2018年09月01日 猫学消化器

「三臓器炎」の話

「三臓器炎」の話

発生学(embryology)は、現在では発生生物学(developmental biology)とも言われています。すべての多細胞生物は,その一生を受精卵という1個の細胞から始め,質量ともに劇的な変化の過程を経て,成体となります。この過程を観察,記述し,さらにそこで起きる変化の原因を探究するための生物学の分野を発生学(発生生物学)と呼びます。遺伝子が発生を制御するメカニズムは、iPS細胞を心筋や神経などに分化させる技術と密接に関わっているなど、生物学や医学の根幹を担う分野となっています。

下図はヒトの膵臓の発生を示したものです。

破線で示された位置での断面の模式図が下図です。
  (出典:ムーア人体発生学原著第8版) 
十二指腸の成長と回転(矢印)により腹側膵芽が背側膵芽のほうへ運ばれ、癒合します。胆管は十二指腸の回転と共に腹側面から背側面に運ばれます。膵管は背側膵管と腹側膵管の合一によって形成され、背側膵管の近位部は閉塞することも副膵管として存続することもあります。

「個体発生は進化の過程を繰り返す」と多くの研究者が考えています。人の胎児は受胎30日目から40日目の間に、魚類→両生類→爬虫類→原始哺乳類という進化の諸段階を繰り返すような発生プロセスをたどり、さらに人としての発生プロセスを経て誕生するのです。犬や猫も全く同様な発生プロセスをたどり、犬や猫の祖先と私たちの祖先とが分岐したところから、独自の進化を遂げた発生プロセスに入るということなのです。

上の模式図の2段階目までは、人も犬も猫も同じプロセスをたどりますが、最終段階で違いが出てきます。人と猫は腹側膵管が主膵管になり、犬は背側膵管が主膵管になるのです。

人と猫では背側膵管が副膵管として存続することがあることも共通しています。このことが、いわゆる「猫の三臓器炎」と呼ばれる病態と密接に関連しているのです。

犬と猫の肝疾患の傾向を比較すると、犬では実質性の肝疾患が多く、猫では胆管炎が多いことが分かっています。近年、猫では三臓器炎の存在が知られてきました。猫の総胆管と主膵管は吻合しており、胆汁と膵液は一つの開口部から小腸に分泌されます。すなわち小腸・肝臓・膵臓は上図のように全て連結していて、どれか一つの臓器で炎症が発生すると、残り2つの臓器にその炎症が波及することがあり、このような疾患を三臓器炎と呼んでいるのです。犬では胆管と膵管が別々に小腸に開口しているため、このような病態は見られず、猫に特異的な疾患として関心が高まっています。

・ 炎症性腸症「慢性腸症」の話 参照)
・ 膵炎「嘔吐」の話 参照)
・ 猫の胆管炎・胆管肝炎症候群

これら3つの疾患は猫において単独であるいは併発して認められる一般的な疾患です。特に慢性膵炎には特有の症状がほとんどないため、胆管炎や慢性腸症があれば同時に膵炎が起きていないか検査するというように、三臓器炎を意識することが重要になってくるのです。

ところで、猫と同じような構造を持っている人ではどうなのでしょう。
「炎症性腸症における膵臓の異常」というタイトルの論文をみつけました。

 
同じ構造を持っている者同士、同じ悩みがあるのですね。

(文責 よしうち)

記事の執筆者

南大阪動物医療センター 院長 吉内 龍策
山口大学農学部獣医学科卒業。1980年に当施設の前身となる「吉内動物病院」を開院。1992年に設備を拡張新設し、「南大阪動物医療センター」と改称する。

(公社)日本動物病院協会 副会長
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