眼科

「緑内障」の話

「緑内障」の話

緑内障とは「眼球の健康性と視力の維持を損なう眼圧上昇を示す疾患」と以前は定義されていました。しかし現在では「何らかの原因で視神経が障害され視野が狭くなる疾患」を指すことになり、眼圧の上昇はその病因の一つという扱いになっています。

  目の中には血液のかわりとなって栄養などを運ぶ、房水とよばれる液体が流れています。房水は毛様体でつくられ、前房隅角にあるシュレム管から排出されます。目の形状は、この房水の圧力によって保たれていて、これを眼圧と呼びます。眼圧は時間や季節によって多少変動しますが、ほぼ一定の値を保っています。

  この房水の排出が低下し、眼圧が上昇して視神経乳頭を圧迫し視力に悪影響を及ぼす疾患が以前から言われている緑内障で、隅角がつぶれて起きるものを原発性閉鎖隅角緑内障、隅角を支える線維柱帯が目詰まりして起きるものを原発性開放隅角緑内障、角膜の疾患や目の炎症などによって眼圧上昇が起きるものを続発性緑内障とよんでいます。さらにヒトでは眼圧が正常範囲であるにもかかわらず視神経に障害が起きる正常眼圧緑内障が多く、緑内障の7割を占めるといわれています。日本人に多いことが分かっていて、視神経の眼圧への抵抗力が低いために障害が起きると考えられています。

  それでは、イヌやネコに正常眼圧緑内障はあるのでしょうか?
残念ながら確かめるすべがないのです。ヒトでは緑内障の診断のために、眼圧検査、眼底検査、視野検査が行われます。イヌやネコもトノペンという器具を用いて眼圧測定が可能ですし、眼底鏡による視神経乳頭の観察も可能です。けれども、視野の欠損の確認には、被験者の片方の眼をカバーして、正面の固視点を見てもらい、周辺の見える範囲に光指標が現れれば合図をしてもらうというような検査が必要です。この視野検査は、中心以外の範囲で見えるかどうかを調べる検査ですから、検査中正面の固視点をじっと見ていることが大切で、眼を動かして光指標を探してはいけませんし、正面を見て、周辺のみえる範囲に光指標が現れるまで待つ必要があるのです。とてもイヌやネコでできる検査ではありませんね。



  
 トノペン

  
 眼底像(拡大)左:正常の視神経乳頭。右:緑内障の視神経乳頭。陥凹が拡大し耳側のリムが薄い。

 
   動的視野検査(ゴールドマン視野計)

   イヌやネコでは眼痛や視野の狭窄といった症状を訴えてくれませんので、角膜の全体的な浮腫や、強膜血管の怒張、瞳孔の中程度散大から完全散大、対光反射の消失などの症状から緑内障を疑い、眼圧測定を行うといった流れになることが多く、高眼圧により視力は低下しているか、残念ながら喪失していることも少なくありません。

 イヌは原発性緑内障の多い動物で、好発犬種が数多く知られています。予後も大変厳しく、視力は低下し続け、最終的に失明してしまいます。また、対眼に緑内障が発生する確率がかなり高く慎重な対応が必要です。一方、ネコの緑内障は大変少なく、その大半は炎症による続発性緑内障です。眼圧の上昇も50-60mmHgを上回ることは少なく、視力の温存にはある程度の期待が持てると考えられています。ちなみに正常眼圧は犬で10-20 mmHg、猫で10-25 mmHgとされています。

 先日ワクチン接種に来院したネコのコマちゃん。6kg超えの堂々とした体格で、まったくビビる様子もなく十分に落ち着いていました。興奮すると散瞳する子も多いのですが、そんなそぶりがないにもかかわらず散瞳しているのです。お母さんに、いつもこんなに瞳が大きいのですかとお聞きすると、「はい、かわいいオメメやねって言ってたんですよ。」とのこと。

 時間をかけて緑内障のお話をし、トノペンで眼圧を測定させていただくと、左右とも50mmHgを少し超えていました。対光反射がほとんどなく、両眼ともリンバス付近の角膜に少し浮腫が認められ、前房にはやや濁りがありブドウ膜炎が疑われました。綿花の落下試験で視力は失っていないことが分かりましたので、ブドウ膜炎の原因治療+降圧 治療(炭酸脱水酵素阻害薬)のための点眼薬を処方し、頑張って点眼治療を続けていただくようお願いしたのです。

 

 1週間後に眼圧は左眼20mmHg台、右眼30mmHg台に下がり、対光反射も少し戻ってきました。

「何とか視力を温存できそうですね。」とお母さんに話しかけると、

「ワクチンを打ちに来て良かったです。目の病気を見つけてもらって。」とにっこり。

 

目は口ほどに物を言い。とはいうものの、動物の感覚器疾患の治療の難しさを改めて教えてくれたコマちゃんだったのです。

 

(文責 よしうち)




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