「猫を飼うなら兄弟で!」の話
猫には野生の頃からの「狩り」をするという習性が根強く残っていて、動くものを見ると反射的に追いかけ捕まえようとする本能が刺激されます。野生のネコ科動物は子供の時期に、成熟して独り立ちするために狩りの技術を磨き、ライバルから自分の縄張りを守るために戦う技を習得しなければなりません。小鳥や虫などを追いかけて狩りの練習をし、兄弟と遊びながら交配相手を見つけ縄張りを守るためのコミュニケーションを学ぶのです。私たちが目にする子猫たちにも同様の行動が見られるのは、そういった習性に基づいているのです。
今日の日本で猫を安全に屋外に出せる環境は皆無です。交通事故や他の動物との争いによる受傷、伝染病の感染などを考えれば、外に出すのは危険すぎますし、外での排泄は近隣への迷惑となります。猫が家と外を自由に往来できるような飼い方をしていた時代には、外を走り回り、虫や小鳥を追いかけることができました。しかし、室内で1頭だけで飼われている猫には、外に出た時のような刺激がありません。動く生き物は飼い主だけで、その時々に兄弟猫に見立てたり、獲物に見立てたりして、飼い主の動きに反応して狙いを定め、素早く飛びついたり、咬んだりするのです。
これらの行動は先ほど述べた習性に基づくごく自然な遊び行動ですから、健全な発育のために必要な行動とも言えます。そういった理由で、子猫を1頭だけで室内飼育すると、ほとんど間違いなく飼い主を咬むという問題が起きてしまいます。
子猫が悪さをするからとケージに閉じ込めがちでは、ますますエネルギーがたまり、ケージから出した時に前にもましてハッスルするようになってしまいます。上手にガス抜きできるような発散の機会を積極的に作ってあげてください。例えば段ボール箱を組み合わせた手作りの秘密基地や、上下運動のできる遊具、安全に外界を感じることができる窓辺のスペースなどを工夫し、猫が疲れるくらいにおもちゃでしっかりと遊んであげると良いでしょう。
その際、わざと指や手足を動かして猫を遊びに誘うのは禁物です。意図するしないにかかわらず、どうぞ体を咬んでくださいと教育しているようなものだからです。手足を使って猫と遊ばないように注意しましょう。それでも人の何気ない動きに反応して手足に向かって来るようなときには、静止し、手足を隠し、子猫から離れるようにします。咬んできたからと言って叱ったり、押さえ込んだりするのはさらに子猫を興奮させることになり、ますます手を焼くような状況に陥るだけです。そんな時は相手にならず、おもちゃを目の前に投げ与えたり、音をたてたりして、注意を他に向けるようにします。
この問題を解決する最も良い方法は、子猫の時期から兄弟2頭で飼うことです。猫では生後2週齢〜9週齢頃が社会化期といわれています。社会化期とは自分以外の動物とうまくやっていくためのコミュニケーション力を獲得するのに最も適した時期のことを指します。猫の脳の発達は生後早い時期に訪れるため、社会化に適した時期が生後2か月ぐらいまでと非常に短く、そのことが境遇によっては、猫同士、猫と人、猫とそれ以外の動物との付き合い方を難しくしてしまうといっても良いのかもしれません。この時期を過ぎてからでも社会化は可能ですが、大人になってから外国語を練習するようなもので、どんどん難しくなります。
猫を生まれてからずっと兄弟で育ててみると、兄弟一緒に遊んでいる時間がずいぶんと長く、1頭だけで育てた時よりもはるかに飼い主の負担が少ないことに気づきます。飼い主を咬むこともほとんどなく、かといって飼い主との関り方が希薄なわけでもありません。一緒に遊ぶことで猫同士のコミュニケーション力が磨かれるだけでなく、飼い主とのコミュニケーション力も同時に向上しているように思えるのです。2015年3月の本コラム「幸せホルモンの話」にオキシトシンのことを書きましたが、兄弟が互いに愛着を持つことでオキシトシン分泌が盛んになり、それが引き金となって、飼い主との触れ合いにおいてもオキシトシン分泌が促されるような気がするのです。
さらに、子猫のうちにできるだけ多くの人や猫、そのほかの動物と楽しくふれあうような環境を作ることで、大人になってからも出会った相手とうまくコミュニケーションがとれるようになるといわれています。社会化期とは、脳内のオキシトシン分泌のポジティブフィードバックシステムや外界からの分泌刺激入力系などの分泌調節の仕組みを発達させる時期なのかもしれません。その時期にこそ、多くのふれあいの機会を設け、たくさんの愛情を注いであげたいものですね。
(文責 よしうち)
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