眼科

三つめのまぶたの話

三つめのまぶたの話

  「目は口ほどにものを言い。」などとよく言う。人と話すときは目を見なさいとか、人でも動物でも意識の方向は眼差しと一致するようだ。20年以上も前の話になってしまうが、家内と付き合いはじめた頃、あの大きな目で見つめられると、心臓が口から出そうなほどドキドキしたものである。

  その目の話であるが、人間と犬たち猫たちとで大きく構造の違う部分が2つある。1つはタペタムと呼ばれる膜。もう1つは、第3眼瞼と呼ばれる瞬膜。どちらも膜なのだが、全然ちがったものである。

  タペタムはタペツムとも言われ、眼球の一番底、網膜の上に広がる薄い1枚の膜状物である。大抵は黄緑色をしていて、光があたるとその光を増幅する働きをしている。網膜は光を感じてそれを信号に変え視神経を通じて脳に伝える役目をしている。今流行りのCCDと同じである。タペタムはその網膜上で光を増幅する。鼻をつままれてもわからぬような暗闇でも、犬や猫たちは微弱な光をこの膜で増幅し、暗視野赤外線カメラで見たような光景を見ているのである。夜目が利くのはこのおかげなのだ。犬や猫の写真をとって現像してみると、彼らの眼が恐ろしくエメラルド色に輝いていて、ちっとも可愛く撮れていなかったとがっかりされた方も多いだろう。その犯人がタペタムなのである。人間にはタペタムがないため、網膜の下の脈絡膜が透けて見える。脈絡膜はその名のとおり、網膜に栄養を与える微細な血管の集まった膜であり当然その色は赤い。従って、人の写真をとったときに、目の中が赤く写るいわゆる赤目現象が起きるのである。犬や猫たちの中には、このタペタムが発達していないタペタムの形成不全の子たちがいる。特に現在の生活を続けるなら何の問題もないのだが、残念ながらあまり夜目は利かない子たちなのだ。

  瞬膜はタペタムと比べればはるかに分厚い組織である。普段は目頭の内側で下まぶたと重なるように隠れている。上まぶたや下まぶたと比べれば薄くて白い膜であるが、目を覆うように動くので第3眼瞼つまり三つめのまぶたの名がある。しかしこの三つめのまぶた、意識して動かそうとしても動かない。動かすための筋肉組織は備わっていないのだ。構造的に眼球と連動していて、眼球が後ろに引っ込めば瞬膜が出てくるという仕掛けになっている。犬や猫たちの眼窩(つまり頭蓋骨の眼球が納まるくぼみ)は人と比べれば幾分余裕がある。人では、脳が発達したために眼窩が小さくなり、眼球の前後運動は動物ほどできない。そのあたりから、人では瞬膜が退化したのではと勝手に考えている。従ってその瞬膜が姿をあらわすのは、眼球が奥に引っ込んだときである。眼球に傷を負い相当な痛みがあるとその痛みのせいで眼球後引筋が痙攣する。痙攣すると眼球は奥に引っ張られ瞬膜が出て眼球を保護するというわけである。

  しかし、例えば慢性に下痢が続き、栄養状態が悪くなって痩せてくると、眼球の後部にある脂肪も痩せてくる。その上に脱水も重なったりすると、本来の眼球を保護するという仕事とは無関係に、眼球が落ち窪んだせいで両目の瞬膜が出っ放しになってしまうことが、猫ではたまにある。瞬膜の存在を知らぬ飼主さんからすれば、両方の眼に白い膜が張って大変なことになったと慌てて病院へ駆け込んでくることになる。膜が張ったことより、そうなってしまった原因が重要なことなのだと説明しても、この眼を何とかしてと聞き入れてくれない大変な方もおられる。

  瞬膜には、慢性の下痢をしているのになかなか病院へ連れて行ってくれないご主人様をおどろかせて、早く病院へ連れて行ってくれるようにするという、神が与え給もうた大切な役割があるのかもしれない。

  *瞬膜を見たことのない方は、動物の顔を手で支え、親指で上まぶた越しにそっと眼球を奥に押してみるとよい。目頭のほうからニョキッと白い膜がすべりでて眼球を覆ってくれるのが見える。ただし、失敗して眼球を傷つけぬこと。動物に怒られて噛まれたり引っ掻かれたりしても、当局は一切関知しないからそのつもりで:^^)

(文責:よしうち)



大阪市の南大阪動物医療センター

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