2002年1月1日
社会事象
画像診断の話(その1)
明けまして、おめでとうございます。本年もシコシコとコラムを書いて行くつもりです。よろしくお願いいたします。
ところで、年賀状は毎年どうされていますか? 手書派、印刷屋さん派、パソコン自作派、手彫りはんこ派、いろんな賀状が手元に配達されて、それを見るのも正月の楽しみのひとつといえるでしょう。その中でも、デジカメやスキャナーが普及し、プリンタの性能が向上して、写真年賀が増えたように思います。PCマニアでなくとも、メガピクセルのデジカメとか、スキャナーで取り込むときには240dpiでとか、イメージファイルやら、イメージングやら、専門用語が口を突いて出てきます。テクノロジーの進化の波は、確実に家庭の中にも入り込んでいるのです。そして、同様に、いやそれ以上に医療機器の進化には、眼を見張るものがあり、特に画像診断機器はここ何年かで長足の進歩を遂げています。
今月のコラムは、いつもと趣向を変え、代表的な画像診断機器を紹介することにしましょう。ところで、画像診断という言葉はご存知でしたか? 比較的新しい言葉で、イメージング・ダイアグノーシス(Imaging diagnosis)の日本語訳です。レントゲンが発見されて以来画像診断の代表はレントゲンであり、放射線科とか放射線学と呼ばれていたひとつのカテゴリーだったものが、エコー、CT、MRIなどの開発と共に、統合的に「画像診断」と呼ばれるようになったものです。
それでは、始めにレントゲンの話です。レントゲン撮影では、電離放射線を被写体に向かって発射し、被写体の向こう側にあるフィルムでそれを受け止めます。被写体を構成する物質ごとに電離放射線の透過率(吸収率)が異なるため、被写体の構造が透けて見えるような像を得ることができます。従ってレントゲン像は投影された像、すなわち影絵のようなものなのです。例えば骨は吸収率が高くレントゲン線が透過しにくいためフィルム上に白く写り、反対に空気はよくレントゲン線が透過するため黒く写ります。水はその中間です。動物の体を構成する臓器組織はそれぞれ含水率や含気率が異なり、特有の形・陰影度でフィルム上に像を形成することになります。骨折や心肺、消化器、生殖器などの形態的な評価には欠かすことのできない検査といえるでしょう。
最近ではCR(Computed Radiography)と呼ばれるコンピュータ処理を取り入れた次世代のレントゲン装置が普及しつつあります。フィルムの代わりにIP(Imaging plate)と呼ばれるレントゲン検出シートを用い、そのシートをスキャニングしてコンピュータ処理し画像ファイルとして保存し、またフィルムにレーザー光でプリントするシステムです。現像による二次的な情報の変化をなくし、感度の向上や人間の視覚特性に合わせた情報処理により、飛躍的に高精細度のレントゲン像を実現しています。南大阪動物医療センターでは、3年前よりCRを導入し、日常診療に役立てています。
CRとくれば次ぎはCTでしょう。CTとはコンピュータトモグラフィー(Computed tomography)のことで、正確にはX線CTを指します。これもレントゲン線を利用した画像診断機器のひとつで、被写体をはさんでレントゲンの線源と検出器が向かい合って配置され、レントゲン線を照射しながら被写体の周囲を360度回転します。そして透過したレントゲン線の強度をコンピュータで再構成し断層画像つまり輪切り像を描出するというものです。以前はその輪切りを何枚も積み重ねるアキシャルスキャン(Axial scan)が主流でしたが、最近では被写体を移動させながら連続的にスキャンするヘリカルスキャン(Helical scan)が登場し、検査時間の短縮やデータの連続性が向上しました。さらに線源と検出器のセットを複数代並置し一機に膨大なデータを処理できるマルチスライスヘリカルスキャン(Multi-slice helical scan)の登場で、さらに短時間で良好な断層像が得られるようになりました。
通常のレントゲン像が投射像であるのに対し、CT像は断層像であり、コンピュータの進歩によって、短時間で横断面、縦断面、水平断面をいとも簡単に再構成できます。投影像では重なった部分の評価や、頭部のようにレントゲン透過性の低い骨によって囲まれた部分の評価は不可能であったのに対し、内部構造の解析や、各臓器組織相互の位置関係などで、その真価を存分に発揮してくれます。昨年(2001年)11月に当センターもその一翼を担うネオ・ベッツ動物病院グループ共同で動物のためのCTセンターをオープンしました。頭部疾患・脊髄疾患・体腔内腫瘍の診断で、徐々に実績を積み重ねることができています。
CRにしろCTにしろ、的確な器械操作と得られた画像に対する正確な評価が不可欠です。機器の進化に獣医師が四苦八苦していては、本末転倒といわれても仕方がありません。種々の診断機器を駆使し、動物にとってもその飼い主さんにとっても最良の治療を選択できてこそ、初めて価値ある検査だったといえるのですから。獣医さんは、日々精進あるのみというところで、年頭のコラムでした。エコーの話、MRIの話は来月に譲ることにします。
(文責:よしうち)
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