2015年01月01日 社会事象

「折れない心」の話

「折れない心」の話

 「レジリエンス」という言葉をご存知でしょうか。NHK「クローズアップ現代」でも取り上げられた「レジリエンス」とは、「逆境から立ち直る力」のこと。心の折れやすい若者が増えてきたといわれる現代。「レジリエンス」こそが、人生を左右する最も大切なものなのかもしれません。その「レジリエンス」の研究から、逆境力を高めるために大切なこと、心を折れにくくする食事のとり方など、様々なことが見えてきたらしいのです。

 レジリエンスという概念が注目され始めたのは1970年代で、第2次世界大戦でホロコーストを経験した孤児たちの研究が、そのきっかけとなっています。孤児たちのその後を調査すると、過去のトラウマや不安にさいなまれ生きる気力を持てない人たちがいる一方で、トラウマを乗り越え仕事に前向きに取り組み、幸せな家庭を築く人たちもいたのです。
同じ経験をしながら、その後の人生が大きく違うのはなぜか? 研究から、逆境を乗り越えた人たちには共通の傾向がある事が分かってきました。心理学者 イローナ・ボニウェル博士は語ります。

 「レジリエンスには、思考の柔軟性が必要な事が分かってきました。つまり、厳しい状況でもネガティブな面だけではなくポジティブな面を見いだす事ができる人が、逆境を乗り越える事ができるのです。」

 埼玉学園大学の小玉正博教授のけん玉を用いた実験があります。「まず小皿、大皿、最後中皿・・・。」のように、初心者には困難な課題に挑戦させ、その課題にどう向き合うかを観察するのだそうです。

 参加者が課題を諦めてしまうまでの時間や過程を観察すると、20分ほどで諦めてしまう心が折れやすい人たちには、共通した特徴が見いだされました。その1つが、感情の起伏が激しい事です。小玉教授が注目した20代の男性は反応が強すぎて、一個一個の結果に対して笑ったり悔しがったりいちいちリアクションして、自分の感情を出し過ぎるのです。一喜一憂するのはエネルギーを消耗し、結果的に早々に諦めてしまうことになるのです。こういったすぐに諦めてしまった人に聞き取りをしてみると、更なる傾向が明らかになりました。「たぶん、こういうの向いていないな。」「最初から諦めている。」「これは無理だな。」といった言葉が示すように、課題に対して最初から無理と決めつけていたり、自分の力を過小評価する傾向があったのです。レジリエンスには、状況に一喜一憂せずに感情をコントロールする力や、自分の力を過小評価しない自尊感情が大きく関係する事が分かってきたのです。

 一方、1時間以上にわたって挑戦を諦めなかった人たちからも、一定の傾向が明らかになりました。課題の失敗を繰り返す中でも、少しずつ成長していると感じている人や、いつかできるだろうという気持ちを持つ人が多くいたのです。自分が成長前進していると感じる事ができる、自己効力感という要素。そして失敗の中でもいつかできると考える楽観性も、レジリエンスには重要な要素である事が分かってきました。

 小玉正博教授の弁です。
「一般的に“心が強い”というのは、“鋼のような”、“跳ね返す”、“硬い”、“頑丈な”というイメージを持ちますが、レジリエンスというのは、楽観性のように自分のいる状況に対して前向きに、不安とかそういうものに打ち負けないでしなやかにこなしていく。そういう心の持ちようがレジリエンスだということが、研究の中でだんだんと明らかにされていますね。」

 「レジリエンス」には「感情コントロール」「自尊感情」「自己効力感」「楽観性」の4つが大切だということがわかりました。

 そこで、ある大手製薬会社では、社員のストレスを軽減するため、8年前から独自の取り組みを行っているのだそうです。

 まず、食事のとり方を変える事でレジリエンスを高めようというのです。少量を頻繁に食べることで、血中のブドウ糖を安定させ、レジリエンスに必要なエネルギーが維持されます。ポイントとなるのは、脳のエネルギー源となるブドウ糖。ブドウ糖が少なくなると集中力が落ち、感情の起伏が激しくなるといわれています。食事を少量ずつ3時間置きに摂る事で、ブドウ糖を一定のレベルに保ち、感情をコントロールする力を高めレジリエンスにつなげようというやり方です。

 そして運動も重視します。全力でのランニングを何度も繰り返すインターバルトレーニングを、レジリエンスに効果があると推奨しています。体力の限界を乗り越える経験を通じて、自己効力感が養われるというのです。トレーニングに参加した1万人の社員のうちおよそ8割が、職場におけるメンタルヘルスが改善され、仕事のパフォーマンスが上がったという結果が出ています。

 なるほどと納得しつつ、わが家の末っ子、昨年の3月から仲間入りした猫のレオンの事を思い浮かべました。人工哺乳の時期は別部屋でVIP待遇でしたが、離乳ができたころから徐々に先輩猫のパンツ、ニノとご対面。ニノにはシャーっと吹かれ、パンツには猫パンチを食らいそうになりながらも、前進あるのみで先輩猫たちを追いかける、追いかける。危ない場面では思わずこちらが手を出してレオンを掬い上げることもたびたび。半月も経ったころには先輩猫たちが諦めて(慣れてしまって?)無視を始める。それでもレオンは追いかける、追いかける。先輩猫たちはうっとうしくてサッとキャットタワーにジャンプ。めげずに小さい体を精いっぱい伸ばしてタワーに昇ろうとしてズッコケる。いつの間にかタワーに昇れるようになって、追いかける、追いかける。最上段から転落して気を失いそうになりながらも、追いかける、追いかける。半年もたたぬ間にニノとは取っ組み合いをするほどに。

 こうしてレオンはみんなの部屋の中に自分のポジションを獲得していったのです。先輩猫たちの攻撃の恐怖をこらえる「感情コントロール」、自分は仲間に入る資格があるんだという「自尊感情」、タワーに昇れるようになるぞという「自己効力感」、無視されても諦めない「楽観性」、4つの要素全てを兼ね備えた強烈なレジリエンスで、逆境を克服する姿は親バカといわれるかもしれませんが、「大した猫やなぁ」と褒めてやりたいと思ったものです。

 猫がダラダラとフードを食べるのには感情をコントロールする力を高めるという効果があったのかも、とか。失敗しても失敗してもタワーに昇ろうとするのはインターバルトレーニングだったのかも、とか。「百獣の王ライオンは我が子を谷に突き落とす」なんて誰が見たのと思っていたけど、レジリエンスを高めるためだったのかも、とか。猫たちのレジリエンスには見習うべきことがたくさんあるなぁ、などと、色んな妄想が頭の中をめぐり、新年から猫ボケな話になってしまいました。

 本年も本欄をよろしくお願い申し上げます。

(文責:よしうち)

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