2009年02月01日 人と動物の関係学

飼主の気持ちの話

飼主の気持ちの話

 日々のニュースで経済危機が騒がれ、新聞には大企業の減収減益や赤字の見出しが躍っている。なんとも息苦しいような世相なのだが、ふと眼を家の中に移せば、我が家の動物たちが、経済危機なぞどこ吹く風、相も変らずドタバタと悪戯三昧の生活をしている。

 昨夏からクロネコのパンツ(♀)が仲間入りをした。多分春生まれだろう子猫をもらったのだ。名前の所以はお腹のマンダラ。全身が真っ黒のクロネコの下腹部に逆三角形の白い毛の部分がある。まるで白いビキニのパンツをはいているようなのだ。
 このパンツの悪戯が激しい。ちょっとおっとりした兄貴分のマシューに飛び掛り咬みまくる。ゴミ箱をひっくり返しては、ごみ屑をくわえてせっせと自分のケージに運び込み、暇を見ては転がして遊んでいる。お茶漬けでも食べようとお茶漬けのりを棚から取り出すとひとつ残らず歯型がついていてところどころに犬歯の貫通孔がある。当然中身は湿って固まっていて、梅干ひとつのお茶漬けに甘んじることになる。
 この悪戯も板についてくると、次に何が起こるかは先刻ご承知だ。「こら、パンツ」と言い終わらぬ内に、ソファーと壁の隙間に逃げ込み、アッカンベーとばかりに、奥の方でカッパーの目玉をクリクリと回して得意そうなのだ。こちらもパンツの挑発には乗るまいと無視を決め込むと、それこそ物音ひとつ立てずに抜け出してきて、お気に入りの電気ポットの上でオスワリをするのだ。最近の電気ポットというのは寸胴で上が平たい。その上面には温度設定やら再沸騰やらロック解除やらのタッチボタンが並んでいる。しばらくするとピロピロとお湯が沸きましたよメロディーが部屋に流れ、あーパンツがまた再沸騰ボタンを押していたのかと知ることになる。
 このパンツも家族の仲間入りをしてそろそろ半年。発情がきてもおかしくない年になったと、先日病院の予約帳の隙間にパンツの不妊手術の予約を入れてもらった。日々安穏と悪戯三昧の生活を送っているこわいもの知らずに、試練の日が来ることになった。
 当日の朝はなぜかケージから出してもらえず、食事ももらえない。「ミャー、ミャー」と哀れみを訴えても、無視される。きょうは何かがおかしいと胸騒ぎを感じるのだろうか、微妙に弱気なパンツなのだ。車に乗せても一言もしゃべらず、病院に着いた途端にミャーと一言泣きが入ったが、予定が変更されるはずも無い。
 この日は、自分には膝蓋骨脱臼の手術が入っていて、スタッフ獣医師にパンツの手術をお願いすることになった。自分でやってやりたいようなそうでないような複雑な親心なのだが、腕の確かなスタッフが冷静に手術してくれるに越した事は無い。第1手術台の膝蓋骨脱臼の手術を終えたときには、第2手術台のパンツの手術は既に終わっていて、覗き込むと腹帯をつけたパンツが、しょぼんと頭だけあげて情けない顔をしていた。
 家に帰ってもパンツのしょんぼりは続いていた。自分で水を飲み、比較的元気そうなのだが、苦虫を噛み潰したような顔は変わらない。全身麻酔をし開腹手術をした当夜なのだから、当然といえば当然と獣医師の自分は納得していても、術野の準備にご自慢の白いビキニパンツをバリカンで脱がされてしまったのは、大きく自尊心を傷つけたかもしれないなどと、飼主の自分は要らぬ心配をすることに余念が無い。おまけに南大阪特製タオル地の腹帯を着せられ、窮屈この上ないのは可哀想などと、わざわざ少々の智恵猫でも脱ぐことの出来ない巧みな腹帯を工夫した獣医師の自分に自分が文句を言っている。パンツはといえば、我とわが身に降りかかった不幸は、100年に一度の経済不況どころではないのだといわんばかりに、フローリングの床暖の上をふてくされながら這いずり回っている。
 2-3日で、腹帯も少し緩んできて、ジャンプが可能になるや否や、またぞろ日頃の悪戯が始まった。脱げない腹帯の憂さを晴らすように、テーブルの上のものを片っ端から落とし始める。腹帯を着たパンツの不気味さに逃げ回っていたマシューがちょっかいを出す。日頃のにぎやかさが我が家に戻ってきた。けれどもパンツにはまだ何か不満があるような様子で、いつもの得意げな、晴れ晴れとした笑顔が戻ってこない。腹帯のせいなのかなと、抜糸の日までは仕方ないと諦めた。
 そして抜糸の日。腹帯を脱がせ、糸を抜き、様子を見ていた。傷を舐めようとしたら、おもちゃで気を引き遊ばせる。意外と傷のことはすぐに忘れ、お気に入りのクッションと格闘を始めた。もうだいじょうぶと眼を離し、しばらくすると、例のお湯が沸きましたよメロディーが流れ始めた。目をやると、電気ポットの上にはすがすがしい顔をし、得意げなパンツの姿。そうか、そこに乗りたかったのか。この1週間のパンツの不満がようやく解けた瞬間だった。

「パンツよ、君と一緒に暮らすには必要な手術なのだから。10日間のガマンのご褒美に、しばらくは悪戯に目をつむってあげるからね。」そう話しかけずにはいられなかった。

(文責:よしうち)

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