2001年11月01日 ヘルニア

デベソの話

デベソの話

  今現在、南大阪動物医療センターの建物が建っている場所は、自分の生家であった。牛小屋があり、今で言う耕運機のかわりの農耕牛がいて、犬や猫がおびただしい数、庭に生活していた。りんご箱に金網を張っただけの鳥小屋には、自然繁殖したセキセイインコが鈴なりであった。今ではとてもほめられた飼い方とは言いがたいが、40年も前の農家の風景である。中学校1年生までそこに住んでいたのだが、宅地化の波に一飲みにされてしまった。家の裏の泥田でクワイをじいさんと掘りながら、裸足で走り回っていたころが懐かしい。良くそのころ、ガキ大将と喧嘩しては打ちのめされ、悔し紛れに「おまえのかーちゃん、デ、ベ、ソ」と泣きながら叫んでは、走って家へ帰ったものである。
 
  今回はそのデベソの話である。犬や猫のデベソはそれこそ小指の先ほどの可愛らしいものから、ソフトボール大ほどの命に関わるようなものまで、バラエティーに富んでいる。そもそも、デベソとは、臍ヘルニアと呼ばれるヘルニアのひとつである。ヘルニアとは臓器の一部、あるいは構造体の一部が正常ではそれらを包む組織を通過して突出することを言う。様々なヘルニアがあるのだが、一番分かりやすいのは、いわゆる脱腸と俗に言われるような、お腹の中に納まっていなければならない腸の一部が、ソケイ管などの天然のトンネルを通じて出てしまうヘルニアである。臍ヘルニアも、本来、生後まもなく自然に閉じなければならない臍帯部の腹壁が完全には閉鎖せず、腸や脂肪が突出したものである。

  それ以外にも、椎間板ヘルニアと言われるような、繊維輪という丈夫な袋に納まっていてクッションの役割を果たしている髄核と呼ばれる椎間板物質が飛び出して、脊髄を圧迫し、痛み、シビレ、ふらつき、麻痺を起こすようなヘルニアもある。他にも、小脳ヘルニア、会陰ヘルニア、横隔膜ヘルニア、腹壁ヘルニアなど、結構な種類がある。

  次のカルテはと手にとると、シーズーのマミちゃん、♀、2ヶ月齢。問診表にはワクチン希望とあり、デベソを診てほしいと付け足してある。大きいものでないのなら、安心して麻酔がかけられる6ヶ月齢位まで待って、希望があれば不妊手術と同時に整復術をするのも良い。しかし、大きいものであれば、嵌頓(かんとん)といって、突出した腸がヘルニアの脱出口によって締め付けられ、腸閉塞を起こして命に関わる事態になることもあるため、油断はできない。早期の整復術を勧めなければならないこともある。

  診察室に入ってもらう。

  「初めてのワクチンですね。元気や食欲はどうですか?」

  ニコニコしながらたずねると、答えを聞くまでも無いくらい元気そうなマミちゃんが、小さいしっぽをちぎれるほど振りながら、カルテに記入する手にじゃれついて来る。

  ワクチンも含め、子犬のときの一通りの予防の話をしながら、手でマミちゃんの相手をし、体温、脈拍、可視粘膜、心音と、身体検査を進めていく。先にお預かりした検便も問題無しとの結果が出た。喜んで仰向けになっているマミちゃんのすべすべのお腹に目をやると、デベソがどこにも無い!

  「特に問題はありませんので、ワクチンはお射ちできますが、問診表にデベソが気になると言うようなことを書いておられませんでしたか?」

  そういいながら、還納型のヘルニアではないかと思い、臍のあたりを触診する。出たり入ったりするタイプのヘルニアなら、ヘルニア口が指先に触知できるはずである。しかし、ややコリッとした手触りの少し盛り上がった立派に正常な臍である。

  この小さな盛り上がりをデベソと心配しておられるに違いないと気づき、言葉を選びながら、

  「ワンちゃんのヘソは人間みたいにへっ込んではないですから、これくらいの小さな盛り上がりは、全然正常範囲ですよ。心配要りません:^^」

  にっこり微笑みかけると、飼主さんの頬を少し紅らめたはにかんだような笑顔が返ってきた。

(文責:よしうち)


大阪市の南大阪動物医療センター

住所
大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
営業時間
午前:9:00 〜12:00
午後:16:00〜19:00(月 〜 金)
午後:13:00〜17:00(土・日・祝)
定休日
年中無休
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