2009年05月01日 感染症

「新型ウイルス」の話

「新型ウイルス」の話

 どうやら、豚インフルエンザウイルスが人から人へ感染力を持つ新型ウイルスへ変異したようだ。元来、インフルエンザウイルスはその抗原性が変化しやすい特徴を持ったウイルスなのだが、ウイルスが感染を成立させる対象の動物種を乗り越えることはたやすい事ではない。人であれ病原体であれ、DNAによって遺伝情報を引き継ぎ、累々と種を存続させるという仕組みを持った生き物である以上、遺伝情報の書き換えが種を滅ぼさないレベルで起きない限りはありえないからなのだ。

 メンデルの法則と進化論の大いなる矛盾に、木村資生博士の唱えた中立進化説や遺伝子の浮遊論は集団遺伝学として隆盛を見た。人よりもはるかにライフサイクルの短かいウイルスの遺伝子に起きた突然変異が、感染性の変化という形質を発現し、進化を遂げる。自分たちは、その現場をメキシコ発のニュースとして目の当たりにしているのだ。

 1980年に自分が動物病院を開院する1年ほど前から、犬で同様の状況に直面し、新型ウイルス出現の恐怖におののいた記憶は、30年を経て少しも薄れることはない。その病気の通称は「コロリ病」、発生当時は「犬ウイルス性腸炎(Canine Viral Enteritis=CVE)」と呼ばれていた。調査が進み、パルボウイルスがその本体であることがわかり、「犬パルボウイルス感染症」と表現されるようになり、「パルボ」の名前が一躍脚光を浴びた。
 後のパルボウイルスに関する遺伝子研究の結果、猫伝染性腸炎の原因である猫パルボウイルスが変異して犬パルボウイルスとなった可能性が極めて強いと考えられている。
 この犬パルボウイルスが新型ウイルスとして日本列島を総なめにしていった当時の状況は凄まじいの一語に尽きた。
 近所の大和川を散歩するだけで5日間ほどの潜伏期を経て激しい下痢に見舞われる。トマトジュースの入ったコップをひっくり返したような血便、嘔吐、粘血の異臭、動物病院の待合が一瞬に修羅場と化す。スタッフの手は塩素系消毒剤でボロボロになっている。子犬や老犬はいうに及ばず、体力のある成犬であっても例外とはならなかった。すべての国内にいる犬に新型ウイルスに対する基礎抗体の微塵もないのだから、感染は容易に成立し、症状は激烈を極め、3日ほどで命を落とす状況が続発した。壊滅的な打撃を受けたペットショップも相当数にのぼった。
 ミンクのアリューシャン病ワクチン(これもパルボウイルスが原因)や豚パルボウイルスワクチンが効くなどという風評が流れ、アンダーグラウンドな取引が行われていたといううわさも耳にした。
 およそ2年ほどを経て犬パルボワクチンが認可され、品薄の納品待ちが続き、希望者にワクチンが行き渡るのにさらに1年以上を必要としたように記憶している。
 現在では、犬パルボウイルス感染症は散発的な発生を見る程度に沈静化している。数年をかけて日本中に蔓延したパルボウイルスに対して、犬全体の基礎抗体が上昇し、発生が減少し、症状がマイルドになった。そうなるまでにいったいどれくらいの数の犬たちが命を落としたことだろう。
 犬パルボウイルスが出現した当初、世界的にはⅠ型とⅡ型の2タイプが流行しているといわれていたが、現在ではⅡ型にⅡa、Ⅱbの2つの亜型が生まれ、流行の主体はⅡbだと考えられている。幸いなことにこれらサブタイプの抗原性は従来のⅡ型ウイルスと交差しており、従来型のワクチンでも十分な効果がある。しかし、最近Ⅱcと考えるべきサブタイプが確認されており、動向が注目されている。また、ワクチンメーカーサイドでも、従来のⅡ型ウイルスからⅡb型ウイルスへ抗原を変更するといった動きがあり、抗原の交差性に関連してワクチンの効果に差があるものなのか、情報を見極めたいところだ。

 メキシコで発生した人の豚インフルエンザが、各国に飛び火しているとの情報が流れている。強力な封じ込めと急ピッチのワクチン開発によって、早期に沈静化されることを心から祈りたい。

(文責:よしうち)
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