2001年10月01日 皮膚科

陰嚢(いんのう)の話

陰嚢(いんのう)の話

犬と猫の大きな違いのひとつに、オスの外部生殖器がある。猫のペニスは陰嚢の下の可愛らしい包皮の中に埋もれていて、排尿時には後ろの方に向けて飛び出す。交尾をする時にはさらに怒張して前方へと向きを変える。一方、犬のペニスは下腹部、ヘソの下あたりに包皮がありその中に納まっていて、排尿時もそのままの状態である。交尾をする時には怒張して前方へ飛び出し、結合中に体勢によっては後方へと反転することもある。猫では生まれたてのときに♂♀の鑑別が困難で、メスの外陰部もオスの包皮口も見分けがつかない。犬では、ヘソの下に包皮があればオスなので、鑑別はいとも簡単である。 今回はその外部生殖器の話ではなく、その隣、精巣を包み込む陰嚢の話である。陰嚢といえども、これは皮膚の一部である。しかし、普通の皮膚とはずいぶんと違っている。精巣を保護しつつ、精巣の熱を逃がしやすいようにというラジエーターの働きをしているらしい。組織学的には、普通の皮膚と比べ、角質層が薄く表皮層が厚い。真皮層が非常に薄く、全体として極めて薄い柔軟な皮膚なのだ。毛包の数も少ないため毛が薄く、犬・猫、特に犬では露出度の高い皮膚と言える。 この陰嚢、今言ったような特徴をもっているため、いったん炎症が起きるとその激烈さは計り知れない。時々、心から同情したくなるような、痛々しいワンちゃんが病院を訪れる。 次の患者さんはと診察室に招き入れると、シェルティーのトム君。 「今日はどうされたのですか?」とたずねるが早いか、 機関銃のように飼主さんの声が響く。 「タマタマちゃんのふくろがエーライことになってて、見てあげよ思うんですけど、 ものすご怒って見させへんのです。きっと無茶苦茶痛いんや思いますわ。」 チラと股間に目を走らせると赤黒く腫れあがった陰嚢のあちこちを分厚いカサブタが覆い、カサブタの隙間から漿液がにじみでている。一部には出血もあるようだ。 「わっちゃー、これは痛いんですわ。それこそ失神するくらい。」 「痛うて痛うて気になるもんやから、しょっちゅう舐めてましたでしょ?」 大きくうなずく飼主さん。「早よ何とかしたって」と眼が訴えている。 その視線を避けるように、先に話を済ませる。(処置を始めると話どころではなくなるからだ。)これは陰嚢炎といって、要するに陰嚢の皮膚炎。多分、始まりは単なる取るに足りない湿疹程度のものだったのでしょう。場所が場所だけに気にして舐めてしまう。もともとデリケートな構造になっているため、舐めることで炎症はひどくなり、余計に気になってさらに舐める。この繰り返しで、どんどん炎症が激しくなり、とてつもなくひどい状況になる。そうなったら、ちょっとやそっとの治療には反応しない。舐め方の強烈なワンちゃんでは、陰嚢が一部壊死しているようなものまである。治療とて、陰嚢の保護・消炎・感染防止といった局所的なものではびくともしないこともあり、ステロイドの全身投与や、果ては、陰嚢切除といった外科的な処置を必要とする場合も珍しくはない。 諭すように話した後で、看護婦さんに押さえてもらいながら、トム君ごめんと心で叫んで、俊敏にカサブタを剥がし、消毒して、軟膏で保護する。あっという間の処置だが、トム君の悲鳴が病院中に響き渡る。トム君の陰嚢炎も相当ひどい。けれど、切除を断行するほどボロボロになっているわけでもない。 「むやみにステロイドの内服はしたくないのですが、これほどの陰嚢炎では使わざるを得ないでしょう。ステロイドでの反応次第というところですが、手術はしなくてもすむと思います。」 飼主さんの安堵の顔色。股間を舐めぬよう看護婦さんにエリザベスカラーをつけてもらったトム君が、陰嚢を気にしながらガニ股でトボトボと帰っていった。 2―3日で股間の痛みもかなり和らぐはず。 「あそこの痛いのはたまらんもんな。」と、これは、女性の飼主さんには分からぬ、トム君への男同士のなぐさめの言葉だった。 (文責:よしうち)

大阪市の南大阪動物医療センター

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