2018年06月01日 人と動物の関係学

「続・ヒトの起源、イヌ・ネコの起源」の話

「続・ヒトの起源、イヌ・ネコの起源」の話

ちょうど2年前の6月本コラムに「ヒトの起源、イヌ・ネコの起源」の話を書かせていただきました。その中で、「現在の考古学的な知見や分子系統学的な研究について述べてきましたが、今後の研究の進展によっては、新たなストーリーが書き加えられることもあるのかもしれません。」と書いていたのですが、本年4月から3集にわたって放映されているNHKスペシャル「人類誕生」に興味深いトピックスがありました。

400万年ほど前にアフリカに出現した「ラミダス猿人」から現在の私たち「ホモ・サピエンス」に至るまでには、多くの人類が出現しては絶滅していったのです。下の挿絵の左から右へと一本道で進化を遂げてきたわけではありません。

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とりわけ、ホモ・エレクトスは一番に出アフリカを果たし、アジア各地に広がりました(180万〜5万年前)。北京原人やジャワ原人もその一族だったと考えられています。アフリカに残ったホモ・エレクトスはホモ・ハイデルベルゲンシスに進化し、そこから枝分かれしヨーロッパに渡ったのがアンデルタール人です(30万年前)。最後までアフリカに残ったホモ・ハイデルベルゲンシスがホモ・サピエンスに進化し(20万年前)、現在の私たちの直接の祖先となったのです。(下図参照)
 
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氷期などの幾多の困難を乗り越えて今日の繁栄を築いたホモ・サピエンス以外の人類は、残念ながらすべて絶滅してしまいましたが、2015年にイスラエル北部の洞窟でホモ・サピエンスの骨盤(5.5万年前のもの)が発見され、その40km先の洞窟で発見されていたネアンデルタール人の化石と同時期のものであることが確認されたのです。この発見により日常的に顔を合わせてもおかしくないごく近い距離で暮らしていたことが確かめられました。

ドイツライプチヒのマックス・プランク進化人類学研究所で、驚くべき発見がありました。世界各地の現代人のDNAに、数パーセントのネアンデルタール人のDNAが含まれていることが解ったのです。また、アフリカのサハラ砂漠より南に住む現代人のDNAを調べたところ、ネアンデルタール人のDNAはほとんど見当たらなかったのです。同研究所のペーボ博士によれば、北へ渡ったホモ・サピエンスはネアンデルタール人と交雑し、アフリカに残ったホモ・サピエンスはネアンデルタール人と出会うことがなかったので、交雑が起きなかったと考えられるとのことです。こうして、ネアンデルタール人という種族は絶滅してしまいましたが、その一部は私たちのDNAとして(もちろん日本人の私たちにも)代々受け継がれているのです。

なぜホモ・サピエンスだけが絶滅しなかったのか。ネアンデルタール人の骨格から、彼らの方がホモ・サピエンスより体力も知能も優れていたという推測がなされています。けれどもその能力がゆえに小集団での生活が彼らのライフスタイルとなり、個の能力で狩猟などをこなしていたのです。一方、ホモ・サピエンスは非力で小さな動物や鳥などを獲って生活し、次第に大きな集団=社会を形成し、原始的な宗教すら芽生え、より結束の強い社会を形成していったのです。この社会の形成は道具の発達においても、一人の工夫が集団全体に共有され、より効率的な進歩が促されました。さらに地球規模の気候変動に対しても食料の支援などで乗り切ることを可能にしたと考えられています。

イエイヌ、イエネコの誕生についての画期的な発見は今のところありません。ハイイロオオカミからイエイヌへ、リビアヤマネコからイエネコへという定説に変化はありませんが、人為選択や選択的進化についての仮説には様々な意見が飛び交っています。

ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の交雑について、NHKスペシャルでは、家族と離れ離れになったネアンデルタール人の子供をホモ・サピエンスが保護して育て家族として受け入れるストーリーを紹介しています。つまり、この時期のホモ・サピエンスには、種の保存本能以外に、他者を思いやりいたわる心、慈しみの感情が芽生えていたことが想像されます。

そのホモ・サピエンスがオオカミやヤマネコの子供を保護した時に、いったいどうしただろうかと想像を巡らせてしまいます。食料に困っていない状況であれば、食べ物を与えるといった行動に出ても不思議はありません。オオカミやヤマネコがヒトに近づいてきたのか、反対に人から近づいて行ったのか。その頃のホモ・サピエンスがヒト以外の生き物の生態をどこまで観察し、理解することができたのか。ヒトと動物の関係には本当に興味が尽きません。

比較ゲノミクスによる遺伝距離の測定において、今回のホモ・サピエンスとネアンデルタール人の交雑のように、進化の方向に逆行するようないわゆる「かけ戻し」交雑は、測定結果の評価を大きく混乱させます。人類誕生、イエイヌの誕生、イエネコの誕生が詳らかになる日はまだまだ遠いのかもしれませんが、私たちホモ・サピエンスに他者を思いやる「慈しみの気持ち」が芽生えたからこそ、絶滅をまぬかれ、イエイヌやイエネコの誕生につながったのだと、その奇跡に喝采を送りたい気持ちでいっぱいです。
(文責 よしうち)

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