2019年06月01日 社会事象

「テオブロミン中毒」の話

「テオブロミン中毒」の話

チョコレートは老若男女を問わず人気の高い代表的な嗜好品です。一方で、人と暮らす動物たち(特にワンちゃん)にとっては、ネギ中毒と並んで代表的な食物中毒の原因でもあります。

そのチョコレート中毒の様子が、ここ何年か変化してきたように思います。来年で臨床に携わって40年という自分の経験でも、以前はほとんど無症状か高脂肪なものを食べたことによる悪心や嘔吐くらいのものでしたが、最近では明らかに神経症状を呈しているワンちゃんを診察することがあります。

その理由は、高カカオチョコレート。カカオポリフェノールブームに始まり、高カカオや含まれる食物繊維がダイエットに効果があるといった情報から人気に火が付き、製菓各社から様々な高カカオチョコレートが発売され、流通量が急激に増えているのです。

ざっくり検索しただけでもカカオポリフェノールの効果として以下のような事柄が見つかりました。

・リラックス効果・抗ストレス効果
・記憶や学習効果を高める
・大脳皮質の量を増やす
・便通改善
・肥満抑制
・善玉コレステロール値を増やす
・動脈硬化予防
・血圧を下げる
・大腸がんの抑制
・炎症性腸疾患(IBD)の予防
・糖尿病予防

研究室レベルのデータが、日常の高カカオチョコレートの摂取で実際にどの程度健康面に反映されるのかは、大規模な調査を待つしかありませんが、テオブロミンやカフェインなどの生理作用を持つ成分が含まれているため摂りすぎには注意が必要でしょう。

そのテオブロミンが動物たちにとっては問題なのです。The Merck Veterinary Manualによると、テオブロミンの急性毒性は次の通りです。

LD50(半数致死量/致死量の指標の一つ)は100~200mg/kg(猫では80~150mg/kg)と報告されているが、個体のキサンチン誘導体に対する感受性の違いにより、より少ない用量でも重篤な症状や死に至る場合もある。一般的に犬では、20 mg/kgの摂取で軽度の兆候(興奮、嘔吐、下痢、多喝)が見られ、40-50 mg/kgで心筋毒性が、60 mg/kg以上で痙攣が現れる可能性がある。

実際に高カカオチョコレートに含まれているテオブロミンの量はどのくらいなのでしょうか。販売者に表示義務があるわけでもなく、一般的な食品成分分析表にも記載がありません。厚生労働省の外郭団体・独立行政法人 国民生活センターが平成19年に行った調査結果が公表されているだけです。その中で示されている分析データは次のようなものです。

 

重篤な中毒症状を呈するテオブロミンの用量を100mg/kgとすると、体重5kgのワンちゃんでは、500mgのテオブロミンということになります。500mgのテオブロミンは90%程度の高カカオチョコレートなら50gで摂取できてしまいます。色々な包装があると思いますが、一口サイズ1枚=5gのものなら10枚程度食べてしまうと危険ということになります。昔ながらのミルクチョコレート100g中のテオブロミンは250mg程度ですので、ミルクチョコレート1枚50gとして、4枚食べるのと同等ということですね。

 

以前はワンちゃんが致死量を食べるというのは非現実的だろうと高をくくっていたのですが、高カカオチョコレートの登場で現実のものとして捉えなくてはならなくなったと思っています。人にとってはありがたいものでも、動物たちの口には入らないように気を付けないといけませんね。

今回このコラムを書くにあたって色々と下調べをしましたが、高カカオチョコレートのパッケージやCMには、これでもかというほどにカカオポリフェノールの含有量の表示がありました。もし少しでも製菓会社の方々に余裕があるのでしたらテオブロミンの含有量も記載していただけたらと、獣医師として願わずにはいられませんでした。
(文責 よしうち)

記事の執筆者

南大阪動物医療センター 院長 吉内 龍策
山口大学農学部獣医学科卒業。1980年に当施設の前身となる「吉内動物病院」を開院。1992年に設備を拡張新設し、「南大阪動物医療センター」と改称する。

(公社)日本動物病院協会 副会長
(公社)大阪市獣医師会 監事

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大阪府大阪市平野区長吉長原3-5-7
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