2017年07月01日 栄養学

「食は文化なり」の話

「食は文化なり」の話

  世界の国々には風土や歴史に育まれたフランス料理やドイツ料理、イタリア料理、中華料理やインド料理、そして日本料理など、それぞれの民族や国家の文化や伝統を象徴した料理があり、「食は文化なり」と言われています。その文化を背景に新たな料理が登場し普及することで、それに対するアンチテーゼがもたらされます。

  例えば、ファストフードとそれに対するスローフードです。


【ファストフード(fast food)】
すばやく準備でき,ただちに食べることのできる食品。購入,保管調理などの利便性を高めたコンビニエンス食品や,軽食や間食に供するスナック食品などと一義的には同じ範疇に属する場合がある。牛丼や立ち食いそばなどをはじめ,ピザ,フライドチキン,ハンバーガーなどがある。一部大規模企業による寡占化が進んでいる。

(出典|ブリタニカ国際大百科事典)

【スローフード(slow food)】
ファストフード(fast food)の健康や情緒に及ぼすマイナス影響、ひいては食文化の荒廃への警鐘として提唱された言葉。食材や調理法、食べ方について、ファスト(速い)は人工的で不自然とし、本来的で自然なスロー(ゆっくり)に立ち戻ろうという運動が、1980年代後半にイタリアで始まり、環境問題の深刻化やBSEの発生など、食品にまつわる事件とも相まって、世界規模のNPO団体「スローフード協会」となった。各地で安全な食を求める消費者を結び、有機栽培や小規模経営の生産者を支持し、その環境をも守ろうとする食のエコロジー活動でもある。2000年にはスローフード・アワードが創設され、02年度の受賞者に佐賀県で古代米(赤米/黒米)を有機栽培する人が選ばれた。

(出典|(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」)


西欧の小麦や獣肉を中心とした料理に対して、ローフードやグルテンフリーフードが登場しました。

【ローフード(raw food)】
食物が持つ栄養素をそのまま摂取しようと、加熱しない生の状態か、48度以下で調理した食材を用いた食品。20世紀初めに欧米で提唱され、各国に広まった。

(出典|2011-06-07 朝日新聞 朝刊 生活)

【グルテンフリー(gluten-free)】
主に小麦などの穀物に含まれるタンパク質から生成されるグルテンを摂取しない食事療法。小麦粉を使ったパンや麺類などに代わり、ジャガイモ粉、米粉、玄米粉、トウモロコシ粉などを原材料とするグルテンを含まない加工品を摂取する。グルテンによって引き起こされる自己免疫疾患であるセリアック病、グルテン過敏症(不耐症)、小麦アレルギーなどの予防・改善のために生み出された。近年では免疫力の向上や食欲の抑制といった健康・美容効果が見込める食習慣として欧米で広く取り入れられており、日本でも注目を集めている。

(出典|(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」)


  このような動きは、食材の流通や加工法の進歩、健康への影響、食としての満足度や流行、栄養学の進展、商業的価値、宗教的な理由など、様々な要因によって変化し、グローバル化と相まって世界各地の食文化に溶け込んでいきます。

  日本でも、神戸牛や松阪牛などの霜降り肉全盛の「飽食の時代」から、五大生活習慣病(ガン、糖尿病、心疾患、高血圧性疾患、脳血管疾患)が社会問題化し、熟成肉に注目が集まり、糖質制限食がトレンドになったりしています。

【熟成肉】
生肉を腐敗させることなく、一定期間ねかせて熟成させ、うま味や甘味、香りなどを凝縮させた肉。一般に熟成肉とよばれているものは、牛肉をドライエイジングdry aging(乾燥熟成)させたもので、アメリカではドライエイジングビーフ(略称DAB)という。これは室温1℃前後、湿度70〜80%に管理された保管庫に、牛肉の塊をつるし、強い風を当てて乾燥させながら熟成させたものである。熟成肉の種類には牛肉や羊肉、鹿肉などがあり、いずれも熟成すると、うま味が増すうえ、繊維質が分解され柔らかくなって食べやすくなる。このほか、熟成法には、布などで肉を包んで乾燥を抑えながら低温でひと月からふた月ほどかけて熟成させるウェットエイジングwet aging(湿潤熟成)とよばれるものもある。熟成肉は、冷凍や冷蔵によって肉を保管できなかった時代に、干して保存したことがその始まりだと考えられている。1980年代のアメリカでは、こうした保存方法を応用することで、一般的な牛肉よりもうま味や柔らかさが増すことが注目され、ドライエイジングなどの熟成方法の研究が進められた。日本では、2008年(平成20)ごろからアメリカ産のドライエイジングビーフが話題を集め、その後、食材を扱う店だけでなく、ステーキやローストビーフなどを取り扱う料理店をはじめ、牛丼(ぎゅうどん)などのファストフード店にまで広がった。ただし、熟成肉に関する定義や製造方法、衛生管理方法は明確に規定されていないため、味にばらつきがあることや、管理のずさんなものが出回ることが懸念されている。農林水産省では、管理方法や品質を一定に保つため、JAS(日本農林規格)の品目にDABを加えることを検討している。

(出典|小学館 日本大百科全書/ニッポニカ)

【糖質制限食】
穀物類、麺(めん)類、イモ類、砂糖など、糖質(炭水化物)を多く含む食品の摂取量を低く抑えた食事。糖質の摂取量を抑えて食直後の血糖値の上昇を緩やかにし、食後高血糖を防ぐことにより、糖尿病の予防につなげられるとされる。低糖質食ともいい、糖尿病の食事療法として治療に用いられるものを、とくに糖尿病食とよぶ。肥満防止などの目的のほか、食後血糖値が1デシリットル当り180ミリグラム以上になると動脈硬化が進行するという報告もあることから、糖質制限食への関心が高まっている。一方で日本糖尿病学会では、総エネルギー摂取量を制限せずに、炭水化物のみを極端に制限して減量を図る糖質制限食は、肥満防止や糖尿病予防に効果があるとする十分な根拠に乏しく、現時点では積極的に勧められないと提言している。その背景には、日本人の総エネルギー摂取量が減少傾向にあるのに比べて、脂質の摂取量が増加しているという、栄養摂取に関する調査結果がある。こうした脂質栄養の過剰摂取が日本人の肥満や2型糖尿病の増加に大きく関与すると指摘されており、動脈硬化や脂質異常症を促進させる可能性も考えられる。ただし、こうした指摘に対しては、脂質の過剰摂取と動脈硬化による死亡率とは相関関係はないとする反論もある。日本糖尿病学会の提言では、それぞれの栄養素の摂取量は、エネルギー代謝に関する包括的な視点に立って評価すべきとして、単独の糖質制限食に注意を促している。

(出典|小学館 日本大百科全書/ニッポニカ)

  

  一方、動物たちの食文化はどうなのでしょう。動物たちが自身で食を選んでいたのは人と共に暮らし始める以前のこと。まぎれもなく生きるために捕食していたのですが、人との距離が縮まり、生活を共にするようになった頃から、人の食事の一部を得るようになったのです。

  そんな人の残り物をもらっていた時代が一変したきっかけは、150年ほど前、イギリスの船乗りたちの食事にありました。長期間航海することも多かった船乗りたちにとって、食料の確保は大変重要でしたが、当時はまだ食物を長期保存する方法が十分に発達しておらず、比較的保存性の良い「塩漬け肉とビスケット」が定番となっていました。航海が終わるたびに大量に食べ残ったビスケットは波止場に捨てられ、それを食べていたのが、近所に住む野良犬たちだったのです。

  当時、その様子を見ていたアメリカ出身の機械技師ジェームズ・スプラットは、美味しそうにビスケットを食べる犬たちの様子にヒントを得て、1860年に世界初のドックフードをロンドンで開発・発表し、後にそれを事業化しました。彼の名を取って「Spratt's Patent Meat Fibrine Dog Cakes」と名づけられた世界初のドッグフードは、小麦に野菜と牛の血をまぜてビスケット状にしたもので、現在のドライフードの原型といわれています。

  犬専用の食事(ドッグフード)の登場は当時の愛犬家たちの間でもインパクトが大きく、はじめは贅沢品とも言われたドッグフードでしたが、ドライで器を汚さず、手軽で便利なことから人気が高まり、徐々に愛犬に与える食事の定番としての地位を確立していきました。特に、アメリカやイギリスをはじめとした欧米の都市部では、ドッグフードを与えることがある種のステータスシンボルとして一大ムーブメントを巻き起こしたといわれています。

  その後、日本でも戦時中にドッグフードが米軍により持ち込まれると、その影響を受けて国内初のドッグフードが飼料業界大手より発売されました。イギリスでドッグフードが誕生してから100年後の1960年のことでした。当時の日本は高度経済成長の真只中にあり、動物を飼育する家庭が増え、残り物を与えられて単に番犬という存在だった犬たちが家族の一員に仲間入りし、ドッグフードは、徐々にその地位を確実なものにしていったのです。

  現在では、動物にペットフードというのは当たり前、むしろホームメイドの方が贅沢というのが一般的でしょう。いずれにせよ、動物たちには食べるか残すかの選択肢しかなく、個人的にペットフードを製造するというのも非現実的なことから、ペットオーナーにはペットショップやネットで販売されている商業的なペットフードを選択することしかできないのです。つまり、動物たちの食文化は、ペットフードメーカーの姿勢や理念に委ねられているのです。

  ペットフード草創期には手探りで、利便性や嗜好性に工夫を凝らして作られていたものも、動物たちの栄養学が進歩し、フードに含まれていなければならない栄養素やその割合が明らかにされるにつれ、NRC(National Research Council=米国科学アカデミーの学術研究会議)の動物栄養委員会による推奨値やAAFCO(Association Of American Feed Control Officials, Inc.=米国飼料検査官協会)のスタンダードによるいわゆる栄養基準というものが登場しました。1900年代初めのことです。これらの基準は最低限フードに含まれていなければならない栄養素を示したもので、日本にもほぼそれに準拠した総合栄養食の基準があります。

  これらの基準が提唱されて以降、動物栄養学の研究が盛んにおこなわれ、1940年頃には、初めての療法食が登場し、栄養学的に優れていることが重視される時代が到来しました。日本での療法食の幕開けについてはバックナンバー「食事療法/(Aug'09)ペットフードの話」をご参照ください。

  その後様々な変遷を経て、今日ではドライフードと缶詰以外に、セミモイストフードやビスケット状フード、棒状ジャーキー、パウチウェットフードなど、様々な形状のフードが流通していますが、給仕の利便性と輸送コストからドライフードが主役であることに揺るぎはありません。

  そのドライフードにも大きな弱点があります。嗜好性の悪さです。それを克服するために各フードメーカーがしのぎを削り、コーティングに使用するフレーバーの開発に余念がありません。嗜好性の高さはそのまま売れ行きに直結し、メーカーの命運を左右します。

  その一方で、嗜好性競争にも限界があり、「全ての動物たちが大喜びで必ず食べてくれる」フードが存在しないこともまた確かなのです。栄養学的にも十分及第点、嗜好性もそれなりに高いフードが各メーカーからズラリと出揃えば、ペットオーナーは最終的に何を基準にしてフードを選択するのでしょうか。メーカーの姿勢、テレビCM、獣医師の推薦、パッケージのデザイン、人それぞれといってしまえばお終いですが、近年、フード設計のコンセプトを前面に押し出したペットフードが目立つようになってきました。

  代表的なものに、ナチュラルフードと呼ばれるカテゴリーがあります。多くのフードでは原材料をいきなり加工してフードの形にするのではなく、例えば肉類であればミートパウダーのようなものに一次加工してストックします。そうしていくつかの一次加工品を混合して加工し、フードとして完成させるのです。製品間のばらつきがなく、常に一定の品質を保つことができますが、原材料の持つ本来の風味はありません。そこであえて原材料を直接加工してフードにしているのがナチュラルフードと呼ばれるもので、保存料も合成のものは使用せず、安全で高嗜好性であることをうたっています。保存料についてはバックナンバー「保存剤/(Jun'05)フードの話」をご参照ください。

  また、最近ではグレインフリー=穀物不使用を売り物にしたフードも登場しました。グルテンフリーをさらに一歩進めたようなもので、本来肉食だった動物には穀物を与えないというのがコンセプトとなっています。

  その他、油脂やフレーバーなどのコーティングをしないというコンセプトのフードもあります。フードそのものの旨みで十分な嗜好性を確保し、飽きの来ないフードであることが売りになっています。

  このように単に栄養学的に十分であることや嗜好性が良いということだけでなく、プラスアルファのコンセプトでペットオーナーに訴求し、実際に受け入れられもしているのです。ペットオーナーは自身の食文化に照らし、愛する動物たちのために良かれと思うものを選ぶ。味気無さの引き合いに出されてきたペットフードにも、ついに食文化と呼んでも良いような時代が到来したようです。

  動物たちが嬉しそうに残さずしっかり食べてくれて、なんだか最近体調が良さそうと思えるような、そんなペットフードに巡り合えた時に初めて、ペットオーナーは、「利便性や栄養のためだけにペットフードを与えてきたのだというある種の罪悪感」から解放されるのかもしれません。

(文責:よしうち)



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