2018年03月01日 感染症

「フィラリア症の正体」の話

「フィラリア症の正体」の話

ボルバキア (Wolbachia pipientis) は節足動物などの体内に生息する共生細菌の一種で、特に昆虫では高頻度でその存在が認められます。

(ボルバキア)
 

地球上に初めて生物が誕生したとされるのが約40億年前。そして、35億年前にはすでに古細菌と真正細菌が存在したとされています。そして原生代には、古細菌から原始真核生物が分岐しました。ごく初期の真核生物(核を持つ生物)の誕生です。

(原始真核生物)

ただ初期の真核生物はミトコンドリアなどの細胞小器官はなく、核膜だけがある状態で、酸素がない環境でしか生きることができませんでした。一方で、酸素を物質分解に積極的に使い、エネルギーを調達する原核生物が現れ、生き残っていったのです。この原核生物を初期の真核生物が取り込み共生することで生き残ろうとしました。この取り込まれた原核生物が、今の細胞内器官であるミトコンドリアになったのではないかと考えられているのです。私たちの体の細胞の一つ一つにはそれぞれ2,000匹ほどのミトコンドリアが泳ぎ回っているのです。

(ミトコンドリア)

ボルバキアは、このミトコンドリアのように宿主に入り込み、母から子に伝わり、昆虫宿主の生殖システムを自身の都合のよいように変化させることから、利己的遺伝因子の一つであるとされています。例えば、ボルバキアに感染したメスは受精による生殖をやめ、単為生殖するようになります。つまりオスを必要とせずに次世代を残すのです。そして、母系伝播するボルバキアはオスなしで世代をつなげることができるようになるのです。宿主の生殖にオスは不要となり、ボルバキアにとって有利となります。

 

犬や猫などのペットの病気にフィラリア症がありますが、そのフィラリアにもボルバキアの共生が高頻度で認められることが以前から知られていました(100%という報告もあります)。そして、研究が進むにつれ、私たち獣医師がフィラリアによる症状だと考えていた肺や腎臓の血管内皮の炎症が、ボルバキアの表面蛋白によるものだということが分かってきたのです。また仔虫であるミクロフィラリアやフィラリア成虫が死滅する時、共生しているボルバキアも生きてはいられないのですが、ボルバキアの菌体成分にはエンドトキシン(菌体外毒素)が含まれており、それが放出されることによって、ショックを含む様々な症状が引き起こされる可能性があるのです。

 

ボルバキアはテトラサイクリン系の抗生剤に感受性があります。この抗生剤を使用してボルバキアを除去するとフィラリアは生存できなくなるか生殖不能となることも分かってきました。つまりボルバキアを除去すると、ボルバキアによる肺や腎臓の炎症は抑えられ、フィラリアはあまりミクロフィラリアを産まなくなり、徐々に死滅していくのです。

 

フィラリア症は予防が最も大切であることは言うまでもありません。残念ながら感染してしまったときに従来は、外科的に成虫を摘出するか、ヒ素剤で成虫を駆除するか、予防剤を飲ませてフィラリアの寿命を待つしかなかったのですが、外科は費用が掛かりリスクも伴いますし、成虫の駆除は駆除後のショックや肺動脈塞栓症が問題でした。また、感染している状態での予防にはショックのリスクがあり、しかも45年というフィラリアの寿命を漫然と待つ間に様々な症状が出ることもあります。そこで、テトラサイクリン系のドキシサイクリンという抗生物質を1か月間投与しボルバキアを除去したのちに予防を開始することで、ショックなどの症状を回避しながらフィラリアをより短期間で死滅へ向かわせることができるという、一歩進んだ治療が可能となってきたということなのです。

 

ボルバキアとフィラリアの共生に関連した研究は現在も様々なところで続けられています。さらなる知見もきっと得られることでしょう。



けれども、私たちはこれらの研究に甘んじることなく、予防という最善の方法を推し進め、フィラリアの絶滅を目指すべきでしょう。グズグズしているとそのうちにフィラリアとボルバキアが共生という枠を超え、さらに邪悪な一つの生命体に進化してしまうかもしれないのですから。

 

(文責 よしうち)



記事の執筆者

南大阪動物医療センター 院長 吉内 龍策
山口大学農学部獣医学科卒業。1980年に当施設の前身となる「吉内動物病院」を開院。1992年に設備を拡張新設し、「南大阪動物医療センター」と改称する。

(公社)日本動物病院協会 副会長
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