2010年02月01日 神経科

「認知症」の話

「認知症」の話

 仕事柄、動物と接することは多いのだが、はてさて人と接するということになると飼主の皆さんが大半ということになる。飼主の皆さんは動物の病気やケガの治療、予防に動物を連れて来院される、言うならば健康な方々で、健康に問題のある人と接する機会というのは自分にとって非常に少ないことだった。

 自分の親の話になって恐縮至極なのだが、今年当たり年の84歳を迎える父親が年の暮れに脳梗塞を起こした。それまでは寄る年波には勝てぬものの大病を患うことはなかったのだが、実際には小さい脳梗塞をいくつも起こしていたようで、今回の脳梗塞でMRI検査を受け、いくつかの古い梗塞巣が見つかった。いわゆるラクナ梗塞と呼ばれる致命傷にはならない終末動脈の梗塞が多発するタイプのようで、以前の右側視床の穿通枝に起きた梗塞と今回の左側視床の穿通枝に起きた梗塞の併せ技で、一気に認知症が発現した。

 数日の入院の後、退院してきた時の状況は、多少の手足の麻痺は伴うものの歩行可能、食欲旺盛。過去の記憶も鮮明だが時系列はどうも存在しない。会話も可能だが全く無関係な事柄が出てきて、話を戻そうとすると「難しい」「わからん」を連発して途切れてしまう。世話をしている母親共々、暗い気持ちをどう紛らそうかとさらに暗くなっていた。

 しばらくして、介護センターの担当の方からデイケアを受けたらどうかとアドバイスがあり、近所のデイケアセンターへ送迎してもらうことになった。どうなることやらというこちらの心配をよそに、センターではエアバイクをこぎ水圧マッサージを受け、翌月のカレンダーをこさえるような事をし、何やらうまく時間を過ごせるようになってきたようで、暗かった父親の顔に笑顔が戻り、それにつれて母親の顔にも安堵が見て取れるようになってきた。

 人は何のために生きるのだろうかという問いに、「生きるために生きる」という答えと「死ぬために生きる」という答えがある。笑顔の戻った父親の認知症の症状に大きな変化はない。血管障害性の認知症なのだから仕方のないことなのだろう。けれども、生きるために生きてみようかとうまく考えることはできずとも頭のどこかでそう感じ取る事ができているような気がする。

 2008年10月のコラム「老い」の話で動物たちの認知症を書かせていただいた。その時よりはるかに身近なこととして動物の認知症を考える事ができるようになったと思っている。先月のコラムで動物たちに言葉はないという話をした。もし仮に動物たちが自分の父親のようなレベルの認知症に陥っていても、多分うかがい知ることはできないのだろう。そして、症状がより進行し、自分の名前を忘れ、生活習慣を忘れてしまう頃にようやく気付いてやれるということだ。それでも動物たちは健気に生きる。直接的な生命の危機を感じることはできても、抽象的に「死」というものを考え、それに怯えることはない。彼らは間違いなく生きるために生きている。その生きるモチベーションを高めるために、獣医師の自分にできること、飼主の方々にできること、色々考えて行かなければ!と、父親を見ながら思うのだった。

(文責:よしうち)


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