猫学

「猫にシクロスポリン」の話

「猫にシクロスポリン」の話

犬の皮膚病の治療薬はここ何年かの間に大きく様変わりしました。アポキル、サイトポイントとIL-31に対する抗体薬が登場したからです。(2016年04月のコラム「痒みを断つ」の話参照)

 

一方で猫の皮膚病については、IL-31に対する抗体薬では十分にかゆみを抑えることができず、もっとも一般的なステロイドであるプレドニゾロンの効果率も45%程度と、劇的にかゆみを抑えることができる犬と比べれば、頼りないと言わざるを得ない状況です。

 

10年程前に発売された猫用のシクロスポリン内用液というシロップがあります。シクロスポリンはアトピカの名前で20年程前に犬用が承認され、ステロイドの代替薬としてアトピー治療の大きな部分を担ってきました。アポキルが登場した現在も、第1選択薬の座は譲ったものの、確固たる地位を守り続けています。

 

この猫用アトピカ内用液は、なかなか一般診療では広がりを見せていません。一般診療ではという注釈の理由は、皮膚科の専門医の中では大変に評価が高いからなのです。

 

猫の皮膚病には大きな特徴があります。かゆみに対する猫の行動です。あの爪でかゆい部分を掻破する、あのザラザラの舌で舐める、原因はともあれかゆみがあれば皮膚はひたすらいため続けられるのです。

 

とてもまずいことに、人や犬に比べると、猫では皮膚での肥満細胞分布が多く、頭頸部はさらに多くの肥満細胞が分布していて、搔破行動の刺激により、肥満細胞の脱顆粒を誘導し、症状をより重症化させるのです。

 

肥満細胞とは、血球系の細胞で正常時でも身体の皮膚や粘膜など全身の組織に広く分布し、免疫応答に関係しています。


この肥満細胞に蓄えられている様々な成分の顆粒が、細胞が壊れることで細胞外にこぼれ、炎症やかゆみ、血管の透過性亢進などを引き起こすのです。

 

この猫の皮膚病の特徴に対して、シクロスポリンの働きが実によく対抗してくれるのです。

シクロスポリンの作用は多岐にわたりますが、なかでも




この2つの作用が猫のかゆみを劇的に抑えてくれます。このメカニズムがとても理にかなっていることが、皮膚科の専門医に高い評価を受ける理由なのです。

 

ノミ対策は万全。皮膚掻把検査で疥癬やニキビダニも除外した。被毛を検査しても糸状菌はいない。二次感染は抗生剤で抑えた。ならばと、ステロイドを飲ませ、エリザベスカラーや保護服を着せても、痛ましい皮膚の症状には大きな改善が見られない。そんな愛猫が、猫用アトピカ内用液を飲み始めると日に日に良くなっていくのです。

 

そんなに効果が高いのなら、もっと普及しても良いのではと思われることでしょう。それには厄介な理由があるのです。

 

犬のアトピー治療で、犬用アトピ カを使用した際に遭遇する下痢などの消化器症状を多くの獣医師が経験しており、薬物に敏感な猫ではさらに消化器症状は強いだろうとしり込みしてしまうのです。実際には、犬での消化器症状は通常1-2週間ほどで解消されることが多く、猫では意外なことにほとんど消化器症状は見られないのですが、初めて処方するときにはそれなりの抵抗があるのも事実です。

 

その抵抗を乗り越えて使用し始め、効果が現れて来た頃に、次の難関がやってきます。猫が飲むのを嫌がり始めるのです。今度は猫の抵抗が始まります。それは次第にエスカレートし、よだれを滝のように流すようになり、遂には投薬を断念することも。

 

ステロイドと比較しても圧倒的に高い安全性が確認されているにもかかわらず、長期投与ができないことが多いのです。

 

ごまかすためのあの手この手も猫には通用せず、なんとか猫が嫌がらないような加工技術が開発されないものかと、残念な思いが膨らみます。

 

「猫ちゃん、なんとか我慢してこのシロップを飲み込んで〜」と、

猫の投薬の難しさに心が折れそうになる「猫用アトピカ(飲ま)ないよ薬」なのでした。

(エランコさん、恨み言を言ってゴメンナサイ)

 

 

(文責 吉内)



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