神経科

「てんかん」の話

「てんかん」の話

皆さんの街に踏切はあるでしょうか。都会では線路が高架になり踏切の数は減少しているように思います。調べてみると、平成18年には全国で34,952箇所あったものが、平成26年には33,528箇所へと、4%減少していました。出典:踏切数の推移(鉄道局資料より)

 なぜ唐突に踏切のお話をしたのか、それは先日、日本獣医師会の講習で神経病にたいへん造詣の深い広島県開業の田村慎司先生の講義を聴いたからなのです。

 田村先生は自分と同じ山口大学出身で17年後輩、当時の生理学教室教授の徳力幹彦先生のお弟子さんで、今から20年近く前、開業して2年目でMRIを導入したという逸話を持つ獣医神経病学会理事の神経病マニアです。

 田村先生の講義では、学術的に様々な定義や分類のある「てんかん」を、臨床家らしくすっきりと分かり易く、また、飼い主の方々にもどう説明すればうまく理解していただけるかということまで解説いただきました。

 飼い主の方から「発作」「ひきつけ」「けいれん」などの「てんかん」を思わせる言葉が出たときに、何をどう考えていけばよいのかというのが最初のテーマでした。

 まず、中毒や腎臓病、肝性脳症などの頭の中に原因がない発作(代謝性)を除外すること。それで残ってくるのが「てんかん」ということになるのですが、その3分の2が「特発性てんかん」で、残りの3分の1が「構造的てんかん」と言われています。「構造的てんかん」は以前「症候性てんかん」と呼ばれていたもので、その3分の2が脳炎と脳腫瘍で、残りの3分の1が下のグラフのその他にあたる脳奇形や脳ヘルニアなどです。「特発性てんかん」は遺伝的要因が疑われるものや構造的な問題がないものを指します。


 反対に飼主の方から「てんかん」を思わせる言葉が出ないものもあります。てんかん発作には全般性発作と焦点性発作があり、全般性発作は誰の目にも「発作」「ひきつけ」に見えますが、焦点性発作は、1本の肢のみのけいれんや口の周りの引きつり、顔面のけいれん、fly bite*など、大脳皮質の一部だけの異常興奮でおきますが、これも「てんかん」の仲間なのです。(*見えない虫に飛びつく犬の話 参照)

 治療には「発作を予防する薬」「今起こっている発作を止める薬」「寝かせる薬(麻酔薬)」を使用します。

 「構造的てんかん」は発作を予防しながら脳腫瘍や脳炎などの原疾患の治療が必要ですが、「特発性てんかん」は原疾患がないにもかかわらず「てんかん発作」が起きてしまいますので、治療の主眼は発作を予防することに置かれます。

「発作を予防する薬」は以下のような場合に必要となります。
・6か月以内に2回以上の発作がある場合。
  ・群発発作やてんかん重積(発作が止まらなくなった状態)がある場合
  ・構造的てんかんが診断された場合
  ・全般発作後に焦点発作が24時間以上続く場合

 田村先生の講義を聴くまでは、「発作が半年以内に2回起きているようなら、抗てんかん薬を与えた方が良いですよ。」と説明していましたが、それでは飼い主の方々の不安を十分には和らげることはできていなかったかもしれません。田村先生は次のように飼い主の方に説明するのだそうです。

「てんかん」は“踏切”に例えることができます。
「大脳皮質の異常活動」という“電車”が踏切にさしかかると、
「発作」という“遮断器“が降りるのです。
“電車”が遠ざかれば“遮断機”が上がり、普通の状態に戻ります。
やみくもに恐れることはないんです。

6か月に1回以下の発作に留まるよう「発作を予防する薬」でコントロールすることが治療の目標となります。

「特発性てんかん」では、線路の高架化のように踏切自体を無くすことは難しいかもしれませんが、駅と踏切の距離を広げるなどの環境の整備は可能かもしれません。中鎖脂肪酸を多く含むような神経疾患用のフード(ニューロケア®/ピュリナ)が療法食として登場し、大脳皮質の環境の整備が可能になってきたように思います。

冒頭に全国の踏切数の推移の話をしました。「てんかん」においても、様々なアプローチで踏切数を減らすことができる時代が来るのかもしれません。

(文責 よしうち)


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