2012年03月01日 内分泌

「医食同源」の話

「医食同源」の話

 医食同源(いしょくどうげん)という言葉、多くの人たちが耳にした事のある聞きなれた言葉のひとつだろう。けれども調べてみるとその歴史は意外にも新しく、ここ20年くらいの間に市民権を得た言葉と考えてもよさそうだ。

 初出は1972年、NHKの料理番組『きょうの料理』の特集「40歳からの食事」において、臨床医・新居裕久先生が発表したもの(NHK「きょうの料理」同年9月号)。これは健康長寿と食事についてのもので、中国に古くからある(薬膳の起源とも言える)薬食同源思想を紹介するとき、薬では化学薬品と誤解されるので、薬を医に変え医食同源を造語し、拡大解釈したものであるとご本人が述懐しておられる。
 朝日新聞の記事見出データベースの初出は1991年3月13日。また『広辞苑』では第三版には無く、1991年の第四版から収載されていることから、この「医食同源」という言葉は1990年前後には既に一般で使われており、その思想も健康ブームなどにより、広く受け入れられてきたもののようだ。

 この「日頃からバランスの取れた美味しい食事をとることで病気を予防し、治療しようとする」医食同源の考え方が、既に動物の医療で実践されているのをご存じだろうか。確立された小動物の臨床栄養学に基づき、病気の動物たちを栄養学的にサポートすることを目的とした「療法食」を用いて行われる食事管理が、既に獣医学的診療体系の重要な分野のひとつとなっている。

 最近そのバリエーションに新しく加わった「y/d」というフードは、まさに医食同源を地で行く典型といえるだろう。この「y/d」、猫の「甲状腺機能亢進症」の治療のために開発された画期的なフードなのだが、その話の前に、猫の「甲状腺機能亢進症」について解説が必要だろう。

 猫の「甲状腺機能亢進症」は、猫におけるごく一般的な内分泌疾患で、主にエネルギー代謝を司る甲状腺ホルモンの過剰産生により引き起こされる。主な病状としては、食欲旺盛なわりに体重が減少したり、猫が活発化し興奮状態が続いたりすることなどが挙げられる。日本における猫の甲状腺機能亢進症の有病率は、全体の6.5%を占めるともいわれ、特に高齢になるほどその発生頻度は高まり、13歳以上の超高齢猫に至っては18.5%にも上る(参考:idexx 2008)。この病気の現行の治療としては、抗甲状腺薬を与える方法が一般的だが、薬の副作用の問題(嘔吐などの消化器障害)、毎日薬を飲ませなければならない煩雑さ、血中の甲状腺ホルモン濃度のモニターなど、猫にとっても飼主さんにとってもけっこうな負担を強いることになる。外科手術という方法にしても、異常を起こした甲状腺を上手く取り除くことができれば治療効果は高いが、ホルモン濃度を正常に保てない場合があるなどの覚悟はある程度必要だ。(本欄バックナンバー参照:甲状腺機能異常/(Dec'01 )「若返り薬と老け薬の話」 )

 この猫の「甲状腺機能亢進症」、甲状腺に何が起こっているかというと98%が良性腺腫性過形成といわれている。
 さらにその原因を探れば様々な危険因子に行き当たるが、これが原因というような決定的な因子は見つかっていない。いくつかの危険因子には、甲状腺ホルモンの原料の一つ「ヨウ素」の摂取の問題、大豆イソフラボンなどの甲状腺腫誘発物質、ビスフェノールAなどの内分泌かく乱物質が挙げられる。肝臓の解毒系にグルクロン酸抱合というのがあるのだが、犬や人と比べ猫ではこのグルクロン酸抱合が極めて貧弱で働きが悪く、甲状腺腫誘発物質や内分泌かく乱物質を上手く解毒できないという問題も内在している。

 さて「y/d」に話を戻そう。このヒルズの「プリスクリプション・ダイエットy/d」は、甲状腺ホルモンの原料とされるヨウ素を非常に低く制限することで、過剰な甲状腺ホルモンの産生・放出を抑制する一方、必要量は維持されており、さらにリンを制限し、低ナトリウムに調整し、高L-カルニチン・タウリン含有により、高齢期に衰える腎臓、心臓に配慮してあるというスグレものなのだ。
 甲状腺機能亢進症の猫に対し、「y/d」を与えるだけで他にすることはない。抗甲状腺薬の副作用を心配することもなく、投薬に四苦八苦する必要もない。唯一、他の食べ物を与えてはいけない(ヨウ素を全く含まない食べ物なら良いのだが非現実的)ということが辛いくらいだろうか。もちろん重症化してしまった甲状腺機能亢進症の猫ではいささか力不足というのは否めないのだが、だからこそ「y/d」の恩恵にあずかろうとすれば、早期発見、早期「y/d」の開始が必要とも言える。猫は7歳を超えれば甲状腺ホルモンを測定するべしということなのだ。

 まさに医食同源ともいえるこの「y/d」、高血圧にもかかわらず醤油好きの自分がいうのもおこがましいが、将来の人医療のあり方にも一石を投じるほどのインパクトを感じたのは自分だけだろうか。小動物栄養学の進歩とフードの製造技術の革新に拍手を送りたい。

(文責:よしうち)



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