戻りました。シロちゃん、ほんとに良く頑張りました。おめでとう:^^)


(シロちゃん・23歳)

  高齢の人も動物も、予防は本当に大切です。そして、その周りに暮らす人も動物も病気をもらってこないように気をつけ、予防することが重要だと痛感したシロちゃんの闘病だったのです。

(文責:よしうち)



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