2001年09月01日 行動学

花火アレルギーの話

花火アレルギーの話

誰にだって怖いものはある。地震であったり、幽霊であったり、人それぞれである。自分は、飛行機が怖くて仕方が無かった。できるものなら、陸上を移動したいと考えていた。しかしそれもままならぬ地へ出かけなくてはならないこともある。数年ほど前にモンゴルへ行った時のこと、モンゴルの国内線に乗らねばならなかった。シートベルトも無く、地下鉄のように2列の長椅子が前後に伸びている。集団見合い状態である。無造作に離陸すると、気圧調整も無く、皆一斉にあくびをはじめる。内陸特有の巨大な入道雲を避けるために右に左に旋回しながら目的地を目指す。降機地のムルンの飛行場は舗装も無く、裸の地面に大きく3回ほど弾んでようやく着陸した。飛行機なんてこんなものかと、青天の霹靂であった。それ以来、自分の中で怖いものの数がひとつ減ったのは、「怪我の功名」とでも言うのだろうか。 次のカルテはと、手を伸ばしかけたところへ、受付嬢の耳打ち。「ハスキーのユキオちゃんのことでオーナーさん、相談があるそうです。かなり深刻そうで、でもユキオちゃんは来ていません。」とのこと。一体なんだろうと思いを巡らせるが、思い当たる節が無い。受付横の面会室に入ってもらい、話を聞くことにした。 話はというと、ユキオちゃんの家の横は公園で、夏になるとそこでよく花火をしているらしい。線香花火くらいなら問題は無いのだろうが、ここ数年、パン、パンと大きな音のするロケット花火が流行っているらしい。この音がすべての元凶で、この音が聞こえた瞬間、ユキオちゃんの態度が一変し、落ち着きが無くなり、家具とテレビの隙間に強引に隠れようとしたり、カーペットを剥がそうとしたり、身を震わせながら怯えに怯えるのだという。怯え方も尋常ではない上に、かなり破壊的な行動に出るというので、困り果てて相談に来られたのだった。 これはかなり深刻な問題である。アメリカならば独立記念日以外はほとんどの州で花火は禁止なのだが、日本ではそうもいかない。破壊的な行動を避けるなら、精神安定剤や鎮静剤という薬物に頼る方法もあるが、これとて効果には個体差があり、相当大量に服用しないと期待するほどの効果を得られない場合も多い。何より、花火を怖がるという本質的な問題の解決にはなっていない。ならばどうすればというのがかなり難しい。 話をそらそうという訳ではないのだが、例えばアレルギー性鼻炎(花粉症)の治療には、抗ヒスタミン薬やステロイド剤などが用いられるが、これも起きてしまったアレルギーによる炎症を抑えるもの。また花粉を吸い込めば再びアレルギーが起きてしまう。花粉に対するアレルギーが起こらないようになる訳ではない。花粉を吸い込まないようにすれば、無論アレルギーは起きないのだが、相当に困難な話である。本質的な解決には、1―2年の長きにわたり花粉を加工した抗原液を繰り返し注射していくという「減感作療法」が唯一の手段となる。これとて100%の効果があるわけではないのだが、現在の医学では他に方法が無い。一時的な症状の悪化やアナフィラキシーショックというデメリットを差し引いても、トライする価値は大いにあるだろう。 ユキオちゃんの花火の問題も、アレルギーの話と同様に考えればよい。いわば花火アレルギーなのである。極度に怯えているときなどは鎮静剤も必要かもしれないが、本当にやっていかねばならないのは「減感作療法」なのである。録音した花火の音などを小さい音量から繰り返し聞かせてゆく。恐怖を感じなくなるまで根気よく続けていくのである。 花火以外にも、カミナリやサイレンなど、動物によっては恐怖を感じることがある。芽生えてしまった恐怖感を払拭するには、「減感作療法」しかないだろう。この治療の効果を高めることのできる可能性がある薬剤も動物用として認可されている。しかし何よりも大切なのは、ワンちゃんの気持ちを理解し、長い眼で良い方向へ導こうという飼い主さんの愛情であることは間違いない。 ただでさえ夏は苦手なワンちゃんに、花火もカミナリもきっと「憂鬱な夏の風物詩」にちがいないのだから。 (文責:よしうち)

大阪市の南大阪動物医療センター

住所
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
営業時間
午前:9:00 〜12:00
午後:16:00〜19:00(月 〜 金)
午後:13:00〜17:00(土・日・祝)
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tel: 06-6708-4111
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