2013年07月01日 行動学

「ハズバンダリートレーニング」の話

「ハズバンダリートレーニング」の話

 「husband」の意味はと問えば、すぐに「夫」という答えが返ってくるだろう。「husband and wife」で「夫婦」、夫の事を「うちのハズは」などと気取って話す令夫人もおられるかもしれない。古典的には「倹約家、財産管理人、執事」を意味することもあるらしい。その形容詞は「husbandly」で「夫の、夫にふさわしい」という意味になる。
 では「husbandry」ならどうかというと、語源を同じくするだろう事は想像できるが、「農業、節約、管理、家政」という意味の名詞になる。「good husbandry」で「上手な暮らし方」となるらしい。

 その「上手な暮らし方」ができるようにという練習が「ハズバンダリートレーニング」の意味するところだ。

 この「ハズバンダリートレーニング」がここ数年、各地の動物園や水族館で、動物の健康管理やストレスを軽減する方法として徐々に広まってきているという。
 上野動物園のリーリーとシンシンは、中国ですでに、部屋への移動、体重測定、採血するために腕を出してじっとするなどのトレーニングを受けてきていて、日本でもすぐに思い出してくれたそうだ。
 また、海遊館のイルカはエコー検査を嫌がらないでじっと耐えてくれるという。本来イルカは超音波を発しその反射を聴いて障害物を知りまた仲間と交信するといわれている。それ故に、その超音波を利用しているエコー診断装置のプローブを体に当てると不快に感じ興奮するらしい。そこで、検査用の超音波は大丈夫だよとトレーニングするのだそうだ。
 ここで重要なのは「動物が自らその行動をとる」ことだ。このトレーニングは、褒めたりご褒美を与えたりしながら伸ばす訓練で、動物たちは褒められたくて、ご褒美をもらいたくて自ら行動する。これが、食っちゃ寝、食っちゃ寝のともすれば退屈な園内での生活、つまり単調な行動パターンに変化を産み、ストレスの軽減につながることになる。野生のスリルに満ち、日々変化のある生活にいくばくかでも近づくということなのだろう。実際、単調な行動パターンの生活を続けると、常同症などの良くない行動パターンが現れ、有病率が上がり、寿命が短くなると指摘する報告もある。この野生の行動をナチュラルビヘイビアといい、常同症などの良くない行動をプロブレムビヘイビアと呼んでいる。常同症とは例えばトラが何かに取りつかれたように柵の前で行ったり来たりを延々と繰り返すような行動のことで、人でいうところの強迫観念症に相当するような行動を指す。
 ハズバンダリ―トレーニングの成果として動物たちがとる行動はトレインドビヘイビアと呼ばれ、自発的であるがゆえにナチュラルビヘイビアの範疇に入るものと考えられている。動物園や水族館という特殊で閉鎖的な環境下において、行動パターンが複雑になり変化に富んだものになることは即ち、生活環境が豊かになることであり、ハズバンダリートレーニングは重要な環境エンリッチメントのひとつということができる。
 このように、ハズバンダリートレーニングの有益性は計り知れないのだが、動物園や水族館の動物たちがやけに人慣れし、野生らしくない行動を取ることが、本来の展示という観点から良い事かどうかの議論が無いわけではない。パンダに「掃除するぞー」と呼びかけると「へいへいどーぞ」とよけてくれる姿が本来の姿かどうか、モヤッとした感じがしないでもない。もっといえば、同僚のパンダよりも飼育係のヒトの方が好きなんて思い始めたら大変なことになってしまう。

 このハズバンダリートレーニングを、ひとたび自分たちが日常接している犬や猫たちにおきかえると、「きちんと躾をしましょう」とか、「叱るより褒めよ」とか、なんだかいつも話しているようなことと変わらないことに気づいてしまう。人と共に暮らす家族の一員として、犬や猫たちに「good husbandry」=「上手な暮らし方」を身につけさせるのに、展示動物のように誰はばかる必要もないのだ。犬や猫たちと人とのかかわりの歴史は長く、「good husbandry」を身につける遺伝子は既に組み込まれていて、すべては自分たち次第なのだと気付かされる。

 「さて今日はどんなことをうちの愛猫ニノちんに教えてやろうか。」そう思うことが環境エンリッチメントの第一歩となる。食っちゃ寝、食っちゃ寝をさせないことこそ病気の予防の真髄なのかもしれない。

(文責:よしうち)


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