猫学

「猫の心因性脱毛症のワケに気付いてあげよう」の話

「猫の心因性脱毛症のワケに気付いてあげよう」の話

1年のうちで最も寒い時期になりました。雪がちらつき北風がピープー吹きすさぶときには、コタツにくるまり、一緒に潜り込んでくる愛猫の顔や体を撫でながら、熱燗でもすするに限ります。

 

ふとお腹をさすった時に、妙にツルツルして手触りがよく、アレッ毛は?と、慌てて愛猫を引きずり出しお腹を確認してみると、バリカンできれいに剃毛したように、ツルッぱげ。

 

えらいこっちゃ!とばかりに皮膚をまじまじと観察しても、赤味やポツポツひとつなく、ただただ毛が極端に短いだけ、どうしたものかと思案に暮れたというような思いをされた方は少なくないことでしょう。

   

 

これは「心因性脱毛症」と呼ばれ、過度のグルーミング行動によるもので、皮膚病ではなく行動学的な問題なのです。

 

ただし、事はそう単純ではありません。

 

皮膚に炎症や発疹があれば、心因性ではなく皮膚病と考えたいところですが、心因性脱毛でも過度なグルーミングによって皮膚が傷つき、炎症を伴っているものも少なからず存在します。また、皮膚病によって痒みがあり舐めるという行動が続き、そのうちに皮膚病が治ってしまっても舐めるという行為だけが続いているような場合もあります。つまり、皮膚病なのか心因性なのか判断できない場合が多く、しかもエンドレスに続いてしまうのです。

 

大原則として、まず身体的な異常(つまり皮膚の病気がないか)の除外診断を行い、除外できた場合にようやく行動学的な問題となるのです。除外されるべき疾患には、ノミアレルギーや食物のアレルギー、糸状菌症、疥癬症、肉芽腫症などがあります。

 

そして、心因性脱毛症という診断にたどり着いたら、その対処は一筋縄ではいかないのが普通ですから、腰を据えじっくりと、諦めずに取り組みましょう。

 

動物行動学では、猫の心因性脱毛は、ウールサッキング(布や織物、プラスチックなど人工素材を吸う、噛む、摂食する行動)とともに、猫の代表的な常同行動として説明されています。

 

心因性脱毛のシナリオは以下のように考えられています。猫の正常な行動パターンとして、不安、不満、葛藤などのストレスを感じると、その軽減のためにグルーミングが始まります。ところがストレスの原因がなかなか解決されずに持続すると、次第に環境のストレスと関係なく舐める行動が持続してしまい、そのうちに過剰となって心因性脱毛に行き着いてしまうのです。品種、年齢、性別には関係なく見られ、シャム、アジア系品種では遺伝的素因があるとの指摘もあります。

 

原因となるストレスには、環境の変化(例:同居猫が増えたなど)や分離不安(例:飼主の方が留守がちなど)、身体的痛み(例:変形性関節症など)や不快感(例:下部尿路疾患など)などがあり、あらゆるストレスといってもよいくらい多岐にわたります。

 

それでも治療の第一歩は、ストレス源の特定から始めなければなりません。身体疾患がないかどうかは動物病院にお願いしましょう。その際に猫のニーズに応えることができていないことがないか相談に乗ってもらえると思います。それらしきことの目途がつけば、ストレスを減らす手を考えましょう。

 

ストレス源がよくわからなくても、頭を使う遊びは集中により不安を和らげることができますし、エネルギーの発散やコミュニケーションを増やすことで欲求不満の解消は図れますので、おすすめです。

 

エリザベスカラーや保護服という手もありますが、反対にストレスを増大させることがありますので要注意です。

 

それでも、改善がなければ抗不安サプリメントやフェロモン製剤を使用したり、皮膚の傷害がひどい場合には抗うつ剤やシクロスポリン製剤などの薬剤療法も可能ですので動物病院にご相談ください。

 

いずれにしても、猫の心因性脱毛は長丁場。治療は長期に及ぶのが普通ですから、神経質にならずに大らかに進めていきましょう。

 

「お腹がツルツルしていて触り心地がいいから毛なんて生えなくてもいいよ」と、しょっちゅう触っていたら、そのスキンシップが功を奏して毛が生えてきたなんてこともあるかも。

 

猫に寄り添う気持ちが「心因性脱毛症」の一番の治療なのかもしれませんね^^

(文責 吉内)



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