「ネコの尿比重はビーズに教えてもらう」慢性腎臓病の話
オシッコの濃さといえば、色の濃さと考えるのが普通でしょう。薄いオシッコは真水のように無色に近く、濃くなればなるほど黄色が強くなってくると日々の経験から知っています。これを客観的な数値として測定するのに、水を1とした場合の重さの比=比重が大変に便利なのです。オシッコには老廃物が溶け込んでいますから、その分だけ水より重くなっているはずです。これが尿比重の意味なのです。
人の尿比重の基準値は1.010~1.030の範囲にあり、1.030以上の場合を高比重尿(濃縮尿)、1.010以下の場合を低比重尿(希釈尿)と呼びます。
犬の尿比重の基準範囲は1.015~1.045、猫では1.015~1.060とされています。そして、犬では1.030以上が、猫で1.035以上が正常な濃縮を示す尿比重です。
尿比重は飲水量などによって大きく変動しますが、それは、腎臓が必要に応じて調節しているからです。つまり腎臓は老廃物を排泄すると同時に、体内の水分の量も調節してくれているのですが、そこには「ろ過」と「濃縮(再吸収)」という巧みな仕組みが働いているのです。
この仕組みを腎臓の基本的な機能単位であるネフロンの図で説明しましょう。腎臓は両腎あわせてこのネフロンが人で200万個、犬で80万個、猫で40万個集まった臓器ですから、ネフロンの機能が分かれば腎臓全体の機能を理解したのと同じです。
腎臓には1日に120Lもの血液が流れ込んでおり、これは心臓が1日に送り出す血液量(600L)の約20%に相当します(体重5㎏の猫当り)。
腎動脈から流れてきた血液は、ボウマン嚢の糸球体に入っていきます。この糸球体を血液が流れる間に、圧力差によって濾過が行われます。
この濾過は、圧差による無選択的な浸出ですが、糸球体の内張りの細胞層からは分子量の大きな物質は滲み出ません。こうしてボウマン嚢で濾過された尿を原尿といいます。
この原尿の量は体重5㎏の猫で1日に約15Lにも達します。しかし、原尿は単に分子の大きさによってのみ選別されたものですから、体にとって必要な物質もたくさん含まれています。
そこで、次の段階として行われるのが、尿細管における再吸収です。再吸収を終えて尿として排泄されるのは原尿のわずか1%です。
原尿には、水、ブドウ糖、アミノ酸、電解質などが含まれていて、これらの体に必要な成分をそのまま排泄してしまわないように、ボウマン嚢に続く尿細管で尿細管周囲毛細血管に吸い上げる仕事=再吸収が行われます。
・近位尿細管:ブドウ糖、アミノ酸など(ほぼ完全に再吸収)
水、ナトリウム、塩素、カリウムなど(70〜80%再吸収)
・ヘンレ係蹄(ヘンレループ):水、ナトリウム、塩素、カリウムなど
・遠位尿細管:水、ナトリウム、塩素など
尿細管では再吸収を行うと同時に、血液中の不要な物質(尿素、尿酸塩、リン酸塩、アンモニア、クレアチニンなど)が尿中に移動します(分泌と呼ばれています)。
尿細管を通過した結果、水分の99%と、アミノ酸、単糖、電解質など、身体にとって必要とされる物質を取り戻すことができるのです。尿生成のしくみをご理解いただけたでしょうか。
さて、尿比重1.008~1.012の尿は、等張尿と呼ばれます。これは、慢性腎臓病に特徴的な尿比重です。先に、犬では1.030以上が、猫で1.035以上が正常な濃縮を示す尿比重というお話をしました。体に水が不足している状況でも、腎臓の機能が低下して再吸収や分泌に障害が起きると、次第に原尿がそのまま尿として排泄されるようになっていきます。そして、末期的には、尿比重が常に一定(1.010付近)の値を示すようになります。これが、尿量が多いにもかかわらず、老廃物が体にたまっていく理由で、言葉では、「腎臓の濃縮能の低下」と表現されます。
猫では、濃縮能の障害が起きるタイプの慢性腎臓病が大変に多く、慢性腎臓病の進行につれて、尿比重が上下せずに比重の変動する幅が狭くなります。
もしあなたの猫があまり水を飲まないのに尿比重が1.035よりも低ければ、そしてそろそろシニアかなという年齢であれば、一番に慢性腎臓病を疑わなければなりません。どうすれば家で尿比重を知ることができるのでしょう。もちろん動物病院で尿検査を受けるのが最良です。でも何とかお手軽にというのがニャン情(人情)ですよね。そこで朝日新聞のSippoとシステムトイレの花王が面白い試みを始めたのです。
動物病院では光学的な屈折を利用した犬猫専用の尿比重計で正確に尿比重を測定します。でも、このビーズの比重を1.035付近に調整して簡易的に尿比重のレベルを知るという発想には感心させられました。(大発明ですね^^)
愛猫がシニア期に入ったら、手軽にお家で尿比重チェック!
セルフメディカルチェックは早期発見、早期治療のトレンドですから!
(文責 吉内)
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