2019年8月1日
感染症
「ボルナ病」の話│
獣医学関係の学会や研究会は数多くあります。その中で自分たちが興味を惹かれるのは、動物病院という仕事柄、小動物臨床関係の学会や研究会ということになります。その分野に限っても相当な数の学術集会が毎年開催されています。
先日、小動物ウイルス病研究会から学術集会の案内をいただきました。テーマは「浸潤するボルナウイルス感染」。しかも4つ目の講演は「小動物臨床現場における猫のボルナ病」なのです。残念ながら自分は今までに「ボルナ病」と診断した猫はいません。それどころか、「ボルナ病」そのものに関する知識をほとんど持ち合わせていないのです。あわてて「ボルナ病」について調べてみました。
前述の小動物ウイルス研究会でもご講演される、京都産業大学 総合生命科学部 動物生命医科学科 西野佳以 准教授のHPが大変に分かり易く、以下にご紹介させていただきます。
BDVに携わる日本の研究者はあまり多くありません。その理由は、元来ヨーロッパで発見された病気で、日本での症例が少ないこと、そして深刻な人的被害がまだ知られていないことが挙げられます。だからといってBDV研究は重要ではないのかというと、そうではないのです。
その理由は、ボルナ病研究において歴史の古いヨーロッパにおいてもなぜ人間を含む多くの動物種に感染できるのか、なぜさまざまな発症パターンがあるのか、といったボルナ病という病気を考える上で本質的なことが明らかにされていないからです。もし今後、ボルナ病が大流行し毒性の強いウイルスが生まれたら、現状ではまったく太刀打ちできません。
もう1つの理由は、人間においても、他の動物と同様にうつ病や統合失調症などの精神疾患を引き起こす可能性があるという点です。これまで、ウイルス感染により引き起こされる精神疾患は知られていませんし、これを明らかにするのは、容易ではありません。精神疾患の場合、病気に結びつく原因を同定するのは他の病気以上に難しいからです。BDV感染が原因の精神疾患は、おそらく他の精神疾患と異なりウイルス感染症としての治療法や予防法も効果があると予測されます。従って、現在、さまざまな精神疾患と戦っている患者さんのうちBDV感染が疑われるかたは、治療の選択肢が広がる可能性があります。
この他、BDVに感染したラットは自閉症などの脳の発達障害のモデル動物として基礎研究を進める上で役立っています。
このように、BDVに関してはまだまだ解らないことばかりです。またBDVに限らず、持続感染症は発症まで時間がかかるので、実験的に予想できないことがあり、非常に困難がつきまといます。
ボルナ病ウイルス(BDV)がヒトの精神疾患の原因の一つとなる可能性があり、多くの動物種をまたいで感染が可能なのであれば、伴侶動物として人と共に暮らす動物における注意すべき共通感染症が一つ増えることになります。今現在、日本ではまれな病気とされている「ボルナ病」ですが、鳥インフルエンザなどと同じように、将来的に変異を遂げて大いなる脅威となる可能性を否定することはできません。
西野佳以先生のボルナ病ウイルス(BDV)に対する探究心が、「人と動物の絆」の未来を救うことになるのかもしれません。声を大にしてエールを送りたいと思います。
「西野先生、ガンバレー!!」
先日、小動物ウイルス病研究会から学術集会の案内をいただきました。テーマは「浸潤するボルナウイルス感染」。しかも4つ目の講演は「小動物臨床現場における猫のボルナ病」なのです。残念ながら自分は今までに「ボルナ病」と診断した猫はいません。それどころか、「ボルナ病」そのものに関する知識をほとんど持ち合わせていないのです。あわてて「ボルナ病」について調べてみました。
前述の小動物ウイルス研究会でもご講演される、京都産業大学 総合生命科学部 動物生命医科学科 西野佳以 准教授のHPが大変に分かり易く、以下にご紹介させていただきます。
ボルナ病は、19世紀に中央ヨーロッパの騎兵馬で流行しその存在が知られるようになった動物の神経疾患です。ボルナとは最初に病気が発見された町の名前で、その原因ウイルスをボルナ病ウイルス( Borna disease virus: BDV)と呼ぶことになりました。
発見当初、ボルナ病は馬だけのウイルス病と考えられていましたが、その後、羊、牛、猫、犬、鳥類(ダチョウ)などでも発見され、現在では約20種類の温血動物で感染が認められています。ボルナ病の特徴として、歩行できなくなる、足を引きずるなどの運動機能障害がよく知られています。たとえば猫にBDVが感染すると「ヨロヨロ病」と呼ばれる運動機能障害が起こりますが、これは日本でも見つかっています。その他、行動異常や感覚異常(味覚異常など)が現れます。人間でいえば「うつ病」にあたるような症状を示すのもBDVの特徴で、活気がなくなり、感情の起伏が乏しくなります。群れで行動しなくなった牛を調べてみるとBDVに感染していたという報告があります。
BDVは動物の体内に侵入し、神経細胞に入り込んで複製を始め、長期間体内にとどまり続けて、最終的に脳で増殖し脳炎を引き起こします。神経に親和性を持つウイルスが長く体内で生き残れる理由として、感染した神経細胞をすぐに殺さない性質であることと、神経細胞は体内の他の細胞に比べて寿命が長いため細胞内のウイルスも長く存在できることが挙げられます。
発見当初、ボルナ病は馬だけのウイルス病と考えられていましたが、その後、羊、牛、猫、犬、鳥類(ダチョウ)などでも発見され、現在では約20種類の温血動物で感染が認められています。ボルナ病の特徴として、歩行できなくなる、足を引きずるなどの運動機能障害がよく知られています。たとえば猫にBDVが感染すると「ヨロヨロ病」と呼ばれる運動機能障害が起こりますが、これは日本でも見つかっています。その他、行動異常や感覚異常(味覚異常など)が現れます。人間でいえば「うつ病」にあたるような症状を示すのもBDVの特徴で、活気がなくなり、感情の起伏が乏しくなります。群れで行動しなくなった牛を調べてみるとBDVに感染していたという報告があります。
BDVは動物の体内に侵入し、神経細胞に入り込んで複製を始め、長期間体内にとどまり続けて、最終的に脳で増殖し脳炎を引き起こします。神経に親和性を持つウイルスが長く体内で生き残れる理由として、感染した神経細胞をすぐに殺さない性質であることと、神経細胞は体内の他の細胞に比べて寿命が長いため細胞内のウイルスも長く存在できることが挙げられます。
BDVに携わる日本の研究者はあまり多くありません。その理由は、元来ヨーロッパで発見された病気で、日本での症例が少ないこと、そして深刻な人的被害がまだ知られていないことが挙げられます。だからといってBDV研究は重要ではないのかというと、そうではないのです。
その理由は、ボルナ病研究において歴史の古いヨーロッパにおいてもなぜ人間を含む多くの動物種に感染できるのか、なぜさまざまな発症パターンがあるのか、といったボルナ病という病気を考える上で本質的なことが明らかにされていないからです。もし今後、ボルナ病が大流行し毒性の強いウイルスが生まれたら、現状ではまったく太刀打ちできません。
もう1つの理由は、人間においても、他の動物と同様にうつ病や統合失調症などの精神疾患を引き起こす可能性があるという点です。これまで、ウイルス感染により引き起こされる精神疾患は知られていませんし、これを明らかにするのは、容易ではありません。精神疾患の場合、病気に結びつく原因を同定するのは他の病気以上に難しいからです。BDV感染が原因の精神疾患は、おそらく他の精神疾患と異なりウイルス感染症としての治療法や予防法も効果があると予測されます。従って、現在、さまざまな精神疾患と戦っている患者さんのうちBDV感染が疑われるかたは、治療の選択肢が広がる可能性があります。
この他、BDVに感染したラットは自閉症などの脳の発達障害のモデル動物として基礎研究を進める上で役立っています。
このように、BDVに関してはまだまだ解らないことばかりです。またBDVに限らず、持続感染症は発症まで時間がかかるので、実験的に予想できないことがあり、非常に困難がつきまといます。
ボルナ病ウイルス(BDV)がヒトの精神疾患の原因の一つとなる可能性があり、多くの動物種をまたいで感染が可能なのであれば、伴侶動物として人と共に暮らす動物における注意すべき共通感染症が一つ増えることになります。今現在、日本ではまれな病気とされている「ボルナ病」ですが、鳥インフルエンザなどと同じように、将来的に変異を遂げて大いなる脅威となる可能性を否定することはできません。
西野佳以先生のボルナ病ウイルス(BDV)に対する探究心が、「人と動物の絆」の未来を救うことになるのかもしれません。声を大にしてエールを送りたいと思います。
「西野先生、ガンバレー!!」
(文責 よしうち)
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