行動学

「ノーズワーク」の話

「ノーズワーク」の話

動物看護師の最も有名な教科書のひとつに「McCurnin’s Clinical Textbook for Veterinary Technicians」があります。現在はその第8版が出版されていますが、2000年に第4版の翻訳を依頼されて、辞書と格闘していたことを思い出しました。

とりわけ、この第4版から新たに追加されたメンタルケアの章にある「self-esteem」の項です。その章から少しだけ抜粋させていただきました。
(「self-esteem」に相当する日本語としては「自尊心」が一般的ですが、日本語における「自尊心」には、「うぬぼれ」「高慢な意識」を含むような語感があります。これには、ことさら協調性や素直さを善として来た日本の文化的歴史的背景があるように思われます。一方、米国における、個人を大切にする文化において、「self-esteem」は否定的な意味合いを持たない用語と考えられます。したがって、他意のない「自分を尊ぶ心」と言う意味合いで以下を読んでいただければと思います。)


『自尊心は成功の本質的な価値を知り、理解することで構築されます。友達や家族に自尊心の定義を尋ねてみてください。多くの定義や意見が聞けるはずです。自尊心はあなたが用いているような、たった一つの意味合いだけを持つものではなく、多くの側面を持つ意味の集合体なのです。それは、自己価値の本質的な理解であり、思考し、難問に対処する自信であり、価値あることの実現なのです。そして、私たち自身の必要性を主張し、目標を追い求め、私たちの価値を維持し、これらの目標が達成された時の喜びを得ることは、正当な権利なのです。素敵でしょう? それでは、どうやってそれを手に入れる事が出来るのでしょうか? 自尊心を手に入れ、高めてゆく能力は、全ての人間に備わっています。しかし、全ての個々人はまた同様に、自尊心や自信を打ち砕いてしまうような思考や行為を宿してもいるのです。自尊心はあなたの考えや、行動のあらゆる局面に影響を与えるのです。』


この部分を思い出したのには訳があります。ある柴犬のご家族から、「お散歩中の引っ張りや、排泄をしたらすぐに帰りたがる」ということで相談を受けました。詳しくお話をお聞きすると「以前より他の犬に対し、お腹を見せることでうまくコミュニケーションをとっていたようですが、3―4カ月前にドックランでお腹を見せた際に大型犬に馬乗りになられ鼻を噛まれることが同日に2回あり、それ以来、外出先でも隙を見てハーネスを縄抜けして、乗ってきた車まで一目散で戻り、待っているようなことがよくある」とのことで、他の犬とのコミュニケーションに自信をなくし、外出をかなりストレスに感じるようになってしまったようなのです。

どうしたものかと知恵を巡らせましたが、自分ではすぐに解決策を思いつかず、当センターのパピークラスをお願いしているCoCoアドバイザー(JAHA認定こいぬこねこ教育アドバイザー)の富永さんに相談しました。すると、「恐怖心の軽減や自信を持たせてあげることが最優先だと思いますので、ノーズワークを提案します。ノーズワークは嗅覚を使った犬にとって楽しい遊びのようなもので、犬の情報収集能力、独立心、自信、集中を高める効果が期待できます。」とのことでした。そして、ノーズワークについての記事を紹介してもらいました。

 
 人間の約1億倍もあるといわれる犬の嗅覚。人と暮らすようになる前の犬は、この鋭い嗅覚を活用して狩りをし、獲物を捕らえて生きていました。そんな犬たちの嗅覚と習性に着目したスポーツが、「ノーズワーク」です。

  もともとはアメリカの保護施設の犬たちの遊びだったのですが、今では、サンディエゴとロサンゼルスで保護犬のためのノーズワークプログラムが始まっているほど。保護犬や怖がりの犬たちに、もっと自信を持ってほしい。その自信につながるのが、やっぱり嗅覚なんですよね。とは、「ノーズワーク」を日本に紹介
したドッグトレーナー・細野直美さん。

  ノーズワークの基本は「フードサーチ」。あらかじめ目に見えない場所に隠しておいたフード(食べ物)を犬に探させることです。飼い主は犬に指示を出してはいけないことになっていますので、始める前も、「マテ」や「サガセ」などの指示語はなし。犬は、練習を通して自分でにおいを探すことを覚え、成長していきます。犬の自主性を育て、生き生きとした姿を取り戻してもらうことが、「ノーズワーク」の目的なのです。

  「嗅覚を使うことは、犬の本能的欲求を満たして、心身ともに満足させることにつながります。実際ノーズワークの練習をした後は、激しい運動をしたわけでもないのに、満足して熟睡してしまうコが多いです。高齢犬の認知症予防や運動不足解消、脳の活性化にもつながりますよ」とは、日本でノーズワークを広めるべく活動する『ノーズワークファンフレンズ』のトレーナーの一人、松下裕子先生。

    どんな犬も楽しめる究極のドッグスポーツ「ノーズワーク」


      どんな犬でも楽しめる「ノーズワーク」とは?(前編)

    どんな犬でも楽しめる「ノーズワーク」とは?(後編) 


       ノーズワーク初体験(動画:約5分)

     

                (動画を見るには上の画像をクリックしてください)





「McCurnin’s Clinical Textbook for Veterinary Technicians」で述べられているように、人が自尊心を手に入れ、高めていくためには自己実現の体験が不可欠なのと同じように、「ノーズワーク」はまさに犬が犬としての自信を持つためのトレーニングに違いありません。「ノーズワーク」とは、犬が自尊心を手に入れ、高めていくためのスポーツなのですね。


CoCoアドバイザーの富永さんから先の柴犬ちゃんのレッスンの日が決まったと連絡が来ました。柴犬ちゃんの初ノーズワークです。その練習を通して、犬としての自信を取り戻し、成長してくれることを願い、エールを送らずにはいられませんでした。

(文責 よしうち)



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