整形外科

「犬の痛み止めに革命が起きる」の話

「犬の痛み止めに革命が起きる」の話

腰が痛い、頭が痛い、肩が痛い、歯が痛い。そんな時に痛み止めのお世話になったことのある方は多いに違いありません。テレビを見ていても、痛み止めのCMがこれでもかと流れてきます。

 

痛みは体からのSOS。その原因を治しましょうというメッセージなのですが、例えば術後疼痛のように、手術をしたので切開した部位が痛いのは当たり前、きちんと縫合して治るようにしてありますよ、というような時にはメッセージを出してもらう必要はありません。不要な痛みは無い方が良いに決まっていますし、痛みの原因が分かり、根本的な治療を開始してから治るまでの間の痛みは、それこそ余計なお世話で、むしろ痛むことで治癒が遅れることすらあります。

 

このように、痛みの役割を理解した上で、痛みを取り除くことで治癒を早め、生活の質を高めることが疼痛管理の目的で、人医療のみならず、動物医療でも大切な分野となっています。

 

その痛み止めにもいろいろな種類があります。

(ピンとくるように人体用の商品名も書いておきました。)


·        NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):バファリン、ロキソニン、ボルタレン

·        アセトアミノフェン:アセトアミノフェン錠、多くの風邪薬に配合

·        弱オピオイド(非麻薬性鎮痛薬):レペタン、ソセゴン

·        強オピオイド:モルヒネ、フェンタニル

 

オピオイドは神経細胞のオピオイド受容体に結合し、その細胞の興奮を抑制します。これにより、鎮痛効果が働きますが、多くは注射薬として医療現場で使用され、また、貼付剤として処方されています。

 

一方、NSAIDsは多くの人で服用経験があるような馴染みのある薬剤です。NSAIDsは、プロスタグランジンの合成を抑えることで、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を発揮します。

アセトアミノフェンは、NSAIDsより作用が弱く抗炎症作用がないため、NSAIDsの仲間から外れています。

 

今秋に犬用消炎鎮痛剤として、従来のNSAIDsとは異なるメカニズムを持つ「世界初」と銘打ったNSAIDsが利用可能となります。そこで、何が新しいのか、痛みのメカニズムの解説を交えてお話ししましょう。


痛みのメカニズムの主体はアラキドン酸経路と呼ばれています。そして、EP4受容体は犬の変形性関節症の痛みや炎症の主要な伝達部位です。

 

     

軟骨などの細胞が傷害を受けると、細胞膜からリン脂質が遊離します。

 

        

リン脂質はホスホリパーゼによって分解され、アラキドン酸が生成されます。

(この段階を阻害するのがステロイドです。)

 


アラキドン酸はシグナル伝達や血管拡張に重要な役割を果たします。

 

  

生成されたアラキドン酸は、シクロオキシゲナーゼ(COX-1およびCOX-2)によってPGH2に変換されます。

(この段階を阻害するのが従来のNSAIDsです。)

 


PGH2はすべてのプロスタグランジン(PG)の元となる中間的な分子です。

 

     

PGH2の一部はプロスタグランジンE合成酵素によってPGE2に合成されます。

 


PGE2受容体にはEP1EP4の4つのサブタイプがあり、前述の通り犬ではEP4が変形性関節症の痛みや炎症の主要な伝達部位となっています。そのEP4受容体のみを阻害する薬剤が新たに開発されたということなのです。

 

プロスタグランジン(PG)は一群の生理活性物質で、様々な強い生理活性を持っています。プロスタグランジン(PG)が生成される過程において、より上位が阻害されるほど影響が多岐にわたり、望まない作用があらわれることは、容易にご理解いただけるものと思います。

 

ちなみに、人における様々なプロスタグランジンの作用を以下に列記します。

(プロスタグランジンの多様な作用の代表的なもののみの記載となります。)

·        PGA:血圧低下作用のみ

·        PGB:血圧低下作用のみ

·        PGC:血圧低下作用のみ

·        PGD2血小板凝集作用・睡眠誘発作用(PDD受容体)。

·        PGE1動脈管開存作用、子宮収縮作用。

·        PGE2

o   平滑筋収縮作用(EP受容体EP1サブタイプ)

o   末梢血管拡張作用(EP受容体EP2サブタイプ)

o   発熱・痛覚伝達作用(EP受容体EP3サブタイプ)

o   骨新生・骨吸収作用(EP受容体EP4サブタイプ)。

·        PGF2α黄体退行・平滑筋(子宮気管支・血管)収縮作用(FP受容体)。畜産においては繁殖に利用される。

·        PGG:血圧低下作用・血小板凝集作用・眼圧降下作用

·        PGH2:血小板凝集作用

·        PGI2:血管拡張作用・血小板合成阻害作用(IP受容体)。

·        PGJ:抗腫瘍作用のみ

お気づきの通り、人では痛みや炎症の主要な伝達部位はEP3となっています。これは、EP受容体機能が動物種によって異なるためです。

 

犬においてEP4受容体阻害薬が開発されたことは、胃壁の保護作用や腎臓の保護作用に支障をきたすことなく、痛みや炎症を抑えることができるようになったことを意味します。商品名「ガリプラント」の取説には、最大薬用量の10倍を9か月間連続投与した際の安全性が謳われています。副作用を気にせずに痛み止めを服用できることのメリットは計り知れません。人においてもEP3受容体阻害薬の早期実用化を期待したいと思います。

 

(文責 よしうち)



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