2008年07月01日 皮膚科

「新・アトピーの話」

「新・アトピーの話」

 地震発生時の緊急速報が開始されたが、期せずして地上波テレビ放送のデジタル化が決まり、2011年にはアナログ放送が終わることになっている。いわゆる地デジは画質も実に綺麗でより多くの情報をのせることが出来るなど良いことずくめのようだが、著作権の問題など、新たに発生する問題をクリアしなければならない。冒頭に書いた地震発生緊急速報にいたっては機器のデジタル処理時間の問題で、2秒程度の遅れが出るのだそうだ。しかも当分この問題は解決しそうにない。緊急速報の性質上この2秒の遅れは、速報自体が間に合わない地域の拡大を意味し、地デジの思わぬ穴となってしまった。
 技術の革新、新機軸の登場は、少なくとも自分たちの生活に大きな恩恵をもたらすものとの思いはあるが、それに伴う新たな問題はより複雑で、さらに多くの労力を要することも多い。通信手段が郵便か電話だった30年前と比べ、ファクシミリや携帯電話、電子メールなどの機動性や即時性にすぐれた通信が当たり前の現代に、スパムメールなどの新たな問題が生まれ、いったい便利になっているのか、余計な労力を増やしているのか、技術の革新とはいったいなんなのだろうと思わず自問することも多い。

 本コラムでは過去に3度「アトピー」をテーマに取り上げてきた。その中で少し触れるだけにとどまっていたアトピーの新規治療法のその後はいったいどうなのだろうか?

 アトピーに著効のある薬剤としてのステロイド剤の内服も、長期連用においては余りにもその副作用が多岐にわたり重大なことも多いため、今現在では、季節性のあるアトピーにおける短期使用のみが推奨されている。

 ならば、その代替薬として最も有望なシクロスポリン(商品名:アトピカ)は、安全性や効果に問題はないのだろうか。
 EBM(Evidence Based Medicine)の見地からは、十分に合格のようだ。皮膚以外に問題のない動物では十分に安全でもある。自分の使用経験では、ステロイド剤との違いは、効果の現れるのがゆっくりで、しっかりと効いてくる感じだ。多飲多尿も見られず、何らかの副作用が現れたことは今のところない。最も問題になるのは、費用の方だろう。安価な合成ステロイド剤と比べれば数倍は覚悟しなければならない。しかしその部分でも、ケトコナゾールのようなチトクロームP-450酵素系を抑制する薬剤との併用でシクロスポリンの血中濃度が上昇することから、結果として使用量を半減できることが分かっている。大型犬などではこの併用は検討に値する。兎にも角にも、シクロスポリンの認可はまぎれもなくステロイド代替薬の登場といっても差し支えない。  
実際的にも、このシクロスポリンの作用機序はステロイドと大きく変わるところがない。肥満細胞の脱顆粒や炎症性メディエーターの放出・活性化を抑えることで皮膚の炎症を押さえ込む。そういう意味では新規の治療薬とはいうものの、ステロイド以上でも以下でもない、まさに代替薬といえるだろう。

 それに対して、もうひとつの新機軸「イヌインターフェロン―γ」(商品名:インタードッグ)はどうだろうか。製品として販売の認可がおりたことに驚きを隠せぬくらい先進的な薬剤だ。というのも、人体用ありきで動物用薬剤が認可されるのが日本では通例なのだが、人体用ではアトピーに対する薬効でヒトインターフェロン―γは認可になっていない。もっとも、人でもヒトインターフェロン―γの有効性の報告は多数なされているらしいが、認可には至っていないということのようだ。  
 作用機序は前述のシクロスポリンと比べ、アトピーの本質により近づいている。アトピーではTh1/Th2のサイトカインバランスがTh2に傾くといわれているが、Th1が産生するインターフェロン―γにはTh2細胞の増殖抑制作用があり、この傾斜を緩やかにすることでTh2が液性免疫を活性化することを抑え、結果的にアトピーの原因となっているIgEの総量を減少させる。  
 難しい理屈はさて置き、実際に効果はいかがなものか。これは、現実に皮膚で起こっている炎症そのものには手を触れず、炎症の原因となる体の内部的なものを減らして行こうという治療なのだから、即効性は期待できない。粛々と週3回の高価な注射にすべてを委ねて信じること2週間。毛が生え始め、炎症は徐々に治まり、ようやく効果が見えてくる。納書にある4週間を迎える頃には、相当に良い感じになっている。問題はそれからだ。これで投与を終了したらどうなるのか。多くの症例で、徐々に皮膚の状態が悪化し始める。投与間隔を広げながらも、継続的な投与が必要なのだ。
 今のところ、イヌインターフェロン―γによる長期的なアトピーコントロールの確立された投与方法はない。効果があることは誰しもが認識しうる治療法なのだが、こうすれば長期的によい状態が維持できるという確たるものがないというのが現実といってよいだろう。それは、個々の動物の皮膚のコンディションに、さまざまなバリエーションがあるからに他ならない。

 それほどに、アトピー発症に関連する要因は複雑で多岐にわたり、また、根源的には遺伝的素因に基づく疾患なのだと考えられている。今回のコラムで取り上げたシクロスポリンとイヌインターフェロン―γは、その遺伝的素因つまりアトピー発症の内なるものに対する治療なのだといえる。ハウスダストマイトなどの抗原に対し産生されるIgEが抗原と結合した際の反応を抑えるシクロスポリン、IgEの産生そのものを抑えるイヌインターフェロン―γ。しかし、アトピー発症の要因はそれら内なるものだけにとどまらない。皮膚表面に接着する抗原・細菌・真菌。それらに対する皮膚バリアー。多くのアトピーではこの皮膚バリアー機能に異常のあることが示されている。その機能異常を補うシャンプー療法など、外なるものに対する治療法もまた、革新の時代を迎えている。来月のコラムでは、その外なるものに対する治療法に焦点をあててみようと思う。

(文責:よしうち)


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