2002年04月01日 整形外科

エルボーとヒップの話

エルボーとヒップの話

  日本人は流行に左右されすぎるのか、流行に左右されるのは全世界共通の現象なのか、自分には分からない。しかし、この間までシベリアンハスキーがやたらと多くなったなと思っていたら、こんどはゴールデン・リトリバー。理由はいろいろとあるのかもしれない。「コンパニオンアニマル」という概念が社会に受け入れられ、きちんとシツケのできた動物に育て上げてこそ、動物も幸せなのだと、みな感じはじめているのかもしれない。そのこと自体は、非常に良いことである。しかし、いったいどのくらいの数のG・リトリバーの子犬が新しいご主人を待っているのだろう。人気犬種の宿命というべきか、無理無謀な交配や繁殖が行われていないのだろうかと、心配になってくる。

  次のカルテはと手にとると、G・リトリバーのナンちゃん、10歳。両手を引きずるように歩くとの主訴である。診察室に入ってもらう前に、自分から待合室に出てゆく。歩き方を見るために、ナンちゃんのご主人に声をかけ、一緒に駐車場まで行って、歩いてもらう。ご主人の「マテ」の声に賢くその場に留まるナンちゃん。ご主人はその場からナンちゃんを見ながら後ずさりして10mくらいは離れたろうか。「オイデ」の合図で嬉しそうにご主人に向かって歩いてゆく。両の手はまっすぐに出ない。大げさに言えば昔の浪花漫才の大御所、花菱アチャコのように外から回すようにして前へ出す。アーやっぱりと、いやな予感が的中してしまった。肘関節の形成不全だろう。ご主人にOKを出して診察室に入ってもらう。かなり太目のナンちゃんを二人で診察台の上にのせ、右手、左手と触診してゆく。肘をしっかり伸ばそうとすると、痛みがあるのか、ナンちゃんは泣きそうな顔になる。この病気の話をご主人にじっくり話さねばならない。そうすれば、次はご主人が泣きそうな顔になってしまうに違いない。ひどい二次性の関節症が出ていなければよいのだがと思いながらレントゲン検査をする。両の手の肘の部分をそれぞれ屈曲位と伸展位で撮影する。

  肘関節の形成不全は遺伝性の関節疾患で、簡単に言えば、前腕を形作る橈骨と尺骨のアンバランスな発育のために、上腕骨の滑車を取り囲む滑車切痕の不整列を生じる疾患である。生後6ヶ月くらいから診断可能なことが多いのだが、臨床的な症状は高齢にならないと出ないことが多い。また両の手が冒されるため跛行に気づきにくいことも確かだ。片側だけならなんか変だと感じる動きも、両側同時だと違和感が少ない。軽度なものから重度なものまで、さまざまな肘関節の二次変化を伴い、ワンちゃんたちを苦しめるのである。R・リトリバー、G・リトリバー、バーニーズ、ロットワイラーなどが好発とされている。

  ナンちゃんのレントゲン写真がプリントされてきた。ご主人ともどもシャーカステンに懸けたフィルムを見ながら、肘関節を読んでゆく。思っていたほどひどくはない。二次性の関節症はあるのだが、関節面の不整列はあまりない。若いときの橈骨と尺骨のアンバランスで関節軟骨はやられたのだろうが、その後どうにか骨が伸びて不整列が解消されたのかもしれない。

  「肘関節の形成不全と考えていますが、かなり軽度なものですね。」

  フィルムがプリントされてくるまでの間にご主人に肘関節の形成不全についてレクチャーしておいたのだが、そのときに暗くなっていた顔がにわかに明るくなってきた。

  「二次性の関節症は出ていますので、生涯の問題と捕らえねばなりませんが、内服と体重のコントロール、運動の制限で乗り切ってゆきましょう。」

  薬の飲ませ方や減量プログラムについて説明しながら、この程度の形成不全でよかったと、胸をなでおろした。

  欧米では肘関節形成不全は関節異常を引き起こす重要な疾患と考えられ、スクリーニングの世界的な統一を念頭に国際研究グループから世界小動物獣医師会への提言も考えられている。しかし比較的日本では報告が少ない。日本での好発犬種は比較的体格の小さいものが多いことや、日本の飼育の仕方が欧米と比べて激しい運動させないことなどが、その理由として考えられている。しかし、これらの犬が人気犬種なってそう長い年月が経過したわけではない。人気犬種になって欧米からの輸入も相当に増加したことを考えに入れれば、この疾患は今後増加してくるとにらむのが妥当だろう。

  肘関節形成不全(Elbow dysplasia)と同様に、股関節の形成不全(Hip dysplasia)がある。やはり遺伝的な疾患でひどければ股関節が自然に脱臼してしまうほどである。好発犬種には共通性があり、肘関節よりはるか以前から問題になっている。ご存知の方も多いだろう。肘にしろ股にしろこの疾患に冒されたワンちゃんたちは悲惨である。早い時期のスクリーニング検査と、適度な運動・適度な体重が重要である。決してこれらの犬種は肥満させてはいけない。早期に発見し、適切に飼育すれば、遺伝形質を持っていても、発症を遅らせたり、発病しなくてもすむかもしれないからである。

  われわれの仕事は、もちろんこれらのワンちゃんたちを治療することなのだが、それと同時に、これらのワンちゃんたちの子孫を残さぬよう指導することも重要なのだ。日本での統計はないのだが、欧米では5頭に1頭はこの遺伝形質を持っているといわれている。成長の早い、体重のノリの良い、体格の大きい固体が好まれたためと考えられている。この不適切な繁殖という人間が犯した過ちのために苦しむ動物がいることは悲しい限りだ。この遺伝形質のコントロールには膨大な月日と労力を必要とすることはまちがないが、そのほんの一部でもわれわれの手で何とかしたいものである。

(文責:よしうち)

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