2014年09月01日 感染症

「エボラとインフルエンザ」の話

「エボラとインフルエンザ」の話

 ここのところ各地でとてつもない集中豪雨が続き、土砂災害が頻発しています。大災害となった広島を初め、犠牲になられた多くの方々のご冥福をお祈りしますとともに、被災地の1日も早い復旧と復興を願わずにはいられません。

 眼を世界に向けると、西アフリカでは、エボラ出血熱が猛威をふるい、収束の兆しが見えません。このエボラの流行の仕方も、ここのところの集中豪雨のようにいつどこで流行が始まるのか予測するのが困難なようです。

 エボラ出血熱の原因がエボラウイルスであることは、テレビなどでコブラの顔を連想させるような電子顕微鏡写真が公開され、ご存じの方も多いと思います。



 ウイルスは細菌よりもはるかに小さく、宿主の細胞内に潜り込み、細胞が持つタンパク合成能を利用して自身の複製を作り、出芽して細胞から離れるということを繰り返して増殖する微生物です。動物から分離されるウイルスはおよそ570種といわれています。本来ウイルスには宿主特異性や臓器特異性と呼ばれる性質があり、このウイルスが潜り込める細胞は、どの動物種のどの臓器の細胞だけというような、制限があります。570種の約3分の2のウイルスにはエンベロープという膜がありますが、宿主細胞の細胞膜と同様のリン脂質や糖脂質、コレステロールなどの複合脂質を持っています。これは生命の進化の過程でDNAだけの生命体とミトコンドリアだけの生命体が結びつきわれわれの祖先となる生命体が形作られる中で、ウイルスという寄生生命体が出現したことを想像させます。

 この宿主細胞とウイルスの関係は、ウイルス側から考えれば宿主の生命を脅かすほどの病原性を発揮しない方がウイルス自身の子孫を存続できることになり、自然宿主との共存が図られているはずのものなのです。けれども、ウイルスの遺伝子の変異は一定の確率で起こり、さらにさまざまな要因で変化します。今回のエボラウイルスやインフルエンザのパンデミックウイルスなどは、自然宿主以外の宿主に感染性を獲得したことで、全く無防備な宿主を死に至らしめるという結果を招くことになるのです。

 インフルエンザウイルスではそのあたりのことが比較的よく解明されています。A型インフルエンザウイルスは野生の水鳥(カモなど)を自然宿主としています。カモのファブリキウス嚢という消化管の一部で盛んに増殖しますが、病原性は発揮しません。カモの故郷はシベリアの湖で、湖水にはカモのインフルエンザウイルスが糞と一緒に排泄され、永久凍土という環境と相まって常に保存されているインフルエンザウイルス保管庫のようなものです。冬が来るとカモは南方へ渡り中国南部や東南アジアの水辺に移動します。そこにはアヒルやブタなどの家畜が飼われており、カモからアヒルやブタにインフルエンザが移るということが起きます。

 ここで先ほどの宿主特異性の話です。インフルエンザウイルスにはウイルスのエンベロープの表面にヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)というスパイクを持っています。H3N7亜型のインフルエンザなどと表現するのはこのスパイクの遺伝子型を表していて、H1〜H16、N1〜N9の種類があります。ヘマグルチニンのスパイクはウイルスが細胞に取り付くときに働き、ノイラミニダーゼのスパイクはウイルスが細胞から発芽する時にヘマグルチニンの結合を切るハサミの役目をします。このヘマグルチニンの結合の仕組みが即ち、どの細胞に取り付くことができるかということの答えになるわけです。ヘマグルチニンのスパイクは細胞表面の糖タンパク質の糖鎖の特定のシアル酸残基を認識して結合します。特定のというのは、結合できるシアル酸残基のシアル酸とガラクトースの結合の様式が決まっているという意味で、その結合様式には「α2→6」結合や「α2→3」結合があり、カモのインフルエンザは「α2→3」結合しか認識できず、ヒトのインフルエンザは「α2→6」結合しか認識できません。

 ここで話を戻しますと、ブタの気道粘膜には「α2→6」結合、「α2→3」結合の両方のシアル酸残基を持つ糖鎖が存在するため、カモのインフルエンザにもヒトのインフルエンザにも感染するのです。シベリアから渡ってきたカモからブタが例えばH3N7インフルエンザを移されたとします。ブタは軽い風邪症状しか起こしません。その時にヒトではH2N2インフルエンザ(アジアインフルエンザ)が流行っており、同じブタがヒトからH2N2インフルエンザを移されたとします。ブタの細胞の中でインフルエンザウイルスが複製される際の遺伝子の再集合の段階でH3N2インフルエンザが生まれるということが起きますが、その際に「α2→6」結合を認識するウイルスが優勢になるというのです。その結果、ヒトに感染性を持った抗原性の異なるインフルエンザが誕生します。これがN3N2インフルエンザ(ホンコンインフルエンザ)がパンデミックになった瞬間です。




 ヒトの気道粘膜には「α2→6」結合しか存在しませんし、カモのファブリキウス嚢には「α2→3」しか存在しませんので、そこで増殖するウイルスを相互にやり取りすることはあり得ませんが、ブタという両方の結合をもつ存在を通して、トリ、ブタ、ヒトに共通の感染症という側面が現れるのです。

 一方、エボラ出血熱については、まだまだ詳しいことは解明されていません。コウモリが自然宿主なのかどうかということも不確定です。したがって、どのようなメカニズムで人に感染性を示すようになったかも不明ですが、野生動物と人との間の共通感染症という側面を持っていることは、インフルエンザと変わりありません。

(文責:よしうち)



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