2016年02月01日 栄養学

「肥満は炎症」の話

「肥満は炎症」の話

 メタボリックシンドロームという言葉が叫ばれて以来、肥満は見た目だけではなく糖尿病などいろいろな病気の原因となるため、避けなければならないと多くの人が思うようになっています。

 そもそも脂肪組織はエネルギーの貯蔵場所として大切なもので、飢餓に対し、余裕のある時に、余分なエネルギーを蓄えるよう設計された効率的なシステムといえます。

 肥満は「中性脂肪が脂肪組織に過剰に蓄積された状態」で、エネルギー摂取がその消費に対して過剰な状態が続くと生じます。肥満の研究の進展によって、脂肪組織から種々の生理活性物質が分泌され、全身に様々な影響を及ぼしている事が分かってきています。つまり、脂肪組織はエネルギーの貯蔵場所としての役割だけでなく、大切な内分泌器官のひとつとして働いていると考えられるようになってきました。

 肥満になると、体重が増えるだけでなく、脂肪組織に軽度ながらも慢性的な炎症が起こります。つまり、肥満は炎症を常に体に抱えた状態といえます。この状態が続くと、脂肪組織の炎症が全身に影響を及ぼし、糖尿病や高血圧、動脈硬化などを引き起こすことが知られています。この脂肪組織で「慢性炎症」が起こる具体的なメカニズムはよく分かっていなかったのですが、大阪大学の石井優教授らの研究チームが、2015年3月に、肥満が引き起こす「慢性炎症」の引き金となるタンパク質を発見し、脚光を浴びました。

 研究チームは、生体内の組織を生きたまま可視化して、細胞をリアルタイムで解析する「バイオイメージング」の技術を応用し、脂肪細胞が、マクロファージを全身から呼び寄せ炎症を増加させる「S100A8」というタンパク質を放出するようになることを突き止めたのです。さらに、研究チームは、このS100A8を抑えることで、マクロファージの遊走を抑え、肥満に伴う慢性炎症の進行を抑制することに成功しました。



(肥満が全身に及ぼす影響の流れ)

 

大阪大学免疫学フロンティア研究センター
Visualized macrophage dynamics and significance of S100A8 in obese fat
(Proceedings of the National Academy of Science of the USA 2015年3月16日)

 つまり、生体においてS100A8をうまく抑制できれば「ある程度太っても健康」な状態を保つことができるようになるわけで、慢性炎症に伴う糖尿病や高血圧などの発症を根元から食い止められる治療法を開発できる可能性が出てきたということなのです。

 とはいえ、多くの肥満は生活習慣と密接に関連しており、S100A8の抑制薬にたよらず、食生活の改善や運動習慣によって肥満を解消することができれば、それに越したことはないのです。

 この肥満による脂肪組織の慢性炎症が全身に影響を及ぼすことで、誘発されると疑われている疾患が、動物たちにもいくつかあります。ワンちゃんの変形性関節症とネコちゃんの特発性膀胱炎がそうです。

 イヌの変形性関節症では、レントゲン検査により関節炎と診断された年齢の中央値が、肥満犬では6歳、理想体重の犬では12歳というデータがあります。(Smith GK et al. J AM Vet Med Assoc. 229(5):690, 2006)

 ネコの特発性膀胱炎では、罹患しているネコの60%が体重過剰だというデータがあります。(Cameron ME et al. JSAP, 45, 3, 2004: 144-147)

 動物たちの食生活は、ペットフードに大きく依存します。ペットフードに疾患を改善する機能を持たせたものが療法食と呼ばれるものですが、いままでの多くのイヌの関節疾患用の療法食やネコの下部尿路疾患用の療法食は、関節に良い組成、尿路に良い組成という風に、疾患そのものにことさら目が向けられてきました。その結果として、効果が不十分な症例が少なからずあったことも事実なのです。

 そんな中、それぞれの療法食に減量効果を併せ持つような、(関節+減量)療法食と(尿路+減量)療法食がリリースされます。減量によって脂肪組織の慢性炎症が解消されることで、それぞれの疾患の増悪因子がひとつなくなり、より高い改善作用が期待されます。

 療法食の世界も、ひたすらに細分化の道をたどっていましたが、ここに来て「木を見て森を見ず」的新製品開発にようやくブレーキがかかる気配となり、日常の診療でお世話になっている者として、大いに歓迎したいものです。

(文責:よしうち)





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