猫学

「鼻ぺちゃ過ぎる猫に起きる不都合」の話

「鼻ぺちゃ過ぎる猫に起きる不都合」の話

犬にフレンチブルやパグ、ペキニーズなどの短頭種がいるように、猫にもペルシャを代表とする鼻ぺちゃ種がいます。旧来からの根強い鼻ぺちゃファンがいる一方、保護猫にも(いろいろな事情があったのでしょう)ペルシャミックス?と思わせるような短頭種と言っても良いような容姿の猫を見ることがあります。

 

猫の出自はともかく、鼻ぺちゃの猫は愛らしく、性格も温厚なことが多く、良い事ばかりのようですが、短頭種であるがゆえの不都合なことを抱えていることもあるのです。

 

短頭種の頭蓋骨を3D-CTを用いて研究した論文があります。Journal of Veterinary Internal Medicine, Volume: 31, Issue: 5, Pages: 1487-1501, First published: 20 August 2017, DOI: (10.1111/jvim.14805)

 



短頭種の特徴として、短いマズル、前頭骨から後頭骨までの距離が短いことが挙げられます。

その程度を両眼球の最下端の接線の位置を基に、

鼻がその線の間に来る場合=peke-face

鼻がその線よりも下にくる場合=doll-face

と表現します。peke-faceはペキフェイスともピークフェイスとも訳されていますが、そもそもはペキニーズのような風貌からそう呼ばれるようになったといわれています。

 

シェーマで示されているように、短頭の度合いによって

Ø  犬歯の向き

Ø  下顎の回転

Ø  眉間のくぼみ

Ø  鼻骨の長さ

Ø  頭蓋骨の形状

に違いがあるのが見て取れるでしょう。

 

その結果として

Ø  流涙症

Ø  角膜の知覚低下

Ø  気道閉塞症候群

Ø  摂食困難

Ø  水頭症

などの問題が生じてしまうのです。

それぞれに少しだけ解説を加えておきます。

 

Ø  流涙症

 骨格の短頭化によって鼻涙管が屈曲⇒涙液の流出路の閉塞

    ・ 涙やけ

    ・ 眉間の皮膚炎(皺壁皮膚炎)

   


Ø  角膜の知覚低下

 眼瞼反射の低下

    ・ 角膜損傷

    ・ 角膜炎   

 


Ø  気道閉塞症候群

 ・ 鼻腔狭窄/鼻甲介の後方変位

    ・ 軟口蓋過長

    ・ 喉頭嚢反転、喉頭虚脱、気管虚脱

  ⇒ 気道抵抗の増加

    ・ 鼻閉

    ・ 呼吸困難

    ・ 高体温

  外鼻孔の狭窄については新しい術式が提案されています。


 左が外鼻孔狭窄の猫、右が正常な猫。


Journal of Feline Medicine and Surgery 2020, Vol. 22(12) 1238–1242© The Author(s) 2020Article reuse guidelines:sagepub.com/journals-permissions


Ø  摂食困難

    ・ 下顎の前方変位

    ・ 上顎犬歯の水平化

  ⇒ 摂食行動の制限

    ・ 手を使って食べる

    ・ 偏食



Ø  水頭症

 頭蓋骨のドーム状変形

   ⇒ 脳脊髄液の交通障害

    ・ 嗅球の腹側変異

    ・ 小脳ヘルニア  

    ・ 側脳室の拡張(水頭症) 

 


鼻ぺちゃさんは、色々と大変なのです。それこそ、人の手からしかものを食べることができない子もいます。人の身勝手な繁殖によって不自由を余儀なくされてきた歴史を踏まえ、大変な子には愛の手を、そして、短頭な保護猫は敬遠されがちですが、外見とは裏腹なとっても良い子がたくさんいることも申し添えておきます。この子たちの不都合、とても他人事には思えません。だって、人間も典型的な短頭種なのですから:^^)

(文責 よしうち)



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