2016年12月01日 猫学

「猫は夜行性?」の話

「猫は夜行性?」の話

  10月の本コラムでスティールヘッドの話を少し書きましたが、釣りには「時合(じあい)」という言葉がつきものです。時合とは、魚がエサをよく食べる時間帯のことをいいます。時合となるには、「潮まわり」「まずめ」「曇り」「雨」「風」などの様々な要素が関連しているといわれていますが、人の力では如何ともしがたい他の要素と比べ、時間の経過で必ず訪れる「朝まずめ」「夕まずめ」の時間帯には、自然と釣り人は気合が入ります。

  「まずめ」というのは、空が白み始めてから日の出まで(朝まずめ)と、日が隠れてから暗くなるまで(夕まずめ)の、薄暗い(薄明るい)ごく短い時間を指します。朝まずめと夕まずめは、プランクトンが海底から出てきて泳ぎ出し、それを小魚が捕食するので、それにつられて魚食魚が寄ってくるのです。同時にカモメやミサゴなどの魚を狙う鳥などの外敵も接近してきますが、薄暗ければ魚食魚が小魚を捕食するのに充分な最低限の明るさが確保されつつ、夜目の効かない鳥から身を守る暗さも同時に確保できるため警戒心も薄れ、時合となると考えられているようです。

  この「まずめ」の話は、何も魚たちに限ったことではありません。動物の行動様式に夜行性(ノクターナル= nocturnal)と昼行性(ダイアーナル= diurnal)があることはご存知でしょう。けれども夜行性だと信じられている動物の多くが、じつは薄明薄暮性(クリパスキュラー=crepuscular)と呼ばれる「まずめ」に最もよく活動する動物なのです。

  暗闇に爛々と光る猫の眼。夜目がきく猫は、いかにも夜に活発に活動しそうです。爛々と光るのは瞳の奥の網膜にタペタムという光を反射させる層があるからです。タペタムは弱い光を増幅し網膜が感じやすいようにする役目をしていて、人間の5分の1ほどの少ない光でも物を見ることができるといわれていますが、光が全くない状態ではさすがに何も見えません。猫も本来、クリパスキュラーな動物の仲間なのです。

  日本獣医生命科学大学の入交眞巳先生の行動学のセミナーのノートに、農場で放し飼いにされている猫の行動調査の論文が紹介されていました。猫の1日の行動をパーセンテージで表すと、睡眠40%、休息22%、狩り14%、グルーミング15%、移動3%、食事2%、その他4%という結果が出ています(Panaman, 1981)。そして、農場猫はいったい、いつ寝ているのかというと、夜間なのです。夜の間ぐっすり寝て、明け方になるといそいそと動き出します。なぜ明け方かというと、鳥などが活動を始める時間帯だからです。農場で飼われている猫ですから、飼い主さんからごはんをもらいますが、それ以外にも、鳥やネズミなどがいればやはり猫の本能で狩りをしたくなります。明け方以外にも、日が沈む頃もやはり夜行性のネズミなどの小動物が動き出す時間帯ですので、猫も活発に動きます。「獲物」がうろつく時間帯に「狩り」のための活動をするわけです。農場猫は夜ぐっすり眠る分、昼間はうたた寝をする以外は、起きていることが多いようです。ごはんをもらったり遊んでもらったりと、飼い主さんとコミュニケーションをとるのは飼い主さんが起きている昼の時間帯です。



「ビデオのネズミでも気になります。」(ニノ、マシュー、パンツ)

  ところが、都会に住む野良猫はというと、「夜中に活動的」という調査結果があります。都会の暮らしは、猫にとって昼よりも夜の方が「安全」だからです。車や人通りも少なくなる夜の方が、事故に遭ったり恐い目に遭ったりしにくいと猫は考え、あえて夜出歩くのです。都会の夜は様々な照明があり、常に薄暮状態で動きやすいというのもあるでしょう。

  都会の野良猫の主な食事場所は、店舗裏のゴミ箱などです。農場猫と同じように明け方動き始める鳥や、夕暮れ時に動き始めるネズミなどを捕ることもありますが、寝る時間帯と起きている時間帯は、農場猫と都会の野良猫とでは真逆なのです。

  全く行動パターンが違うように感じられる農場猫と都会の野良猫ですが、農場で人間に守られて生きている猫は人間と共に眠り、都会で人間から少し距離を置いて生きている野良猫は、人間が活動している時間帯に眠る、つまり、人間の行動パターンに応じて行動していることに違いはありません。人間と人間社会の中で生きていく生き様が違うだけなのです。屈折した人間との関係を形作らざるをえない都会の野良猫は、自由きままなのではなく、本当は寂しいのかもしれません。

  家庭で飼われている猫も、人間に守られ、ごはんに不自由することはないでしょう。その行動パターンはというと、飼い主さんのライフスタイル次第。ご家族の年齢、様々な職業や勤務時間、多様な住環境、どんな境遇であっても、猫は文句ひとつ言わずに飼い主さんに寄り添ってくれているのです。明け方、ご家族がまだ深い眠りについている頃、猫たちは「ハンティングの時間!」とばかりに目を覚まし、そして「ご飯!ごわーン!」と催促することがあります。何かのはずみで「まずめ」の狩猟本能が目覚めたとしても、許してあげようじゃありませんか。彼、彼女らなりの様々な要素の絡み合った「時合」なのですから。

(文責:よしうち)



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