皮膚科

「アンテドラッグステロイド」の話

「アンテドラッグステロイド」の話

ステロイド外用剤(副腎皮質ホルモン製剤)は、1950年代に登場して以来、その優れた抗炎症作用で皮膚科の外用療法の中心となり、より薬効の強いものの開発が進められてきました。しかしながら、長期間の外用や過量使用により、局所的、全身的な副作用が出現すること、とくに薬効の高いステロイド外用剤ほど副作用の発生頻度が高いこともわかってきました。

ステロイド外用剤の副作用には、成分が血液中に吸収されることによって、からだ全体に生じる全身的副作用と、外用した部位だけに限られる局所的副作用とがあります。

全身的副作用は、外用剤の成分が皮膚から吸収されて血液中に入り、内服や注射などによる全身への使用と同様の影響が出るというものです。それによって肝障害や糖尿病が誘発されたり、幼齢では発育抑制がおこることもあります。

最近、全身的副作用を軽減する目的で、アンテドラッグと呼ばれるステロイド外用剤が登場しました。これは外用した部位では効果を発揮しますが、血液に取り込まれると急速に分解されて効力が低下してしまうという薬です。このアンテドラッグの性格をもつステロイド外用剤には、酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン製剤、吉草酸酢酸プレドニゾロン製剤、ジフルプレドナート製剤、プロピオン酸ベクロメタゾン製剤などがあります。

このアンテドラッグの開発により、現在ではステロイド外用剤による全身的副作用をほとんど気にせず、使用することが可能になりました。

人用のステロイド外用剤の剤形には、軟膏、クリーム、ローション、ゲル、スプレー、テープ剤などさまざまなものがあります。それぞれ有効成分が、もっとも効率よく皮膚に吸収されるよう工夫されているのです。

一方、私たち動物医療の場で動物専用の外用剤はそう多くはありません。そこで人用の製剤を流用することになるのですが、何より動物たちには全身に被毛があり、皮膚そのものの組織構造も人と全く同じではありません。また、刺激のある外用剤を使用すると、気にして舐め取ってしまうことも茶飯事で、外用剤による治療には、悩ましさが付きまとうことになります。

全身性の重症の皮膚疾患であれば、内服や注射による全身投与でという治療法を選ぶことも一般的ですが、部分的、局所的な皮膚疾患でステロイド剤の全身投与を副作用に目をつむってまで選択するというのは少し考えものかもしれません。

そんな中で、最近よく使用されている外用剤に「コルタバンス」というアンテドラッグステロイド製剤があります。動物用薬で基剤も動物向けに考えられているノンガスタイプのスプレーです。痒みの程度に合わせて使用頻度を調節しながら、ある程度長期間使用しても安心なアンテドラッグということで、大変に使いやすいと感じています。


また、猫の慢性歯肉口内炎に人用の「サルコート」というアンテドラッグステロイド製剤を使用し、一定の効果を得ています。「パブライザー」というツールを用いてカプセルに入った散剤を口腔粘膜に塗布すると、唾液で湿潤されて皮膜を形成してくれるのです。


外用剤の進化に合わせて、何とか動物たちにも塗り薬で治療をという工夫も大切なのかもしれませんね。

(文責 よしうち)


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